【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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突然人の命を奪える黒魔法

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    目を開けるとそこには見慣れた部屋があり、自分の部屋に戻ってきたという安心感で一気に脱力感に襲われる。俺をお姫様抱っこしていたアルウィンの胸に頭を預けるような形に自然となった。
    そのままベッドに運ばれ、ゆっくりと丁寧におろされる。目を見開きながら血を吹き出して倒れる宰相の姿が脳裏にこべりついていて、甦る恐怖でかたかたと身体が震え始めた。

「ミト、怖かったな。もう大丈夫だ。恐ろしいものを見てしまったと思うから、楽しいことを考えよう。そうだ、今朝届けられたエレノア様からの手紙に同封されていたネッド様が描かれたというミトの似顔絵を見るか?」
「う、うん…見たい」
「ほら、これだ。今日の夕食時に見せようと思って懐にしまっていた。よく描けているだろう」
「本当だ…とても上手だ…でも俺ってこんなに小さい?なんか可愛すぎない?」
「フッ、実物のミトは絵で表せないほど可愛いぞ。俺にはずっと愛らしく見えている」
「な、変なこと言わないで!」
「おい!僕の目の前でいちゃつくなど不敬にもほどがあるぞ!」

    甘い声でアルウィンに囁かれて顔を赤くしていたが、ライナス王子の鋭い声に顔を上げる。危うく2人きりの世界だと勘違いするところだったが、震えはいつの間にかおさまっていた。

「失礼致しました、殿下。国王様に何て報告するか、話し合わなければなりませんね」
「…あぁ。それよりお前らは半径1mは離れておれ!目障りだ!」
「しかし殿下、ミトは今震えておりましたので安心させるためにも近くにいたいのです」
「そ、それなら僕がやる!」
「…それはおやめ下さい」
「と、とりあえず俺は大丈夫だからソファに座って話し合おう。ありがとう、アルウィン」
「本当に大丈夫か?」
「うん。アルウィンのおかげで震えがおさまったよ」
「なら良かった」

    優しくまなじりを下げるアルウィンに俺も微笑みを返す。そんな俺たちを見ていたライナス王子が今にも噴火しそうなほど顔を真っ赤にして怒り狂いそうだったので、俺は慌ててベッドからソファへと移動して王子を刺激しないようにソファへと促した。
    王子は悔しそうな、苦しそうな表情を浮かべながらも一度深呼吸をすると黙りこんだままふてぶてしくソファに座る。
    そういえば王子は国王とエレノア様のことについてショックを受けていないだろうかと心配になる。宰相の突然死が衝撃的すぎて頭から抜け落ちてしまっていたが、彼にとってはそちらの方が衝撃を受けたかもしれない。

「王子…その、大丈夫?国王とエレノア様について俺の推測は当たってしまったわけだけど…」
「…今もまだ信じられん。だが父上も姉上も覚えていないのが幸いだ。覚えていたら通常通りの生活は出来なかったであろうからな」
「うん、俺もそう思う。15年前に2人の間で起こってしまった出来事については俺たち3人だけの心に留めて誰にも言わないのが懸命だと思う。2人の心を、いや…第二王子を含めたら3人の心を守るためにも」
「ミトに私も同意します。国王様に嘘の報告をすることになりますが、宰相が語った事実については聞かなかったことにするべきです」
「あぁ、もちろん僕もそう思っている。だが問題は…宰相が死んだこととその理由をどう説明するかだ。どう見ても宰相は女神レティシアを語る黒幕に良いように利用されて捨て駒のように殺された。父上の右腕として長年国を、父上を支えてきた宰相の死は国の大きな損失であり父上に深い傷を与えるだろう。お前を殺そうとしたと言えどな」
「うん…そうだね」

