【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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訓練の成果と初めての魔力酔い

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    シルバーの瞳に絡めとられたように視線が動かせない。凛々しい眉が眉間にシワを刻み、形のいい唇が動くのをポーッと見ていた。

「ミトは…ライナス殿下に抱かれてもいいと思うほど、殿下に心を許しているのか?」
「いやぁ、どうだろう…抱かれてもいいというかもう仕方ないというか…全然魔力がわいて出てくる気配もないしいつか突然魔法が使えるようになるとしてもそれが聖魔法だとは限らないでしょ?前の異世界人と同じように治癒魔法かもしれないし」

    そこまで口に出したとき、ふと重大なことをアルウィンに伝え忘れているような気がした。しかしそれが何なのか思い出せない。思い出そうとすると頭に靄がかかったように思考が霞んだ。

「だからと言って諦めようとするな。ミトは無力ではない。ミトの存在も言葉も、俺やライナス殿下に強い影響力を与えている。自分を卑下するな」
「そうかな…俺、この世界に来てから感謝されるようなことを何もしてないから当たり前だけど、殺気を向けられることの方が圧倒的に多くてちょっと…落ち込まないようにしていても気分が落ち込む」
「それはそうだと思う。いつもミトを危険な目にあわせてしまって本当にすまない。俺が不甲斐ないせいだ」
「それは違う!アルウィンがいなかったら俺はとっくに死んでいたと思うし、アルウィンの存在が俺を奮い立たせてくれているんだよ。けれど…アルウィンの人生のことを考えたら、俺に縛り付けちゃっているようにも見えて苦しくなるんだ」
「縛り付けられてなどいない。俺は俺の意思でミトの護衛をしている。実をいうと…ミトが別の誰かに守られている姿を見ると無性に腹が立つ。俺が守りたいのに、俺が守るべき存在なのにって思ってしまうんだ。それくらい、俺はミトの護衛という仕事に誇りを持っている」
「…そっか。アルウィンを無理やり縛り付けているわけじゃないならいいんだ。でも俺も守れてばかりじゃなくてアルウィンを守れるようになりたいなぁ」

    男として守られてばかりの自分が情けないと思うのは普通のことだ。俺にも力があれば、恵まれた体格があれば、優秀な頭脳があれば。そう思わずにはいられない。

「ミトは努力が出来る男だ。天才でも努力しなければ能力を無駄にするだけ。努力が出来る人間と出来ない人間では未来が大きく変わる。だから諦めて王子に抱かれようとなんてするな。ミトが自分の努力を諦めてどうする」
「それは確かにそうだと思うけど…努力の方向が今のままで合っているのかが不安なんだ。0から1を生むのが一番長い道のりで難しいって分かっているけど今のままで本当にいいのかなって」
「大丈夫だ。ミトの中に僅かに魔力の気配がしている。もう少しで初級基礎魔法を使えるくらいの魔力が芽生えてくるはずだ」
「え、本当!?」
「あぁ。今こうして触れて俺の魔力を流してみたら前とは違う反応があった。ミトの努力の方向は間違ってなんかいない。ここでやめたら、それこそこれまでの努力が無駄になるぞ」
「アルウィン!ありがとう!少しでも魔力の気配がすると分かったら俄然やる気が出てきた!」
「フッ、よかった。ミトは落ち込んだ顔よりそうやって笑っている顔が一番いい」

    凛々しい眉を下げて小さく微笑むアルウィンに俺は胸を高鳴らせながらも興奮していた。やっと少しの成果が得られたことに、歓喜の舞を踊りたくなるくらいだ。アルウィンの手の上に自分の手を重ね、すっかり元気になった俺はニッと歯を見せて笑った。
    するとアルウィンの親指が俺の頬を撫でるようにスリスリと動く。俺はその感覚が気持ちいいと感じながら、好きな人との接触にドキドキが増えていく一方だ。

「ミトは本当に可愛いな」
「アルウィンは世界一かっこいい」
「世界一?」
「うん!俺が知るどんな男よりも一番かっこいい!生まれ変わったらアルウィンみたいな男になりたい!」
「それは光栄だな。でもミトはミトのままでいい。俺は今のミトが好きだ」

    ―――ドクン。心臓が1つ、大きく跳ね上がる。全身の血が熱くなって、動悸が高まる。

    初めて、面と向かって"好きだ"と言われた。たとえその"好き"が俺と同じものではなくても、好きな人からの"好き"は何でも嬉しいものだ。
    ずっと彼には婚約者がいるから気持ちを抑えなければいけないと思っていたけど、もし、婚約破棄が成立したら…いつか、この想いを伝えることくらいは許されるだろうか。

    甘い空気の中で至近距離で見つめ合う俺たちは、端から見たら恋人同士のように見えるかもしれないなんて浮かれてしまうくらいには、嬉しさで思考が麻痺していた。
    そんな中、コンコンと扉をノックする音が俺たちの甘ったるい空気を引き裂いた。俺はバッと後ろに身を引いてアルウィンから顔を離す。頬に触れていた彼の掌は、ゆっくりと下に落ちた。

「は、はい!」
「ミト様、アルウィン様、ライナス第一王子がお見えです。お通ししてもよろしいでしょうか」
「どうぞ!」

    思わず反射的に答えてしまったが大丈夫だっただろうかとアルウィンの顔色をうかがうと、僅かに不機嫌そうな表情をしていて背筋を冷や汗が流れた。
    やっぱり待ってと言う暇もなく、バンッと開けられた扉から室内に入ってきたライナス王子。俺とアルウィンはソファから立ち上がり、王子と向き合った。

