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"大変なこと"とお姫様抱っこ
しおりを挟む突然向かってきた攻撃。突然向けられる強い殺気。突然命を狙われる恐怖。その事実に足ががくがくと震え、今にもその場に崩れ落ちそうになる。アルウィンが怪我をしていないか、後からその恐怖も襲ってきた。
「なっ…!妖怪たちよ!攻撃をせず対話をしようではないか!異世界人を狙う理由を聞かせてくれたまえ!」
「ワレラはニンゲンにウラミはない!シカシ、ソコの異世界人はコロス!サモないと、コノ世界モ、大変ナことニなる!ナゼ異世界召喚をシタ!オロカな国王ヨ!」
「ま、待て!異世界人と我らが王族の間で子をなせば聖魔法を持つ子が必ず生まれると言われておるのだ!聖魔法を持つ王族を生まねば、この国は将来、聖力による結界がなくなってしまう!さすればそなたたちが住む妖怪村の自然にも影響が出るであろう!異世界召喚は必要なことだったのだ!」
「…ニンゲンは、オロカだ」
国王の必死な説明に妖怪の長のような岩男は抑揚のない声で一言だけ言う。妖怪村も獣人村も一番領土の広いペンドリック王国にあるというのに、結界がなくなっても大丈夫だと言うのだろうか。俺を殺さなければこの世界も大変なことになるとはどういうことなのか。
恐怖にまみれた頭で必死に考える。自分の命が狙われるなんて思ってもみなかったし、初めて目にする妖怪の姿と攻撃は確かに恐ろしいが異世界に来てまで殺されるなんて冗談じゃない。
「どういうことなのだ!異世界人の何が気に喰わぬというのだ!もし異世界人を攻撃し続けるのであれば、我々人間はここにいる騎士、魔導師すべての力を使って応戦する!我々も無駄な血を流したくはない!即刻攻撃体制をとき、妖怪村に戻られよ!」
すると妖怪たちは国王の言葉に思うところがあったのか、一度ギュッと固まってこそこそと何やら相談し始める。その場にいた全員が息をのんで、彼らの答えを待った。
「忠告はシタ!ニンゲンよ、ワレラはソナタたちヲ思っテ異世界人をコロシにキタ!ホカのニンゲンをコロシたくはナイ!今日はムラにカエルとスルが、ハヤク異世界人をコロセ!イツカ後悔スルゾ!ニンゲンの行動ガ遅ケレバ、ワレラは再ビ異世界人ヲ、コロシにクル!」
岩男がそう言い終えると、妖怪たちは背を向けて門前から遠ざかっていく。ひとまず今日のところは闘わなくてすんだことに、安堵のため息があちらこちらから溢された。
俺は踏ん張っていた足がガクンと急に折れたように力が入らなくなり、座り込む。それをアルウィンが受け止めて支えてくれた。
「ミト、大丈夫か?怪我は?」
「ううん…ちょっと腰が抜けただけ。アルウィンこそさっきの攻撃、大丈夫だった…?どこか怪我してない?」
「俺は大丈夫だ。怖かっただろう、歩けるか?」
「うーん……わ!?」
「しっかり捕まってろ」
情けないことに全然腰にも足にも力が入らない俺を察したのか、アルウィンが軽々と俺の身体を持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこというものをされ、反射的にアルウィンの首に腕を回してしがみついた。
すぐ近くにアルウィンの精巧な顔がありさっきまでとは別の意味で心臓がうるさい。頬に熱がたまり、全身の体温が急上昇していくのを感じた。
「ミト!大丈夫ですか!?アルウィンのおかげで無傷で何よりです!」
「ふん、あんなことくらいで腰が抜けるなんて情けねぇヤツだな!父上!もう脅威は去ったとみて王宮に戻りましょう!」
「あぁ、そうだな。アルウィン、ミトを部屋に運び休ませるように。ミト、怖い思いをさせてすまなかったな。これから緊急会議を行う!大神官に官僚と騎士、魔導師のリーダーたちは玉座の間に集まるように!他は解散を言い渡す!」
その一声で王宮に集められた騎士、魔導師たちのリーダーらしき人たち以外は王宮を出て帰っていく。俺はアルウィンに部屋まで運ばれ、そっとベッドに下ろされると深く息を吐き出した。
「疲れただろう。もう大丈夫だ」
「アルウィン、さっきは助けてくれてありがとう。すっごく怖かったけどアルウィンの背中が大きくて頼もしかったから何とか気絶せずにすんだよ」
「初めて妖怪を見た上、あんな攻撃を受けてよく意識を保てたな。偉かった。俺がお前を守るのは義務だから、わざわざ礼を言う必要はない」
「…それでも、ありがとうって言わせて」
たとえ、俺の命を守るのが彼の意思ではなく、彼に与えられた仕事だからだったとしても、助けられたことは事実だから。
