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伝えたいことがある、はずなのに
しおりを挟む俺が静かに呟いた言葉に、アルウィンは絶句したように固まった。アルウィンにこんなことを言うのは心が引き裂かれそうになるほど苦しいが、アルウィンが宰相に良いように利用されているのだとしたら。俺は絶対に、アルウィンを守りたい。
「もしアルウィンが利用されて最終的に傷付くことになるのなら…俺はその相手と全面的に闘うよ」
「…利用されているわけ、では」
「うん、俺もそう願ってる。でもアルウィン以外に俺の護衛を増やすって国王や宰相に言われたこと、ある?」
「それは……ない」
「妖怪や獣人が異世界人を敵視していると知る前ならそれで納得できた。けれどこちらから決して手出しをしてはいけないと言われるほど強いと分かっている妖怪が初めて村を出て王宮に来るほど、俺を殺そうとしていると分かっているのにアルウィン1人に俺の護衛を任すってアルウィンはどうなってもいいのかって思っていたんだ」
「考えたこともなかったな…いつも1人で仕事をこなしていたから誰かと協力するということがほとんどなかった。ミトのことも当たり前のように1人で守るべきだと思っていた」
「アルウィンがそれだけ群を抜いて強いことはよく分かってるよ。でもそれまで闘ったことのない妖怪相手にさえ人間のアルウィン1人に任せるのっておかしい。実際にドロモアに襲われたときも二度目の妖怪襲撃も、アルウィンは危なかった。下手したら命を落としていてもおかしくない状況だった」
名誉騎士と呼ばれるほど強いとされているアルウィンでさえ、ドロモアに襲われた時は動けないほどだったし、馬車で妖怪に襲われた時はドロモアの助けがなければ俺かアルウィンが死んでいた。
それらすべてをアルウィンはしっかり玉座の間で報告をしたはずだ。それなのに防衛を強化するわけでもなく、護衛を増やすわけでもなく、ただ村を監視するだけという措置に俺は若干の違和感を感じていた。
まるでわざと俺の周りを固めず、隙を作って襲わせているみたいな。わざと、アルウィン1人を闘わせているみたいな。そんな最悪の疑惑まで浮かんできてしまう。
「だからアルウィン、俺のことを守ってくれるのはとても有り難いけどアルウィン自身もどうか気を付けてほしい。本当は護衛を増やすように口添えしてほしいけど……それはアルウィンが嫌でしょ?」
「…あぁ。常に俺以外の護衛がミトの周りを彷徨いているのは嫌だ。俺1人では危険かもしれないが、それでも必ずミトを守ると誓う」
「俺はアルウィンに俺のこともアルウィン自身のことも守ってほしいんだよ。とても難しいことだって分かっているから、俺はもっと魔力量を増やして早く属性魔法を使えるように頑張る。アルウィンの負担を減らすために、俺も闘えるように」
「ありがとう、ミト。俺のことをそこまで考えてくれて嬉しいが、不甲斐ないとも思ってしまう。そんなことを言わせてしまって本当にすまない」
「謝らないで。俺はアルウィンがそばにいるから頑張れるんだよ。絶対にこの世界で生き延びてみせる」
「…あぁ、そうだな」
知らなければいけないことが、たくさんある。自分が生き延びるために、何で狙われているのか、俺を殺してどうなるのか、ここまで狙われるならなぜ異世界召喚されたのか。
「ミト…もう少しで、リジーとの婚約が正式に破棄される」
「え」
「そしたら……伝えたいことがある。それまで、待っていてくれるか?」
「…うん!もちろん!俺も…伝えたいこと、あるから」
突如、真剣な表情でアルウィンから落とされた衝撃的な言葉。彼の手のひらが俺の頬を優しく包み、その温かさに頬を預ける。
リジーさんのことを思うと胸が痛むが、俺がいてもいなくても婚約破棄するつもりだったというアルウィンの言葉を信じているし、彼の意思を尊重したい。アルウィンが伝えようとしていることと、俺が伝えたいことが同じであればいいと心から思う。
言葉にせずとも、俺たちはしばらく視線を絡ませて、見つめあった。早くその言葉を交わせる日が来ますようにと、願いながら。
***
次の日の授業で、浄化魔法を使えるようになったことを報告したあと、俺は早速おじいちゃん先生に国王の側妃や妾はいつ王宮に来たのかを聞いた。やはり俺の予想通りそれはこの10年以内であり、それより前には国王の妃は王妃ただ1人であったことを知った。
「国王は大層王妃を愛されておる。王妃以外の妃は娶らないと言うほどじゃった。だが王妃が子を生めなくなり、王族の男子がライナス王子1人では殿下に何かあった時に跡継ぎがいなくなってしまう。それだけは避けなければいけなかったからのう、側妃を娶るのは致し方なかったのじゃ」
「でも初めての側妃が10年前に来たのなら、第二王子の母親って誰なんですか?その時にはもう王妃は子を生めなかったはずですよね?」
「…これは王宮の中で禁句の話題とされておる。教えるが、決して他言無用じゃよ」
「はい」
駄目元で聞いてみたがまさかおじいちゃん先生に事の真相を教えてもらえるのではないかと思い、無意識にごくりと唾を飲み込んだ。
