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口を封じられた宰相
しおりを挟む話を聞けば聞くほど、すべての元凶は女神レティシアではないかと思えてくる。俺がこの世界に召喚された原因も、召喚されたのにも関わらず命を狙われたのも、女神レティシアのせいではないか。
沸々と女神レティシアへの鬱憤がたまっていく。本来召喚されるはずだった人と間違えたとはどういうことだ。何で間違いなんて起こるんだ。そもそも俺は邪悪な心を持った悪人ではない。何ホラ吹いてんだ。
「俺の護衛をアルウィン1人に任せたのは何でですか?まさかそれも女神レティシアからのお告げですか?」
「そうですとも!異世界召喚をするに当たって異世界人の護衛はアルウィン1人に任せよとおっしゃられたのです。彼ならば必ずどんな相手にでも勝てるからと」
「それは今まで戦ったことのない妖怪相手でも?」
「妖怪については何も聞いておりませんでしたが…護衛はアルウィン1人で良いと何度も言っておりましたのでそうしたまでです!」
ということは、アルウィンが死んでもいいからアルウィン1人に護衛を任せたわけではないと知り、ホッとする。俺の影に隠れてアルウィンも狙われているんじゃないかと疑ったが、それは杞憂だったようだ。
しかしなぜ女神レティシアが護衛はアルウィン1人にしろと言い続けたのかは不思議だ。そもそも女神レティシアは何者なんだ。俺を邪悪だから殺せと宰相に言っている時点で俺からしたら胡散臭いことこの上ない。絶対に女神なんかではない。
「本当に女神レティシアと会話したと言いきれますか?」
「ええ、もちろんです!邪悪なあなたにはあの扉を開けることが出来なかったでしょうが、私は祈りの間に入ることができ、しっかりと女神レティシア様の美しい声をこの耳で聞いております。彼女があなたを悪と言うのならあなたは悪で間違いないのです!」
「…そんな馬鹿な」
宰相は完全に女神レティシアに心酔しきっている。女神が太陽は黒色と言えば太陽は黒色だと言い張りそうなほど、女神の言葉をすべて鵜呑みにして行動してきたようだ。
洗脳にかかりやすいタイプなんだろうが、根底は悪人ではないのが分かる。ビンスカースの奇襲の時も宰相は闇魔法にかけられた騎士たちを、数少ない光魔法の持ち主として命を救っていた。今回の行動も国と王族を守るために必死だったのが伝わってくる。
黒幕だと思っていたがさらにその先に黒幕がいたってことだ。女神レティシアとは何者なんだ。本当に存在するのか。謎がまた新たな謎を呼ぶ。
「でも何で女神レティシアの声が聞こえていて彼女が言った言葉を国王に報告しなかったんですか?女神を信仰しているこの国なら女神の言葉を伝えて俺を処刑するのが一番手っ取り早いですよね?」
「女神レティシア様と会話出来ることは他言無用だと彼女に言われたのです!私だって言いたくて言いたくて仕方ありませんでしたよ…!しかし人に言ってしまえばたちまち女神レティシア様の声が聞こえなくなると言われてしまえば仕方がなかったのです…!」
「え、じゃあ俺に話しちゃったってことはもう女神の声は聞こえないんじゃないですか?」
「はっ…なぜあなたにベラベラと話したとお思いですか?親切心でここまで話すわけないでしょう!知った人間がいるのならそいつを殺せば女神の声は聞こえるままだからですよ…!」
ゆらり、首に枷をつけられ手足に鎖を繋がれた宰相がじゃらりと冷たい音をたてて立ち上がる。一気に張り詰める殺気に、身の毛がよだった。
「この国のためにも…私自身のためにも…ミト、あなたを何としてでも殺してやります…!」
パァンッ、と凄い破裂音が鼓膜を破る勢いで響いたと思ったら、宰相を繋いでいた鎖が粉々に砕けていた。魔力を封じられているはずで魔法は使えないのになぜ、と思いながら俺は後ずさる。しかしすぐに俺の目の前には、ワインレッドの騎士とプラチナブロンドの王子の背中があった。
「なっ…!あなたたちもいたのですか…!」
「デロリー様、いや…お前など様をつける義理などない。話はすべて聞かせてもらった。しかるべき罰を受けてもらうが、ミトを傷付けることは絶対に許さない」
「ふん、女神だか何だか知らないが変な妄想に取りつかれやがって!宰相、貴様を心底見損なった。こいつを殺したければ僕を倒してからにしろ。王族である僕に手を出せるならな。まぁ今のお前では光魔法を使えないだろうが」
「ら、ライナス様…!」
ぎりぎりと宰相の悔しそうな歯軋りの音が聞こえる。手足の鎖は粉々になっているが、彼の首につけられた魔力を封じる枷は健在だった。
鎖はどうやって壊したのだろうと思ったが、どうやら火薬の匂いがすることから癇癪玉のようなものを忍ばせていてそれを使ったのだろうと察した。