「この僕を待たせるとはいい度胸だな!」
「待たせるっていってもほんの少しじゃんか…王子、さっきはありがとう。お疲れ様。その後どうなった?」
「ふん、侯爵家はまだ慌ただしいがビンスカースのネズミ共は捕らえて牢獄に入れたさ。父上にはそこの騎士と報告しに行くためわざわざ迎えに来てやったのだ。ついでにお前の顔も見にきてやった」
「はぁ、それはどうも」

    迎えに来たと言いつつさっきまで俺たちが座っていたソファにどかりと傲慢な態度で座り込むライナス王子。通常運転の彼を見ていたらなぜかやけに安心してしまった。

「なんだ、元気そうではないか。さっき転移前に見た顔は今にも泣きそうになっていたからな。僕の気のせいだったわけだ」
「…心配してきてくれたの?」
「ち、違う!少し…言い過ぎたかもしれんと思っただけだ。強心臓のお前でも僕の言葉で傷付くことがあるのかもしれんと思ってな」

    思ってもみなかった王子の言葉に俺は思わず驚いて彼を二度見する。あの我が儘暴君王子が人の心を慮るなんて、と信じられない気持ちだった。
    よく見れば王子は爆発時に汚れた時のままの格好で、あの綺麗好きな王子が着替えもせずに一目散にここへ来たのが分かりさらに驚きが重なった。

「王子…心配してくれてありがとう。でももう俺は大丈夫だよ。そうだ!アルウィンが魔力を流してくれたら俺の中に僅かに魔力の気配がするっていうんだ!王子との訓練のおかげでやっと成果が出てきたよ!」
「ほう?ならば僕も確かめてやるからこっちに来い」

    王子に手招きされて俺もソファに座る。王子は俺の両手を握るといつもの訓練よりも僅かな魔力を流してきた。

「ふん、この程度の接触では分かりかねるな。もっと近付け」
「へ?ち、近すぎない?」
「僅かな魔力ならかなり接触しなければ感知出来ない。そこの騎士ともしたのだろう。ならば僕ともしろ」

    接触度合いで感知出来る魔力が違うのか、と新たな発見と共に王子の額が俺の額につけられ思わず目を瞑る。しばらくそうしていたが王子はその体勢のまま、口を開いた。

「ふむ、確かにかなり微弱だがお前の中に魔力があるのが分かるな。僕の訓練の賜物だ。この僕でなければ出来なかったことだぞ、感謝しろ!」
「う、うん、もちろんとっても感謝しているよ。そのー…もう、離してくれない?」
「…しばらく俺の魔力と共鳴反応を起こさしてより早く魔力が成長するのを手伝ってやる。だからもう少しじっとしていろ」
「わ、かった」

    至近距離でアクアマリンの瞳に睨まれ、俺は終わるまで大人しく目を閉じて待つことにした。王子から流れてくる繊細で緩やかな魔力が心地よくて眠くなってきてしまった。
    意識が朦朧としてきたとき、ぐい、と後ろから身体を引っ張られソファから落ちるかと思ったがアルウィンに強く抱き抱えられていた。

「殿下、濃厚な魔力接触は魔力酔いを引き起こします。ミト、大丈夫か?」
「ちっ、そういえばこいつは異世界人で貧弱であったな。おい、大丈夫なのか」
「うぇ?う、うん…何かふわふわしてきたけろ大丈夫らよ?」
「……嘘だろこのちんちくりん」
「軽度の魔力酔いですね…」

    アルウィンと王子が何か言っているが、ふわふわと雲を踏むような酩酊感が心地よくて思考がはっきりしない。俺はアルウィンの首に腕を回して抱きついた。

「アルウィン~なんら、ふわふわするよ~」
「ミトは酔うとこうなるのか…」
「はぁ、父上への報告は僕1人でするからお前はその酔っぱらいを何とかしておけ。そんな状態で1人にしたら何をしでかすか分かったもんじゃない。まさかあれだけのことで魔力酔いを起こすとは信じられん」
「殿下がいらっしゃる前に私が魔力を流していたことも一因かもしれません。申し訳ありませんでした」
「ふん、軽度ならしばらくすればおさまるだろう。お前、その間にそいつに変な真似するなよ」
「変な真似、とは」
「だから…触れたり、何かいろいろだ!そいつは将来僕の妃になるかもしれんやつなのだから、手を出したらただではすまない」
「…殿下はミトを抱きたくないのでしょう?それでもミトをお飾りの妃に置くおつもりですか?」
「ふん、男は抱けぬと思っていたが…今のこいつを見ていたらそうでもなさそうだから今度試してやってもいい」
「殿下、ミトの気持ちを無視して行為をしようなどとは考えないで下さい。私はミトの専属護衛です。たとえ殿下でもミトを傷付けようとするのならば容赦しません」
「ふん、いつかお前とは一度真っ正面からやり合いたいと思っていたからな!その時はどちらが国で一番強いのか決めようじゃないか。まぁ僕も無理やりは趣味ではないからそいつにねだらせてみせるさ」
「……」

    俺の頭の上でアルウィンと王子が言い合いのようなものをしている気がするが、何も頭に入ってこない。ただふわふわと気持ちのいい感覚に流されていた。

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