【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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21年前の事件と今回の繋がり

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    考えることが次から次へと出てきて脳みそがパンクしそうだ。おじいちゃん先生の言う通り、宰相が殺された原因が黒魔法、もしくは黒魔法に限りなく近い闇魔法なのだとしたら、21年前の事件を引き起こした元凶と今回の黒幕は同一人物の可能性があるってことだ。

「ほっほっ、いろんなことが起こり疲れたかのう?」
「そう、ですね…まだちょっと宰相の死も受け入れられていないし…動揺しています」
「勝手に話を聞いてしまったが女神レティシアの声を語る人間にデロリー殿は利用されたと見て間違いなさそうじゃな」
「はい、たぶん…先生は祈りの間に入られたこと、もしくは入ろうとしたことはありますか?」
「いいや、わしは神殿にはほとんど行ったことがないからのう。祈りの間の存在は知っておったが、女神レティシアを誰もが信仰しているわけではおらんよ」
「やっぱりそうですよね」

    おじいちゃん先生のしゃがれているのに深みのある声とゆったりとした話し方は自然と落ち着く。そう言えば前に出し損ねたお茶菓子が棚にあったことを思い出し、それを取っておじいちゃん先生のテーブルの上に置いた。

「どうぞ、よかったら」
「すまないのう。はて、ミト殿、魔力の方はどんな感じかの?」
「まだ浄化魔法だけでそれ以外の魔法は試せていないんです。でも魔力が自分の中に流れているのは何となく分かるので増えてきてるんじゃないかなって期待も込めて思ってます」
「良いことじゃ良いことじゃ。しかし突然浄化魔法が使えるようになったとは僥倖じゃったな。何か切っ掛けはあったのかのう?」
「切っ掛け……あ!そういえば!!」

    俺はとんでもなく重大なことを今の今まで忘れていた自分に愕然とした。アルウィンにもライナス王子にも話せていない。この部屋の窓から、蝙蝠をハッキリと見たことを。
    そして今考えれば、蝙蝠を見た後に突然身体の奥からコトコトと音が聞こえてきて浄化魔法を使えるようになったことを思い出す。しかしまさか、蝙蝠を見た後に魔法が使えるようになったのは偶然だろうがこの部屋で蝙蝠をハッキリ見たことは事実だった。

「先生、俺、この部屋の窓から蝙蝠を見たんです!蝙蝠は一定の場所に浮遊していてしばらく蝙蝠と目が合っていたような気がします。まさかあれも…黒魔法、もしくは黒魔法もどきを使える人物の仕業の可能性、ありますか!?」
「ほう、それは興味深いのう…魔界にしかおらんはずの蝙蝠が底辺界にいるわけがないからの。この世界の鳥を黒魔法で蝙蝠の姿に見せるために真っ黒に染めたのじゃろうな」
「じゃあやっぱり…今回の宰相の件もですけど、俺たちの近くに黒魔法っぽいものを使える人間がいるってことですか…?」
「そうかもしれんのう。その者が何かしらの理由で女神レティシアの声を語るばかりか、ミト殿の命を狙っていると見て間違いなかろう。声を偽る魔法はないから、女神だと宰相が思ったのなら女性で間違いないじゃろうな」
「俺もそう思いました。ええ…女性に狙われてるの、俺」

    女性の知り合いなんてエレノア様かリジーさんしかいない。エレノア様が俺を殺そうとするはずがないし、リジーさんに関しては二度しか会っていない。そもそも彼女は王宮に近付くこともないし、属性魔法は水魔法だったはずだ。
    何しろこれから婚約破棄をする予定だったとしてもアルウィンの幼馴染みであり、長年アルウィンの婚約者だった人を疑いたくない。

「男性のふりをした女性もおるかもしれんから、分からんのう」
「男のふり…?そんなこと、出来るんですか?」
「ミト殿もエレノア様に女装させられたと授業前に愚痴っていたことがあったじゃろう。その逆ももちろんあり得るということじゃ」
「男装をした女性が近くにいるかもしれないってことですか?そんなまさか」
「ここまで事が大きくなっておるのだから、何でも疑ってかかるべきじゃ。ミト殿、そなたが死ぬようなことは決してあってはならぬ。わしもこんな老いぼれじゃが、出来る限りのことはさせてもらうからの」
「…ありがとうございます、先生」

    お茶菓子の袋を開けて目尻にシワをいくつも作りながら食べるおじいちゃん先生が、とても頼もしく見える。こんなによぼよぼだけど魔力はまだまだあるようだし、何より長く生きている分、知識量が桁違いなのだ。

「しかしミト殿は、どちらと結婚するおつもりじゃ?」
「へ!?と、突然何ですか!?」
「ほっほっほっ、そんな焦ることもあるまい。ライナス殿下とアルウィン殿、どちらの気持ちも明らかじゃろう。どちらを選ぶおつもりじゃ?もしくはどちらも選ばない選択肢もあり得るのう」

    突然話が変わり、俺は大袈裟に驚いてしまう。まさかおじいちゃん先生と恋バナをする日が来るとは思ってもいなかった。
    恥ずかしくて、視線がうろうろと泳いでしまう。そんな俺をおじいちゃん先生はお菓子をもぐもぐと食べながら微笑んで見ていた。