「ライナス様…!私はこの国が信仰する女神レティシア様の声を唯一聞ける者なのです!何年もこの国と国王様に忠誠を誓い、献身的に仕えてきた私よりもそこの異世界人の方が大事だとでも言うのですか!?」
「無論だ。そもそも僕は女神など信仰しておらん。勝手に大神官が言っていることだろう。それに僕もこの騎士もお前が女神の声を聞けると知ったぞ。ならば僕たちのことも殺さなければ、もう女神の声は聞けぬではないか」
「そ、それは…!」
「さぁ、どうする?僕たちのことまで殺すか?それとも白旗をあげて女神の声を諦めるか?」
「うっ、わ、私は…ライナス様を傷付けることは…」
宰相は苦渋の表情をしていた。彼の様子を見ていると本当にこの国のために、この国の王族に忠誠を誓って仕えてきたであろうことが分かる。真の悪人ではなく、女神の声に翻弄されているだけなのだ。
「デロリーさん、俺は国王とエレノア様のことについて誰にも口外しないと誓えます。あなたが話してくれた過去の話はここだけに留め、二度と口に出すことはしません」
「そ、そんなこと口では何とでも言えます…!」
「どうすれば信じてもらえますか?俺は女神レティシアが言うような邪悪な心を持っている自覚はないし、これでもこの国のために聖魔法を取得しようと頑張ってきたつもりです。最近やっと僅かですけど魔力が芽生えて浄化魔法は使えるようになりました。俺はもっと魔力量を増やして、この国のために出来ることをしたいんです。この気持ちに偽りはありません」
「あなたも少なからずミトが努力してきた姿を見ていたはずです。異世界人には魔力がないと言われていた中で魔力を芽生えさせたことがどれほど凄いことか、あなたなら分かるでしょう?あなたが聞いた声は本当に女神レティシアだったと言えますか?あなたこそ邪悪な人間に利用されたのではないですか?」
「ま、まさか…そんなはずは…」
「いい加減分からぬのか。女神の声が聞こえる時点でおかしいということに。女神レティシアは神界に実在していると言われている。神界が底辺界に関与しようとすれば、この世界の大きなルール違反になるはずだ。女神は大きな代償を支払うことになる。そうまでしてお前に声を聞かせるはずがなかろう!」
アルウィンとライナス王子の掩護射撃のたびに、宰相の顔色がみるみる悪くなっていく。彼の目が、次第に洗脳から解かれようとしている。しかし信じていたものが紛い物だったと信じたくない気持ちが邪魔をして、中々それを受け入れられずにいるのが手に取るように伝わってきた。
「そ、そんなまさか…だって、だって女神レティシア様は…!」
宰相が、喉から絞り出したような声で続きを口に出そうとした、とき。
「かはっ…!うッ」
真っ赤な鮮血を口から出した宰相は、そのままドサリと、冷たい石の床に倒れた。
「で、デロリーさん!?」
「な、これは…」
「……口を封じられたようですね」
俺は恐怖で足がすくみその場に情けなく座り込んだが、アルウィンとライナス王子は倒れた宰相の元に駆け寄り、彼の脈をはかる。そして小さく首を横にふりアルウィンが険しい顔で言った言葉を聞いて、宰相が口封じのために殺されたんだと察した。
「ミト、見ない方がいい。目を閉じていろ」
「う、うん…」
「…父上に何と報告すれば良いのだ」
目の前で、知っている人が死んだ。殺された。その衝撃は凄まじく、現実だとは思えなかった。思いたくなかった。
重たい空気が牢獄内に流れるのを、真っ暗な視界の中、肌で感じていた。ひとまず落ち着いて話すために、俺たちは俺の部屋に転移をすることにした。死んだ宰相を、冷たい牢獄に残して。
***
キィ、キィ。キィ、キィ。
蝙蝠の鳴き声が合唱のように奏でられる空間で、赤と青のオッドアイは静かに鏡の中に映っている光景を目にしていた。
黒髪の小柄な少年が、ワインレッドの騎士に抱き抱えられた姿で牢獄から姿を消すのを、ぎり、と歯を食いしばって見ていた。血を流して倒れている人間など、目に見えていないかのように黒い頭の残像を追っていた。
「レティシア…久しく聞いていなかった名だが、あやつが関与しておったとはな…」
人が聞けば耳が妊娠したとでも言われそうなほどの美声で静かに呟いた彼は、蝙蝠を指先に乗せ、口を開いた。
「そちらの世界に女神レティシアが紛れ込んでいる。調べろ」
『御意』
蝙蝠が口を動かし、その口から返答が返ってくる。それを聞いたオッドアイの男は、蝙蝠を羽ばたかせた。
「……そろそろ、潮時であろう」
きらり、宝石のようなオッドアイの瞳が煌めく。真っ暗な世界で、真っ黒なオーラを纏った彼は、冷たくも美しい笑みを浮かべながら。
手の甲に刻まれた紋様に、キスを落とした。
***
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