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誘拐と忠誠をしに来た獣人
しおりを挟む侯爵家パーティー襲撃事件の次の日、俺は午前中の授業で会うおじいちゃん先生に魔力がほんの少しだけど体内に芽生えたことを報告すると彼は自分のことのように手を叩いて喜んでくれた。
「ほうほう!それはよかったのう。ミト殿はよく頑張っておられたから結果が着いてきておるんじゃよ」
「今日の午後の訓練で少しでも魔力を使えたらいいんですけどね。魔力が芽生えても使いこなせなくちゃ意味がないですから」
「そう焦るでない。魔力というものは徐々に体内に馴染んで行き最後に指先に到達するものじゃ。まだ芽生えたばかりの芽が指先に届くまで辛抱強く待ちなさい。指先に集中して魔力を集める感覚の訓練を続けていればより早く届くじゃろうから、これまで通り頑張ればよいのじゃ」
「分かりました!やっと少しの希望が持てて嬉しいけど調子に乗らず頑張ります!」
「その調子じゃ」
よぼよぼのおじいちゃん先生だけど彼の言葉には説得力がある。そういえば、と授業が始まる前に気になっていたことを質問してみることにした。
「先生、この世界には黒い生物がいないっていうのは本当ですか?」
「あぁ、おらんのう。黒い生物がおるのは魔界だけじゃな」
「魔界にはカラスとか蝙蝠がいるんですか?」
「おるぞい。この底辺界にはおらんがな」
「へぇ…俺、カラスなのか蝙蝠なのかは定かではないんですけど飛んでいる黒い何かをこの王宮から見たことがあって。アルウィンが言うには妖怪の妖術で見せられた幻影なんじゃないかって話だったんですけどどう思います?」
「ほほう、それは興味深いのう。どこから見たのじゃ?」
「あれは確か大図書館から帰っているときだったから…南塔と東塔を結ぶ橋通路を渡っているときに外を見たら蝙蝠っぽいものが飛んでいた気がするんですよね」
「確かに幻影の可能性が高そうじゃが…もし本物ならミト殿はどう思うかのう?」
「えー?俺は蝙蝠がいるからって特に害はないし何でいるんだろうくらいですけど…」
「異世界では蝙蝠を頻繁に見たのかのう?」
「いえ、全然。そんなに頻繁にというかほとんど見かけなかったですよ。本とか絵でよく見るような蝙蝠の形くらいしか分からないから実物は間近で見たことがないですね」
「そうかいそうかい。ならばなぜカラスではなく蝙蝠じゃとミト殿は思ったのか不思議じゃのう」
「何か羽の形が蝙蝠っぽいなって思ったんですよね。よく元の世界で描かれる蝙蝠の羽の形に見えたので」
「なるほど、そういうことじゃったか。まぁ、この底辺界に魔界の生物がいるわけがないからのう。幻影か何かを見間違えたんじゃろう」
「やっぱりそうですよね」
おじいちゃん先生がそう言うならやっぱりそうだったんだろうなと俺は納得して、今日の授業に入っていく。昨日のパーティーのようなことがまたあった時のためにしばらくはずっと敬遠していた高位貴族の階級や名前、マナーをしっかり教わるつもりだ。
そうして今日もしっかりと午前中の授業をこなし、午後は俺の魔力を感知してから初めての魔力訓練でいつも以上に集中して訓練を行った。
だいぶ魔力の感覚が流されていなくても分かるようになってきて、いずれ自分の魔力を自分でも分かるようになるだろうなという確かな手応えがあった。王子に、昨日俺が魔力酔いを起こしたことをバカにされながらだったが。
なぜかアルウィンとライナス王子の視線がぶつかるたびにバチバチと音がしそうなほど険悪な空気が何度か流れてヒヤリとしたが、今日もやるべきことを終えて俺は部屋へと戻った。
戻ってすぐに、アルウィンは昨日の奇襲事件についてまだ国王に直接報告をしていなかったため、玉座の間に呼び出された。俺はその間、大人しく1人でアルウィンの帰りを待っていると。
コン、コン、と石のようなものが窓を叩く音が聞こえ、怪訝に思いながらも窓に近付く。窓の外を見ても何もないが、一応窓を開けて見てみると。
「うわっ!?ドロモア!?」
逆さまの状態で窓の上からドロモアの顔がベロンと現れた。俺はドッキリにでもあったかのように後ろに尻餅をつく。ドロモアはそのままくるりと一回転して窓から室内に入ってきた。
獣人のドロモアが見つかったらまずいと思い、すぐに窓とカーテンを閉める。驚かされたことでバクバクとうるさい心臓をおさえながら、ドロモアに向き直った。
「何してるの!?どうやって王宮内に侵入したの!?人に見られてない!?」
「…うるさい」
「う、もう~!びっくりしたんだからな!」
「へぇ」
「反応うすっ!でも本当にどうやってここへ?」