「お、俺は…アルウィンのことが、好きです」
「ほほう……ライナス殿下には気の毒なことじゃが人の心を縛ることは出来んからのう。はて、ミト殿は元の世界で恋人や好きな人はおったのかのう?」
「いえ、全く。アルウィンには一目惚れのような形で恋をしてしまいました。初恋の相手に婚約者がいると知ったときの絶望感は凄かったですね…」
「一目惚れのうえ初恋、とな。それはやけに遅い初恋じゃったのう。もしかしたら自分で忘れているだけでもっと前に初恋を迎えていた可能性はありそうじゃがな」
「ああ…確かに子供の時に幼稚園の先生とかを好きになったこととかあったかもしれませんね。全然そんな記憶はないんですけど」
「人の記憶というのは曖昧なものじゃからな」
「でも先生は記憶力凄いですよね。膨大な知識量を忘れていないし、尊敬します」
「ほっほっ、染み付いたものは中々消えぬものよ」

    さすが人生の大先輩、説得力があるなと思いながら窓の外を見る。ふと、窓辺でアルウィンから聞かされた21年前の事件の事を思い出す。そういえば、と先生に話を切り出した。

「21年前、悲惨な流行り病があったと前に教えて頂きましたけど…あれって突然善人だった人間が隣人や身内を殺すっていう奇妙な事件のことですか?」
「おや、もう知っておったのか。ああ…確かアルウィン殿のご両親はその被害者であったな。そうじゃよ、恐ろしい流行り病として口に出すのもご法度のような話じゃ」
「でもそれも…最初は黒魔法が原因なのではないかと言われてたんですよね?黒魔法で邪悪な心に変えられた人間が豹変して人々を殺す……今回の黒魔法もどきを使える人間と同一人物の可能性はありませんか?」
「なんじゃ、そこまで知っておったのか。…黒魔法についてはなるべくミト殿には知られたくなかったからのう、言わなかったのじゃよ」
「どうして俺に知られたくなかったんですか?」
「黒魔法について話すなら魔界についても話さなければならん。魔界はもちろん誰も行ったことがない場所じゃし言い伝えでしかないが…人の形をしていない魔物だらけのおぞましい場所だとされておる。妖怪の話をした時ですら気が動転しておったからな、あまり聞かせたくない話なのじゃよ」
「配慮してくれたんですね…ありがとうございます。魔界って人ではなく魔物が住んでるんですか?…ん?魔物が黒魔法を使うってこと?」

    また新たな情報に頭がこんがらがる。魔物はファンタジー小説やアニメなんかでよく出てくるしどんなものかは何となく想像つくが、魔物が黒魔法を使うところはあまり想像出来なかった。

「いや、魔界人と魔物がいるのではないかというご先祖の予測じゃよ。実際のところは分からん。黒魔法についてもご先祖が残した書物に黒魔法は善を悪に変える、一瞬で心臓を潰せると書かれておるだけで存在している確証はないのじゃ。21年前の事件が善人が悪人になったことであまりにも黒魔法の特徴と一致していたから一部でそう囁かれただけであってな。わしも当時は黒魔法の存在は信じておらんかったし、流行り病だと思っておった」
「でも闇魔法が黒魔法に限りなく近付けられる可能性があるっていうのはどこからきた仮説なんですか?」
「その黒魔法について書かれた書記に影響を受けた魔導師であり研究者の1人が、闇魔法の研究を20年ほど前から始めてな。その結果、闇魔法を極限まで極めると善を悪に変えられる、一瞬で心臓を潰せるということを最近証明したのじゃ。動物で実験を繰り返したようじゃな」
「えー…動物が可哀想…獣人に知られたらその研究者、殺されそうですね…」
「じゃからこの話はごく一部の限られた者しか知らんし決して表に出ないようになっておる。ミト殿も仲間入りじゃな」
「え!うっかり漏らしたら始末されるとかじゃないですよね!?」
「ほっほっ、うっかり漏らさぬようにするんじゃな」

    勝手に教えておいてそんな無責任な、と思いながらもこんなことを簡単に口に出来るはずもないので聞いていないことにしよう。

「まぁでも、つまり…黒魔法はただ書物に書かれていただけであって、21年前の事件はその書物を元に黒魔法だという噂がたっただけなんですね?実際のところは黒魔法が実在しているのかも、実在しているなら本当はどんなものなのかも分からないってことですね?」
「そうじゃ。さっきまでお主たちが黒魔法と言っていたのは書物に書かれていた特徴の黒魔法のことであって、実際とは違うかもしれん。じゃが、闇魔法を極めれば書物に書かれていた黒魔法の特徴と似たようなことは出来る。それは確定しておる」
「やっぱり…魔界人じゃなくて闇魔法持ちの人間が極めた線が濃厚ですね…でも極めるってどう極めたんだろう」
「そこまでは分からぬ。ずっと闇魔法の研究をしていたその研究者もつい数日前に死んだからの」
「え!?」

    おじいちゃん先生の言葉に思わず大きな声が出る。ちょうどその研究者の名前を教えてもらって直接会えないかと思っていたからだ。

「死んだ…?何で…?」
「長年闇魔法だけと向き合ってきたのじゃ。闇魔法は正しく使えば強力な攻撃魔法じゃが、ありとあらゆる事を試しておったなら身体に害となるようなことももちろんあったのじゃろう。身体にガタが来てしまったようじゃ」
「…そうですか。他に研究者はいなかったんですか?」
「おらぬ。危険な研究だと本人も分かっていたようでな。誰も近付けはしなかった。研究結果を発表するだけして、旅立った勇敢な男じゃったよ。わしの、古き良き友じゃった」

    哀愁漂う声でそう溢したおじいちゃん先生は、元々よぼよぼで小さな身体だがさらに小さく見えた。いくつになっても友を見送るのは辛いものだと、その後に続けた。

「ただいま戻りました」
「ボードン先生、子守りを任せてしまいすまなかったな」

    するとそこへ、アルウィンとライナス王子が帰ってきて、部屋の空気はまたがらりと変わる。俺は安心する2人の顔を見て、無意識に肩の力が抜けていた。

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