少し痛む胸を隠してアルウィンに微笑みかけると、そっと彼の指が俺の頬に触れる。そこは攻撃の余波なのか、風が触れたところだった。
「少し切れているな…痛むか?」
「ううん、全然。傷になってる?」
「ほんの少しな。でもすぐに治る傷だから安心しろ。ミトに傷をつけさせたくなかったのに…すまない」
「謝らないでよ!アルウィンがいなかったら即死だったかもしれないし…あまりに早業すぎて何が起こったのかよく分からなかったけどね。瞬きしたときには隣にいたはずのアルウィンが目の前にいてびっくりしちゃった」
「瞬発力は防御の上で基本だからな。とりあえずミトに何もなくて良かった」
シルバーの瞳に優しく見つめられ、触れている指先の温度が心地いい。いつまででもこうしていたいが、玉座の間で行われる緊急会議に向かうため、アルウィンは立ち上がった。
「それじゃ、俺は行ってくる。ミトは疲れただろうから休んでいてくれ。外に騎士は何名か待機させるが、お前に何かあればすぐ分かるように探知魔法をつけておく。いつでもすぐ転移魔法でかけつけるから、安心してくれ」
「うん、分かった。本当にありがとう。行ってらっしゃい」
「行ってくる」
部屋から出ずに転移魔法で姿を消したアルウィンの残り香を胸に、深くベッドに身体を沈める。アドレナリンが出ているからか、まだ夕食前の時間だからか、疲れているはずなのに眠気は一向にやってこない。目を瞑っても先程の妖怪たちの姿と言葉が気になって何度も目を開けてしまう。
妖怪が言っていた、俺を殺さなければ大変なことになるとはどういう意味なのだろう。人間のために忠告していると主張していた。
国王が迎え撃つ姿勢を見せたとき妖怪たちは一度相談をしたのち、他の人間は殺したくないからとひとまず去っていった。それはつまり、妖怪たちの狙いは俺にしかなく、人間と同じように無駄な争いはしたくないという気持ちが確かにあるのだろう。
異世界人が必要だからと召喚されたのに、命を狙われるなんて聞いてない。
しかし、ふと思う。妖怪はなぜ、俺を殺さなければいけない理由をハッキリと言わなかったのか。大変なことになるとだけ言って、その"大変なこと"がどんなことなのかは言っていなかった。
その理由を国王に話して国王たちも納得すれば俺は殺されていたのだろうかと想像して、背筋がゾッとする。
妖怪が言っていた"大変なこと"が何なのか知りたい。それを知れば、その"大変なこと"を回避するために妖怪とも助け合えるかもしれない。俺の命が狙われる必要もなくなるかもしれない。
妖怪たちは知っていて人間は知らない"大変なこと"が何なのか、俺は調べてみようと身体をベッドから起こす。机の上に積み重なっている深緑色の本たちの中から、まだ読んでいない本を手に取り一冊ずつ目を通していく。
しかしやはり関係してそうな記述はなく、ここに書かれているならおじいちゃん先生が当たり前に知っているよなとため息をつく。
ふと、おじいちゃん先生が館主をしているという大図書館の存在を思い出し、俺はいても立ってもいられずそこへ向かうことにした。
部屋の前にいた騎士たちに大図書館に行きたいことを伝えると、護衛ありなら大丈夫だということで案内がてら着いてきてもらうことにした。
俺たちのいる塔は東塔であり、大図書館は南塔にあるという。塔と塔を繋ぐ橋通路があり、そこを通るときに王宮の美しい庭がよく見えた。
大図書館に着き、おじいちゃん先生を探してもらおうとしたがどうやら彼も緊急会議に呼ばれ今ここにはいないらしい。俺は初めて目にする本の街のような大図書館の中で、自力で目当ての内容が書かれている本を探すことにした。
しばらく異世界召喚についての本が集まっているコーナーであらゆる本を手に取りパラパラと流し見していくが、異世界人の特徴だの好物だのあまり意味のない内容ばかりで"大変なこと"についての収穫はなかった。
時計を見るとあっという間に1時間が過ぎていて、夕食の時間に迫っていることに気付く。がむしゃらに探しても効率が悪いと思い、おじいちゃん先生がいる時にまた来ようと思い直す。
アルウィンが戻るより前に部屋に戻ろうと、騎士に護衛されながら大図書館を後にした。
南塔から東塔への通路を渡っているとき、ふと空を見上げると、黒い鳥のようなものが見えてカラスかなと目で追う。
よく見ればそれは蝙蝠で、この世界には蝙蝠もいるんだなと思いながら、足早に部屋へと戻った。
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