【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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無自覚な騎士と謎の人物の夢

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    気付いたら部屋に王子の姿はなく、俺はアルウィンに抱き抱えられてベッドの上に下ろされていた。アルウィンが俺から離れていこうとするのが嫌で、首に回した腕をがっしりと掴み直す。アルウィンの男らしい喉仏が目の前にあった。

「やら~アルウィンいかないれ~」
「フッ…大丈夫だ、ミト。俺はどこにもいかない」
「ほんろうに?」
「本当だ。一緒に寝るか?」
「…!うん!寝りゅ!」
「じゃあ、おいで」

    アルウィンの提案が嬉しすぎて大きく頷く。俺が毎日寝ているベッドにアルウィンも乗ってきて、俺はアルウィンの胸を枕にするようにしてくっついた。彼の厚い胸板とドクンドクンという心臓の音、頭を撫でられる手が心地よくて眠気が襲ってくる。

「ミト、眠いか?」
「うん…ねむい…」
「でもな、ミト…俺はずっとお前に早くその服を脱いでくれって言いたいのを我慢していたんだ。その服を着たまま寝ないでくれるか?」
「んぅ…ぬがしれ…」
「俺が脱がしていいのか?」
「ぅん」
「フフ、なら脱がすぞ」

    うつらうつら、睡魔はまるで古代の棺の石蓋のように容赦なく俺の頭上にのしかかっていた。アルウィンと会話が成立しているのかも分からない。何を言われているのかよく分からない。
    俺は完全に目蓋を閉じきって、身体の上を這う手に身を委ねた。アルウィンの匂いがずっと近くにあって口角が上がった。

***

    すぅ、すぅ、と幼子のような愛らしい顔で寝息をたてるミトをアルウィンは柔らかな笑みを浮かべてしばらく眺めた。ずっと見ていたいくらいに愛おしいが、目についた水色のフリルと金色の刺繍がこめかみを引くつかせる。
    アルウィンはそっとミトの服のボタンに手をかけ、1つ1つ丁寧に外していく。なぜかとてもいけないことをしているような錯覚に陥り、ボタンを1つ開ける度に鼓動が早くなっていく。

『そいつに変な真似するなよ』

    先程のライナス第一王子の言葉が脳内に響く。何を言っているのかとその時は思ったが、今こうして服を脱がせその白い首筋が露になるたびに喉唾を飲み込んでいる自分がいることを、アルウィンは恥じていた。
    フリルのついたシャツをすべて脱がせ、バサリとベッドの下に落とす。肌着を着てはいるものの、これまで見たミトの姿の中で一番露出が高く、美しい肌を目にしたのは初めてのことだった。

『そいつは将来僕の妃になるかもしれんやつなのだから、手を出したらただではすまない』

    またライナス第一王子の言葉が脳内で繰り返される。まるで呪いのように、削っても削っても終わりがない彫刻のように、こべりついている。
    ライナス王子の先程の言葉は、アルウィンにとって雷を落とされたような衝撃だった。あれほど男を抱くことに嫌悪していた彼が、ミトの酔った姿を見ただけで気持ちが変わるとは思えない。しばらく前から、王子にってミトは特別な存在になっていたと考えるのが自然だった。

    アルウィンは、今目の前に晒されている白い肌にライナス第一王子が触れたり口づけを落としたりする姿を想像して、ぎり、と大きな音を立てて強く歯を食い縛った。ベッドの上の布団がいくつもシワを作るほど強く握り締める。作られた拳はわなわなと震えていた。

「この感情は、なんなんだ…」

    意味の分からない苛立ちと胸を焦がされるような痛みに襲われることが、最近特に多い。それはミトと王子が親しげに話していたり、獣人がミトの頬に触れそうになっているのを見たときだったり。
    ミトが『あー…えっと、気になる人は、いる。最初は嫌なやつだったけど最近可愛く見えてきてさ』と言ったときなんかは目の前が真っ赤になった。

