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妖怪に命を狙われる
しおりを挟む聖魔法を取得するという目標を掲げてから1週間後、異世界召喚により異世界人が現れたということが正式に王家から国民に知らされた。
わざわざ知らせる必要があるのかと俺は思ったが、どうやら約600年前の異世界人が治癒魔法を使えたことは有名な話であり、多くの人々の命を救った伝説として語り継がれている。
これにより異世界人である俺への期待値が国民の中で上がり、活気が溢れ国が盛り上がるため、発表をしたそうだ。御披露目パーティーやパレードの案まで出ていたそうだが俺がそこは断固拒否した。自分が注目の的となるのも人の多い煌びやかな場も苦手だ。
国民の期待を考えると聖魔法じゃなくて治癒魔法を取得出来るようにならないとまずいか?と一瞬思ったが、聖魔法を取得出来れば国を救うことになるし期待に背くことはないだろうと開き直った。
この1週間はおじいちゃん先生に俺の目標を伝え、いろんなことを教えてもらっている。攻撃特化型魔法、防御特化型魔法に大きく分けられる魔法の種類や特性、使いすぎると魔力酔いを起こして危険なデメリットなどについても詳しく教えてもらった。
おじいちゃん先生にも約600年前の異世界人が治癒魔法を使えるようになった経緯は分からず、魔力が突然ふって湧いてきたとしか考えられないと言われたが、それについても調べてくれるそうだ。
最後の異世界召喚から約600年もの間があいたのは、おじいちゃん先生曰く単純にわざわざ膨大な魔力を使って異世界人に頼る問題事がなかったから、ということだった。
今回は聖魔法を使える子供を俺に生ませるために3人がかりで召喚したというが、今までは十分な聖力が1人の王族によって賄えていたし、治癒魔法が使える人間も今は数こそは少ないものの国内にいるそうだ。王宮にも治癒魔法が使える王族専属医師が常にいるのだという。
それならやはり、治癒魔法より聖魔法を取得するほうがみんなのため、強いては俺のためになるなと思った。
魔力の使い方が上手だというライナス第一王子に教えを請おうとしたが、忙しいだの何だの言われて会ってもくれない。お前のためにも聖魔法取得したいんですけど?と思いつつ、忙しそうなのは本当らしいからあまり急かさず彼の時間が取れるのを待つことにした。
そんなわけで今は毎日おじいちゃん先生の授業と、アルウィンから毎日魔法を見せてもらったり浄化魔法をかけられることによって魔力の流れを疑似体験して魔力の感覚を掴もうとしている。
毎日合法的にアルウィンに触れることが出来てドキドキしているが、真剣に付き合ってくれている彼に失礼だと思い俺も真剣に取り組んでいる。
そんな勉強の毎日の中で、王宮に緊急通報が入ったのは、俺が異世界に来てから2週間が経った頃だった。
「た、大変です!アルウィン、至急支度を!」
「デロリー様、どうされたのですか」
「大変なことが起こっているのです!妖怪が…妖怪たちが妖怪村を出て、王宮に向かっているようなのです!」
蒼ざめた顔に血管が膨れ上がり血の気の引いた唇でそう叫んだ宰相の言葉に、アルウィンも俺も食べていた昼食のスプーンを置いて音を立てて立ち上がる。
人間に干渉しないよう、基本的に村から出ることがないと言われていた妖怪が村を出て王宮に向かっている。前代未聞のことだった。
「数は?どのくらいです?妖怪だけで獣人はいませんか?」
「最低でも約50体確認できたと報告が入っています。獣人の姿は確認していないとのことです」
「途中の村や街に被害などは?」
「真っ直ぐ王宮に向かっているようで住民には目もくれません。各自治体が住民に屋内待機命令を出し、各地の騎士たちも手を出していませんので被害は今のところありません。至急、王都内にいる騎士、魔導師は全員王宮に集まるようにとのご命令です!アルウィンも急いで向かって下さい!」
「ミトはどうすればよいのです」
「ミトを1人にするわけにはいきませんし、とりあえず一緒に行きましょう」
「分かりました」
一気に緊張感を滲ませた顔のアルウィンと視線を交わす。俺は勉強漬けの毎日だからこそ分かる異様な事態に、緊張で喉が渇くものの水を飲んでいく余裕もなく、俺たちはすぐに王宮へと向かった。
俺たちの部屋がある塔と王宮は馬車で1分ほどしか離れていないが、その間がやけに長く感じられた。続々と王宮に騎士や魔導師が到着してくる様子は圧巻で、異様な雰囲気に包まれていた。
玉座の間に入ると、既に到着していた騎士や魔導師からの視線が俺たちに集中する。アルウィンの存在感のせいかと思ったが、よくよく考えれば召喚されたと発表されたばかりの黒髪黒目の異世界人である俺を見ているのだと分かった。
「皆様、お静まり下さい」
アルウィンと同じ黒地に銀の刺繍が入った制服を着た騎士、深緑色のローブを着た魔導師で固まり整列する中、アルウィンと並んで一番端に立つ。
騎士も全員魔法を使えるが剣術と組み合わせて闘う者は騎士と分類され、魔法のみを使って闘う者を魔導師と分類されるとおじいちゃん先生に習ったばかりだった。
反対側の端にはライナス第一王子と大神官の姿も見える。大神官とは目があったような気がしたから軽く会釈をしておいた。全員集まったのか、宰相が声をかけるとそれまでざわついていた空気がピタリと止まった。
「アンガス国王様がお成りになります」
その声と共に玉座の間に入室してきた国王。その姿は威厳に溢れ、空気を一瞬で張りつめたものに変化させる威圧感があった。俺と話していたときはそこまででもなかったのに、こういう姿を見ると本当に一国の王なんだなと実感する。