「第二王子は、16年前王宮に勤めていた侍女と国王の子供じゃ。プラチナブロンドが美しい娘で王妃に少し似ておったらしい。毒を盛られてから床入りが難しくなってしまった王妃と国王は二度とそういう行為が出来ないと言われてからも共に過ごす時間を取っていたが…5年目にして、我慢を迎えたのじゃろう。国王は侍女を無理やり襲ってしまい懐妊させたと聞いておる」
おじいちゃん先生の話に、俺は眉を寄せた。それではすべて俺の勘違いだったというのだろうか。
「それは誰から聞いた話ですか?その侍女は今どうしているんですか?」
「宰相殿が一部の者に箝口令をしいて話してくれたものじゃ。その侍女は第二王子を生んだあと、王宮に勤めていたという記録を消され、二度とペンドリックに戻ってはならないと誓約書を交わし、他国に流されたそうじゃ。可哀想なことじゃったが…国王が侍女に手をつけるなど大問題じゃった。当時、国王と王妃の仲睦まじい様子に国民は憧れを抱いておったから、揉み消すしかなかったのじゃよ」
「…そうなんですね。おじいちゃん先生はその侍女と会ったことはありますか?彼女がどんな人物だったか覚えていますか?名前とか」
「いや、さっぱりじゃな。そんなことを聞いてどうするつもりじゃ?王族の過去を掘り返すのはやめておきなさい。良いことなど1つもないからのう」
「それは分かっているんですけど…」
「この前の毒殺未遂で疑心暗鬼になっておるのかのう、無理もないわい。ほっほっほっ」
おじいちゃん先生は呑気にお茶を啜りながら髭を触る。彼を見ているとずっと緊張していた肩の力が抜けて気がゆるみそうになる。しかし、彼のように俺は呑気にしていられる立場ではないのだ。
午前中の授業を終えた俺は、ライナス王子には昨日のことを悟られないように気を張りながら、魔力量を増やす訓練をこなした。幸い、魔力訓練をしている時だけは余計なことを考えず、早くアルウィンを守れるだけの力がほしいという気持ちが活力なって訓練に集中できた。
1日1回の浄化魔法は寝る前に自分で自分に使っている。アルウィンからされるのが好きだったからその時間がなくなってしまったのは残念だが、これも俺の成長のためだと思えば仕方がないことだと割り切った。
俺は早く第二王子は国王とエレノア様の子供だという確信がほしいし、それが原因で命を狙われたのならどうしてなのか宰相に話をつけにいくつもりだったが、おじいちゃん先生の話が真実の可能性もある。
きちんと調べず勝手に勘違いして失礼な話をしてしまったらとんでもないことになると思い、俺は16年前に王宮に務めていた使用人が今もいないか、調べることにした。もしいれば、当時のことや当の侍女を知っていると思ったのだ。
アルウィンにも協力してもらって探したが、16年前も王宮に勤めていた人間は何人かいたが、プラチナブロンドの侍女を知る者は1人もいなかった。
やはり、そんな人物は存在しておらず、すべて宰相の作り話なのではないだろうかと疑心が高まる。しかしどうして国王とエレノア様が当時の記憶がないのかという点が解明しないかぎり、この説はただ憶測の域を出ない。
アルウィンが俺の魔力量の進捗について国王に呼ばれたと言われ、1人になった室内で悶々と考えていた俺は、突然目の前に転移魔法で現れたライナス王子に驚いて、ソファから転げ落ちた。
「王子!?びっくりした~!驚かさないでよ!」
「すぐに転移するぞ。掴まれ」
「え、何事?」
「確固たる現場を押さえるためだ。行くぞ!」
何がなんだか分からず、俺は王子の勢いに押されるがまま王子の左腕を掴んだ。そして一瞬の浮遊感のあと、目の前は自分の部屋ではなく、冷たい雰囲気の漂う牢獄のような場所だった。
ここはどこなのか、何で俺は転移させられたのか分からず声を出そうとして、ライナス王子に後ろから口を手で塞がれる。俺を背後から抱き締めるような形で移動する王子の顔を仰ぎ見るが、彼は口許に人差し指を立てて静かにという合図を出す。こくこくと頷いたが、説明くらいしてくれと内心愚痴りたくなった。
遠くからぼそぼそと人の話し声のようなものが聞こえてくる。王子が足音を一切たてずに石壁の牢獄の中を進んでいくたびに、その声は聞こえやすくなってくる。そして、ある程度言葉が聞き取れるくらいの距離まで来たとき、その声が宰相のものだと気が付いた。
―――ドクン、ドクン。鼻から息を吸う自分の呼吸が脳に直接響きそうなほど、すごい緊張感に心臓が震える。
ライナス王子って柑橘系の匂いがするんだ、初めて知ったなと現実逃避しながら、俺は耳を澄ませた。そして、聞こえてきた言葉は。
「…ですから、異世界人ミトを必ず始末しなければなりません。女神レティシア様のお告げに間違いなどないのですから」
「しかし、聖魔法はどうするのですか」
―――ドックン。返ってきた聞き覚えのありすぎる声に、大きく心臓が跳ねる。ここは、宰相とアルウィンの密談場所だったのだと、察した。
「もう一度異世界召喚をして別の異世界人を使えばよいだけのこと。良いですか、以前夜中に送り込んだ刺客のように次は邪魔などしないように。さもなくば…」
「…分かっております」
「異世界人ミトを早めに殺しなさい。あなたに殺されるとは微塵も疑ってなどいないでしょうから」
「御意」
目の前が、真っ暗になった。
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