    訳の分からない苛立ちや何か突き動かされるような衝動を毎回必死に抑えていた。何よりもミトを大切にしたいと思うのに、その時だけミトをひどくぐちゃぐちゃにしてしまいたいと思うのだ。
    ミトが誰かに触れられるのも、自分以外の奴に守られるのも許せないとアルウィンは思うようになっていた。その感情にどんな名前がつくのか、アルウィンはまだ知らなかった。

    肌着の上からそっと身体の輪郭をなぞるように優しく撫でる。直接肌に触れてしまったら、とんでもないことをしてしまいそうな恐怖がアルウィンにはあった。
    しかし目の前にあるミトの身体に触れたいという欲望が抑えきれない。この小さくて幼いのに強くて逞しい精神を持つミトにずっと触れていたい。ずっと見ていたい。ずっとそばにいたい。

    フリルはついていないが、金色の刺繍が施されているズボンも脱がせようとしたが、なぜかそこから先は手が動かなかった。これ以上はやめろと脳内で警鐘が鳴らされている。顔が火照っていて、吐き出す息も熱かった。

「んぅ、アルウィン…」

    寝惚けながら溢されたミトの声にびくりとアルウィンは肩を揺らす。赤い唇がむにょむにょと何かを食べるみたいに動いていて、その唇すべてがどんな料理よりも高級で美味しそうだと思った。
    柔らかい頬に手をそえながら、自然と自分の顔がミトの唇に吸い寄せられるように近付いていることに、アルウィンはしばらく気付いていなかった。くしゅん、ミトがくしゃみをしたことでその息の近さに驚いて初めて、自分がもう少しでミトの唇に触れてしまいそうだったことに気がついた。

「何をしているんだ、俺は…」

    頭を掌でおさえ、大きなため息を溢す。このままでは風邪をひかせてしまうため、アルウィンは一度ベッドから下りてミトの寝巻きを取りに行く。しかしふと思い立って、アルウィンは一度隣の自分の部屋に行く。そして、ミトの部屋に戻ってきた手にあったのは、ワインレッド色の自分の寝巻きだった。
    ミトにとってはブカブカだと頭では分かっているのに、どうしても着せたかった。自分の色を纏っているミトの姿をどうしても見たかった。
    アルウィンは肌着の上から自分の服を着せるために少しミトの上半身を持ち上げる。くたり、肩に凭れかかる体温が愛おしすぎて胸がいっぱいになった。

    服を着せ終わりまたゆっくりとベッドに寝かせると、ミトの黒い髪色がワインレッドによく映えていて水色や金色より断然この色が似合うと満足感に満たされる。
    自然と口角が上がっているアルウィンは、しばらく自分の色に染まったミトを時間の許すかぎり眺めていた。ベッドに腰掛けながら、綺麗な黒髪を撫でていた。

    窓の外を、蝙蝠が飛んでいることに、アルウィンは気付かなかった。

***

    ―――キィ、キィ。

    またこの夢か、と思った。今日こそはあの人にもっと近付けるだろうか。あの人が誰だか分かるだろうか。

    ぼやけた視界、ぼやけた輪郭、ぼやけた背景。何一つくっきりと見えやしないのに、その人物の存在感はすごかった。
    ゆっくりとだが前よりも早く、俺が立っている方へと近付いてくる。今日こそはその顔がよく見えるかもしれないと期待に胸を弾ませながら大人しく待つ。
    しかしやはり、ある一定の距離でその人物は止まってしまい手を伸ばしても届く距離にはいなかった。黒く長い髪の毛がゆらゆらと揺れていた。

    すべてがぼやけて見えるのに、なぜかその人物の口元だけが虫眼鏡で翳されたように大きくはっきりと見える。
    薄く色のない唇の端と端が、にぃ、と持ち上がったあと、ゆっくりと動いた。声は聞こえない。でも、同じ形で繰り返し動いているのが分かった。

    ……あえてよい?