国王が玉座につくと、騎士、魔導師が一斉に左胸に手を当てながら膝をつき頭を垂れた。俺もおじいちゃん先生から習った敬礼の姿勢をアルウィンをお手本に取る。すると国王が重々しく口を開いた。
「みなに集まってもらったのは他でもない、国の有事が迫ってきておる。これまで大人しくしていた妖怪が妖怪村を出てここ、王宮を目指しているとのこと。これについて理由が推測出来る者はおるか」
国王の瞳を引き寄せられざるを得ない力のこもった声に、誰も理由が分からないのか答える者はいない。その中で、ゆっくりと手を挙げて玉座の前に出たのはルーサー大神官だった。
「アンガス国王様、大神官ルーサー・ジェンキンスが発言致します」
「発言を許す」
「突然妖怪たちが妖怪村を出てこちらに向かっている理由ははっきりとは分かりませんが、近日で起こった出来事といえば異世界召喚をして異世界人が現れたという発表をしたことでございます」
「ふむ」
「よって、異世界人であるミト、もしくは異世界召喚という行為事態に何か原因があるのかもしれません」
自分の名前を出されてドキリと心臓が悪い音を立てる。俺は召喚されただけなのに自分に理由があるかもしれないなんて、とんだとばっちりだ。
「なるほど、一理ありそうだな」
「今回の異世界召喚は、異層界から妖怪や獣人、妖精たちがやって来てから初めての召喚となります。前例のないことですので何があってもおかしくありません」
「確かにそうかもしれんな」
「しかし妖怪たちは人間から攻撃をしないかぎり手を出してこないはずでございます。よって、彼らが王宮に到着した際にはまず国王から対話を持ちかけ、彼らの狙いと要望を聞き出すのが懸命な判断かと」
「ふむ、その通りだ」
大神官の言葉はかなり説得力があり、俺も緊張で強張っていた身体が少し緩む。国王も納得した様子を見せ、大神官は元の位置に一礼して戻った。
「みなのものに命ずる。妖怪には対話を試みるため、決してこちらから攻撃をしてはならん。しかしその対話が破綻し、相手から攻撃される可能性も捨てきれない。よって、騎士は前線で、魔導師は後方でいつでも迎え撃てるよう、攻撃体制を整えておけ。異世界人のミトはルーサー大神官と共に王宮の奥で待機しておくように」
国王の命令に全員が声を揃えて頭を垂れる。しかしそこへ、宰相と同じ紺色のローブを着た人間が足早に俺の前を走り抜け、宰相に耳打ちした。宰相は一気に表情を強張らせると、玉座の前に出て口を開いた。
「アンガス国王様、宰相デロリー・フィッチが発言致します」
「なにごとだ」
「今入りました報告によりますと、妖怪たちが王宮の門前に到着し、国王と異世界人に会わせろと今にも門を蹴破ってきそうな勢いで待っているとのことです」
「なんだと?」
「30人の門番たちがおりますが、早く出てこなければ1人ずつ殺していくと申しております」
「何ということか!すぐに門前に向かおうではないか」
「し、しかし!国王様に攻撃をしてこないとも限りません!大変危険でございます。国王様は至急身をお隠し下さい」
「ならぬ。彼らの要望はわしとミトなのであろう。ならば対話を穏便に進めるためにも、彼らの要望をのまねばならぬ」
一気に玉座の間に緊張が走り、ざわめきが満ちる。俺は手足が震えるのを我慢して、アルウィンに縋るように視線を向けた。アルウィンは険しい表情をしながらも大丈夫だと音には出さず唇を動かす。それだけで少し心が落ち着き、俺は頷き返した。
「ミト、怖いとは思うが一緒に来てくれるか」
「は、はい!」
「恩に着る。さっそく参ろう。みなのもの、それぞれの持ち場に着くように!アルウィン、お前は我々のそばで護衛を頼んだ。お前の力を信じておる」
「父上!僕も父上のおそばにいさせて下さい」
「ライナス…わしに何かあったときに国を動かすのはお前だ。ライナスは安全な場所にいなさい」
「いいえ!僕は数少ない二属性持ちです。必ず力になりますゆえ!」
「…そうか。今議論している時間はない。十分気をつけてそばにいるのだぞ」
「かしこまりました!」
自分の力によほど自信があるのか、王子はこの中で誰よりも余裕そうな表情をしている。こいつはちょっと痛い目見た方が良さそうだなと思いながら、動き出した国王たちと共に玉座の間を出て王宮の門前へと向かった。
そして見えてきた光景は、まさに異様とも言えるもので背中にざぁっと鳥肌が立っていくのがわかった。
目が5つある者、青黒い肌に目はなく大きな口だけの者、首がうにょうにょと蛇のように揺らめいている者…近付くほどにハッキリとしてくる妖怪たちの姿に俺は正気を失いそうになる。
さらに恐ろしいことに、彼らからひしひしと強い殺気を感じるのだ。隣でアルウィンが肩を支えてくれていなかったら、俺は尻尾を巻いて逃げ出していたかもしれない。
「我が名はペンドリック王国の王、アンガスである!妖怪村から出てきて王宮へ来るとは、何用か聞こうではないか!」
国王が声高らかに叫び終わったのと、同時に。
「ひ…ッ!」
風が、俺の頬を鋭く切る。目の前には、隣にいたはずのアルウィンの背中。
「ワレラのネガイはヒトツ!ソノ異世界人ヲ、コチラにワタセ!ヤツをコロス!」
岩のようなゴツゴツとした顔に額から角を出した大きな妖怪の言葉に、俺を狙った攻撃をアルウィンが跳ね返したのだと、悟った。
心臓の音が、ドラムを鳴らしているみたいに、身体中に響いていた。
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