「ミトの匂い辿った。屋根走って来た」
「えぇ…何でそれで見つからずに来れちゃうの…」
「人間の目、追い付けない。風が通っただけ」
「つまり人間の目では追い付けないほどの速さで走ったから、風が通ったなくらいにしか思われないってことね」
「そうだ」
さすが獣人の脚力である。恐らく屋根の上は獣化で最速で走り、この部屋の上に来てから獣人の姿に戻り、窓を開けさせるために小石か何かを投げたってところだろう。
「でも危険を侵してまでわざわざここまで来たってことは何か大切な用が俺にあったんでしょ?」
「…あぁ」
「どうしたの?ウィルマに何かあった?」
「いや、違う」
獣人村を出て直接ここまで会いに来たということはそれなりの理由があるはずだと少し警戒を込めて聞くと、ドロモアはしばらく無言で俺を見下ろした後、小さく口を開いた。
「獣人がミトを殺そうと画策してた。止めた」
「へ?」
「理由、説明した。証拠もらいにきた」
「へ?ごめん、ちょっとよく分からないんだけど…」
「…とりあえず、脱げ」
「はい!?」
「早く脱げ」
言葉足らずなドロモアの説明では何がなんだかさっぱり分からない。
獣人村の獣人たちが妖怪と同じく異世界人に悪意を抱いていることは前のドロモアたちの様子から見ても間違いない。だから獣人たちも妖怪たちと同じく俺を殺そうと計画を立てていたことは分かった。
しかしそれをドロモアが止めたということだろうか。理由を説明したとはどんな理由だと言うのか。証拠とは何の証拠なんだ。
そんなことをぐるぐると考えていたらドロモアの手が問答無用で俺に伸びてくる。俺は服を脱がされるのかと身構えて後ずさった。
「ちょ、ちょっと待って!何で突然脱がないといけないの!?」
「証拠、取る」
「証拠ってなに!?」
「証拠は証拠だ」
「だから意味が分からないって!」
「脱ぐだけ。簡単」
「そりゃそうだけど!意味も分からないのに脱ぐわけないだろ!言葉足らずすぎて何が言いたいのか全然分からないからちょっと待って!」
「……」
脱がされて何をされるのか分かったもんじゃない。本気で俺が嫌がっていることが分かったのか、ドロモアは口を一文字に結び、伸ばしていた手を空中でピタリと止めた。
そのままの体勢でしばらく俺たちの視線が絡まる。睨み付けているわけではないが、俺はまだドロモアを信用出来ていない。一度助けられているが、一度殺されそうになったことも事実だからだ。
「……」
「…と、とにかくその証拠について説明してくれない?」
「…証拠、取れないな」
「え?どういうこと?」
「……証拠、取れない。ミト獣人村に連れてく」
「は!?今度は凄いこと言い出したね!?」
「行くぞ」
「い、行かないよ!?行けるわけないでしょ!?殺されるんでしょ!?」
「殺させないために行く」
「もー意味が分からないって!」
長い腕をこちらに伸ばしてじりじりと近付いてくるドロモアの倍の歩みで俺は後ろに下がる。俺を傷付けようとする気配は全くないが、目の前の手に捕まったら最後、獣人村に誘拐されるという確かな直感が働いた。
ドロモアの言っていることは矛盾していて何がしたいのかさっぱり分からないが、獣人も妖怪と同じく異世界人を憎んでいるはず。そんな彼らの村に行ったら生きて帰れる保証などどこにもない。
「逃げるな」
「逃げるに決まってるだろ!ドロモア、俺は獣人村には行けないから帰ってくれ」
「…いやだ」
「何で!」
「手ぶらで帰ったら、ミト狙う」
「どっちみち俺は狙われるってことね!?」
「違う。狙わせない」
「矛盾していてよく分からないよー…俺の頭じゃ理解に及ばないんだけど!」
「……俺は、お前を守る」
「へ?」
ドロモアの言葉が理解できなくて泣きたくなっていたところに、ドロモアが真剣な目付きで俺を守るだなんて言うから思わず逃げ続けていた足を止めてしまった。2m超えの大男が目の前まで来て見下ろされる。その黄金に輝く目と縦長の黒い瞳孔は、真剣そのものだった。
「ミトを、守る。忠誠の証」
そう言って、ドロモアの手が俺の頬に伸びたと思ったら。瞬きをした直後、その顔が目の前にあり。
―――ベロリ。頬を、ざらついた舌で舐められた。
「は、え、なに…を」
「…何をしている?いや、何をした?」
ふっと人の気配を背中に感じたときには、胸とお腹に回った腕に強く後ろに引き寄せられ、頭の上から恐ろしいほど低い声が落ちてきた。
ドスのきいた、憎悪が込められていると分かる、初めて聞くアルウィンの声だった。
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