    異世界召喚されて初めて聞いた声が、宰相だった。約600年ぶりに異世界召喚が出来て快挙だと喜ぶ声は、本物だった。あの時は俺が召喚されたことを心から喜び、歓迎してくれていた。
    俺が気持ち悪くなって吐きそうになった時に心配そうにしていたことも、王子と俺が険悪な雰囲気なのをどうにかしようとあわあわしていた姿も、異世界召喚の切実な理由を語っていた表情も、すべて偽物なんかではなかったはずだ。宰相はただただ、国のために、国王のために俺を殺そうとしただけだった。

「俺が召喚されていなければ…宰相が死ぬこともなかったのかな…」
「お前はバカか!?なぜ自分を殺そうとした相手が死んで喜ぶどころか泣きそうになっているんだ!」
「泣きたくなるに決まってるじゃん!宰相は本気で俺を悪だと信じ込まされていただけなんだよ!?俺のせいで利用されて、殺されたんだよ!?そんなの…っ、そんなのって…」

    我慢していたものが一気に込み上げてくる。大粒の涙が頬の上を流れ落ち、俺はまた2人の前で泣いてしまうことが情けなくて顔を手で覆った。

「落ち着け、ミト。ミトが自分を責めたい気持ちは分かる。だがミトは何も悪くないしミトのせいで宰相が死んだわけではない。悪いのはすべて、女神レティシアの名を語って宰相を利用した真の黒幕だ」
「そ、そうであるぞ!男なのだからいちいちピーピー泣くでない!あまり時間もないのに話が進まんだろう!」
「っ…そ、そうだよね…ごめんッ」

    隣に座っていたアルウィンが俺の頬を包んで親指で涙を拭ってくれる。王子の言う通り、牢獄に宰相の遺体を放置したままなのだ。早く国王への報告の仕方を決めて宰相が心安らかに眠れるように埋葬してあげたい。
    涙を拭った頬を俺はパチンと両手で叩き、気持ちを切り替えて話の続きを促した。

「15年前の事実については伏せるが、宰相が女神レティシアの声を聞いてその声の通りにお前を殺そうとしたことは報告すべきだな。その声を語る人間も至急見つけ出さなければならん」
「ええ、そうですね。宰相を利用していた人物が何のためにミトを殺そうとしたのか、その人物はどうやって15年前の事実を知ることが出来たのか、異世界召喚をさせた目的などいろいろ明らかにしなければなりません」
「あ…確かに宰相は産婆と自分しか知らないことだって言っていたもんね。宰相が女神レティシアの声を信じたのも、自分しか知らないはずの事実を言われたからかも」
「ふむ、そうかもしれんな。だがこの底辺界に本物の神がいるわけがない。神界から底辺界に声が届くわけもない。必ず女神の声を語った人間がいるはずだ。くそ…1つの調査が終わったと思ったらさらに難易度の高い調査をしなければならんのか…」
「もちろん協力致します、殿下。まずは祈りの間に出入り出来る者を調べるべきです」
「ならば大神官に協力を仰ぐしかあるまい。彼は異世界召喚にも関わっているし、祈りの間についても一番詳しいはずだからな」
「そのルーサー大神官が一番怪しいと私は思いますが…彼の協力なしでは話は進みませんね」
「まさか、大神官を疑うのか?この国で長年大神官の地位に就いて、国民の意識をまとめるために尽力してきた人物だぞ。彼の言葉で救われた人々は大勢いる」

    俺も最近は見ていないがルーサー大神官の柔らかな笑みを思い浮かべながら、彼は疑う要素がないなと思う。
    確かに大神官も祈りの間に入れると言っていたが、宰相は女神の声を美しい声だと言っていた。それはつまり、女性のものだったということだ。俺がそれについて言及するとアルウィンは確かに、と頷いた。

