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王子の繊細な魔力
しおりを挟む会議から帰ってきたアルウィンを部屋で迎えると、探知魔法をつけていたから俺が大図書館に行っていたことは知られていた。その理由を説明すると彼は納得し、俺も会議の内容はどうだったのか聞くと「ミトは知らなくて大丈夫だ」の一言で片付けられてしまった。
俺はアルウィンの固い表情に不安な気持ちが頭をもたげるが、国家機密情報なのかもしれないと思い直し、聞き分けがいいフリをして話を終わらせた。
次の日もおじいちゃん先生の授業を受けながら彼に"大変なこと"について何か知っているかと尋ねたが、豊富な知識量の彼でさえも分からないようだった。
大図書館にそれらしい内容が書かれた本がないか聞いてみれば、奥の奥に重要機密情報を取り扱っている魔法で鍵のかけられた部屋があるという。さすがのおじいちゃん先生でもすべての本や書類に目を通しているわけではない。その部屋の鍵を開けられるのは宰相、大神官、おじいちゃん先生のみで許可がおりれば探してくれるとのことだった。
そのことにお礼を言い、今日も今日とて聖魔法を使えるようになるための取っ掛かりになりそうな知識を詰め込んでいく。
午前中の授業を終え、午後は早速国王に許可を貰いにおじいちゃん先生は動いてくれるとのことで、午後の授業はアルウィンから魔力を集める感覚を教えてもらうことになった。
彼と過ごす時間が増えるのはたとえどんなことでも嬉しく、やる気が漲る。塔の中庭でアルウィンに繋いだ手から魔力を少しずつ流してもらい、その感覚を覚えていると。
「そんなことをしたところで魔力の源が絶たれているお前には意味がないぞ。そんなことも分からないのか?」
腕を組みながら刺々しい声で馬鹿にしたような表情を浮かべて突然現れた、ライナス第一王子。プラチナブロンドのサラサラの髪が風に揺らされ、光の粒が反射した。
隣にいたアルウィンが咄嗟に敬礼の姿勢を取るのに習い、全然これっぽっちも全く敬っていないが、俺も一応やっておく。
「ライナス様、どうしてここに?」
「ふん、お前が無駄な訓練をしているんじゃないかと思って見に来たら案の定だったからな!この僕が魔力の仕組みについて教えてやろうと来てやったのだ」
「殿下、魔力の仕組みについては既にボードン先生からミトに授業で教えているとのことです。今は魔力を身体に流し、その感覚を覚えることで自然とミトの中から魔力が芽生えるのではないかという推測のもと行っている訓練でございます」
「そんなことはどうでもいい!ボードン先生の教えが素晴らしいのはこの僕が一番知っている!」
「失礼致しました」
なんて理不尽な、と顔をしかめそうになったが何とか思い留まる。一切表情を変えないアルウィンは王子のこの対応に慣れるほどいろいろ言われてきたんだろうなぁと気の毒に思った。
「アルウィンの魔力ごときでは一生かかっても無理だから、この僕がそこの異世界人に緻密で洗練された僕の魔力を流してやると言っている!感謝しろ!」
「え、ライナス様が俺に…?」
「そうだ!確かにアルウィンは国一番の騎士であり属性も僕と同じく2つ持ちだが、アルウィンの魔力は野性的で荒く、天性のバランス感覚で使いこなしているようなものだ」
「言葉もありません」
「そんな荒い魔力を流して感覚を身体に染み込ませようとしたって染み込むわけがない。繊細で計算されつくした国一番の僕の魔力をその身体に教え込んだ方が、可能性が0に近いとしても異世界人の魔力を引き出せる確率は最も高いということだ!感謝しろ!」
「あ、ありがとうございます」
確かに王子の言っていることも分かるが、あまりにも上から目線で頬が引きつる。いや、お偉い人だって分かってはいるんだけど。言い方ってもんがあるだろうに。
「でも俺を嫌悪しているはずなのになぜ…」
「お前がさっさと聖魔法を取得しなければこの僕が困るからだ!」
俺に関わるのが嫌だとでも言いたげだったのにどんな風の吹き回しかと思えば、根底は変わらず自分のためらしい。恐らく俺と早く子をなせと言われ続けるのが嫌で、俺と理由は同じかもしれない。これは利害の一致で協力してもらうチャンスだ。