    口元の動きを見て何を伝えようとしているのか理解しようと頑張ってみるが、"あえてよい"と動いているようにしか見えず、よく分からない言葉に内心首を傾げる。

    一体何を伝えたいんだともどかしい気持ちのまま、次第にその人物は美しい笑みを浮かべながら遠ざかっていった。
    最後に、赤色と青色の何かが宝石のようにキラリと光ったのが見えた。その色になぜか、ゾクリ、と背筋に寒気がはしった。

    ―――キィ、キィ。

***

「…、…ト、ミト」

    大好きな人の声が聞こえる。大好きな人の声で名前を呼ばれている。そんなことをぼんやりと思いながらゆっくりと意識が覚醒していった。

「ミト!」
「っ…へ!?」

    耳元でわりと大きな声で呼ばれ、全身をびくつかせて俺は目覚めた。目の前に、アルウィンの心配そうな顔がある。その近さにまた驚いた。

「ミト、大丈夫か?魘されていたから悪夢でも見ているのかと思って起こしたんだ」
「あ…う、ううん、全然大丈夫。俺、寝ちゃってた?」
「よかった…寝る前のことは覚えているか?」
「えーっと…ライナス王子が来て、魔力訓練の成果が出たかもって言ってそれで…どうなったんだっけ?」
「…酔うと忘れるタイプか」
「え、俺何かやらかした!?」
「いや、大丈夫だ。何もないから安心しろ。帰ってきてから食事をとっていないだろう。夕食を用意させるが食べられそうか?」
「うん、お腹すいたかも…ってあれ、この服…」

    身体を起こして襟がぶかぶかだったのか肩をずるりと落ちる感覚で自分の服に目をやり、見覚えのないワインレッド色の服に目を瞬く。
    なぜかアルウィンは頬を少し染めて気まずそうに視線をそっぽにやりながら、小さな声で説明した。

「いや、その…パーティーに出た格好で寝かせるのは休まらないと思って脱がせたんだが…ミトの寝巻きがどこにあるのか分からなくて俺の服を着せたんだ。何も着せないよりはマシだろうと思って」
「そうだったんだ。わざわざありがとう。でもアルウィンの服ってこんなに大きいんだね。見て、半袖のはずなのに肘の下まで裾がある」
「そ、そうだな」
「それにアルウィンの匂いがする…んふふ、いい匂い」
「…ミト」
「あ、ごめん!気持ち悪かったよね…すぐに着替えてこの服は洗ってもらうよ」
「いや、そのままでいい。その…たまに、俺の服も貸せるから…着たくなったらいつでも言ってくれ」
「えっ、いいの!?」
「あ、あぁ。その…ミトにもその色が似合うと思ってな」
「そう?この色…アルウィンの髪色と同じ色だ。今までこの色の服を着たことがなかったけどアルウィンがそう言うなら普段着で用意してもらおうかな。…いや、ダメだ。アルウィンの色を纏うのって良くない良くない」

    危ない危ない、アルウィンに褒められたこともアルウィンの服を着れたことも嬉しくて、うっかりその人の色を纏うことへの意味を忘れるところだった。王子に教えてもらったばかりだしとても重要な意味があるんだから気を付けないと。

「確かに普段着で着るにはいろいろ…ライナス王子や宰相に小言を言われるかもしれないからやめたほうがいいだろう。だがこの部屋で俺と2人きりのときはぜひ着てくれ。ミトが俺の服を着ている姿はとても可愛いくて癒される」
「そ、そう?じゃあお言葉に甘えてたまに貸してね」
「もちろんだ」

    好きな人の服を合法的に着れるって最高だな!と思いつつ、この匂いと色にずっと包まれているのは心臓がずっと忙しくて過重労働で止まってしまいそうだなと不安にもなった。

    それから俺たちは着替えて食事の間で夕食をとり、侯爵家の騒ぎは一応鎮火したとの報告を宰相から受けた。
    大きな怪我人はおらず、爆発によって侯爵家はダメージを受けたものの、ずっと炙り出したかったビンスカースのスパイを捕らえられたことは大きな功績だと宰相は興奮していた。
    俺は死傷者が出なかったことが何よりも良かったと胸を撫で下ろし、初めてのパーティーはいろんなことがあってマナーを学んだりは結局出来なかったなと思いながら、咀嚼した鶏肉を飲み込んだ。

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