「声を変える魔法があるなら話は別ですが、そんな魔法があるとは聞いたことがないですね」
「認識齟齬魔法の応用でそう思わせることは可能かもしれんが…声帯を変えることは無理だろう。黒幕は女性と見て捜査するのが良さそうだな」
「女性…女性で殺したいほど俺に強い恨みを持ってて15年前の事実を知ることが出来た人物…そんな人いる?」
「それをこれから調べるんだろう!とりあえず、父上には宰相は女神レティシアの声を語る人物に利用され、何らかの方法で口封じのために殺されたと報告することにする」
「そう言えば宰相ってどうして突然あんな…」
「血を吐いて死んだか、か?これから遺体を調べれば分かるだろうが、恐らく遅効性の毒だと思うぞ。突然人の命を奪える魔法はないからな」
「いいえ、殿下。その恐ろしい魔法は存在致しますよ」

    突然室内に響いた、俺たち3人以外の声に空気が固まった。しゃがれた、年寄りの声。彼は、何もない空間から突然出てきたように、ぬるりとその場に現れた。

「ボードン先生…!なぜここに…」
「ライナス殿下、驚かせてしまい申し訳ありません。宰相が捕らえられている牢獄に行きましたところ、宰相の遺体を発見致しましてな。聞けばミト殿が殿下とアルウィン殿に見守られながら宰相を尋問していたとお聞きしました。何か重大な事があったのじゃろうと推測し、勝手ながら影魔法にてミト殿の影となり話は聞かせて頂きました」
「なっ…!す、すべてをか!?」
「いえ、ミト殿が泣き始めたところからでございます。はて、15年前の事実について国王様には伏せるとのことですが…それはわしが知ってよろしいことではありませんのでしょう。お聞き致しませぬ」
「それは…助かる。それでボードン先生、人の命を突然奪える魔法があるというのは本当か?」
「ええ、ありますとも。知るのは、この世界でわし含めて片手で数えられるくらいですがな」

    俺はまだ、おじいちゃん先生が俺の影となって話を聞いていた事実に理解が追い付いていないが、目の前で話は進んでいく。おじいちゃん先生をソファに座らせ、彼は杖を両手で握りしめながらゆったりと口を開いた。

「黒魔法でなら、人の心臓を握り潰して突然殺すことが可能だと言われておりますのう」

    "黒魔法"

    思わず隣のアルウィンと顔を見合わせる。アルウィンの両親を死に至らしめた元凶、黒魔法。アルウィンはずっとこの黒魔法に似た闇魔法を使える人物、もしくは唯一黒魔法を使える魔界人の存在を探し続けてきた。

「黒魔法って…魔界人のみが使うと言われているあの黒魔法か?何をバカなことを…この世界に魔界人がいるとでも?」
「いいえ、それはございませぬでしょう。しかし、黒魔法は闇魔法を極めた先に到達出来る可能性がほんの僅かでありますがございます。そう、魔力がないはずの異世界人が魔法を使えるようになるほどの可能性と同じくらいの確率ですのう」
「それって…俺は浄化魔法を使えるようになったから…全然あり得るってことですね?」
「そうじゃ。最近の闇魔法研究にて分かったことでまだ正式に発表などはされておりませんがな。闇魔法持ちの人間を片っ端から調べれば、宰相の命をいとも簡単に奪ったやつはいずれ見付かるでしょうな」
「恩に着る、ボードン先生。その情報がなければかなり難しい調査だった」
「ほっほっ、わしの知識や情報が殿下の力になれたのなら僥倖でございます。しかし早く国王様に報告に向かわれるのがよろしいかと。一応宰相の遺体に認識齟齬魔法をかけて隠しておきましたが、国王様が痺れを切らして牢獄に来てしまう前に国王様の元に向かいなされ」
「そうだな、そうさせてもらう」
「殿下、報告は私も着いていくべきかと。ミトの代弁者として」
「あぁ、当たり前だ。ボードン先生、しばらくこいつを任せてもよろしいか」
「老いぼれでございますがミト殿1人お守りできる力はございます。どうぞ、お任せくだされ」

    その言葉に頷いたライナス王子は、アルウィンと共に転移魔法で部屋から消えた。室内に俺とおじいちゃん先生が残され、俺は凄まじい情報量に痛むこめかみを指先で揉んだ。

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