「それならぜひお願いします、ライナス様。俺はどうしたらいいですか?」
「そこに目を閉じて立っていればいい。貴重な僕の時間をお前などに使ってやるのだから、しっかり僕の魔力の感覚を覚えろ!」
こうして俺は、アルウィンとではなくライナス第一王子と共に訓練をし始めた。確かに身体で感じる魔力の感覚がアルウィンと大きく違うことに気付く。
アルウィンの魔力は熱くて肌の上をざわりざわりと上っていく感覚だったが、王子の魔力はサラサラと波の立たない川のように身体中を巡っていく。口は横暴なのに魔力は繊細なんだな、と思いながらその感覚を覚えるように身体に染み込ませていった。
「今日のところはこんなもんで勘弁してやる。あまりやりすぎて魔力酔いを起こしてぶっ倒れられても迷惑だからな!」
「…ありがとうございます。確かにライナス様の魔力は緻密で繊細なのがよく分かりました」
「べ、別に繊細などではない!洗練されつくしているだけだ!たく、このくらいアルウィンも魔力を研ぎ澄ませろ!剣術に頼った魔法ばかり使うから魔力が荒いままなんだぞ」
「殿下、私が不甲斐ないばかりにお手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「別にこのくらい僕にとってどうってことない。時間は奪われるがな!今日はもう帰る、また明日来てやるから僕を待たせるなよ!」
「ライナス様、ありがとうございました」
近くに待機していた侍従や護衛を連れて帰っていった王子に頭を下げて見送る。口は乱暴だし言い方はきついが、訓練に対しての姿勢は真剣だった。あの繊細な魔力を作り出すためにたくさん練習や研究をしたのだろうかと思うと、少し彼に対しての印象が変わった。
「…ミト、大丈夫か?」
「うん、全然大丈夫。王子って口ではいろいろ言うけどもしかして繊細な人だったりする?」
「王子が繊細…?俺はそんな風に思ったことはないが」
「やっぱりそうだよね!魔力の流れが本当に繊細だったから王子自身の性格ももしかしたらって思ったけど、どう見ても横暴で偉そうな王子だったわ」
笑って俺が言うと、アルウィンが変な顔をする。不敬だとまた怒られるだろうかと慌てて訂正しようと背の高い彼を見上げたが、アルウィンはさっきまで王子と繋がれていた俺の両手を取って、手の甲を親指でゆっくりと撫でながら口を開いた。
「俺の魔力は、そんなに荒かったか?王子の魔力の方が気持ちよかったか?」
「え…?」
「剣をふるうことが一番好きだったから魔法は二の次にしていたが…もう少し魔力の訓練もしておくべきだったな。そうすればミトの身体に王子の魔力を流すこともなかったはずだ」
まるで自分以外の魔力が俺の中に入ったことが気に食わないとでも言いたげな口ぶりに驚いて、何も言えず固まる。触れた手から伝わるアルウィンの体温と彼の荒いけど熱い魔力を思い出して、頬が熱くなった。
「王子の魔力が俺に流れるのが…アルウィンは嫌なの?」
「嫌というか、心配だ。混乱させてしまったのではないかと」
自惚れた自分の発言が恥ずかしくて穴があったら入りたい。アルウィンは純粋に心配してくれているだけだと分かり、俺はパッと彼に繋がれていた手を離した。
「俺は全然大丈夫だよ!むしろアルウィンに無駄な力を使わせちゃってごめんね。そろそろ夕食の時間だし、中に戻ろう」
「…そうだな」
危ない、アルウィンと一緒にいる時間が長いからなのか、俺がアルウィンに好感を持ちすぎているからなのか、彼の言葉を勝手に都合のいいように解釈してしまわないようにしなければ。
アルウィンは確かに優しいが、それは孤児院にたくさん送れるお金を貰える彼の与えられた仕事であり、ずっと一緒にいる俺と過ごしやすくするためのコミュニケーションの一環だ。
彼が俺に対して個人的な感情を持つなんてことは、きっとない。優しいけれど、アルウィンが俺を守ってくれるのも、俺の目標を応援して協力してくれるのも、すべて国のためだ。
勘違いしないように心のブレーキを常に持っておこう。そう決心をして、自分のためだとしても部屋へと戻る。何か言いたそうなアルウィンの表情には、気付かなかった。
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