【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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宰相による異世界召喚の経緯

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    アルウィンから聞かされた話によって、王子からアルウィンへの疑惑を聞かされてからずっと心の重荷になっていたしこりが消え、俺はやっと息が吸える心地になった。
    王子はアルウィンの話の途中で至急国王に宰相のことを報告しに行ったため、もう室内にはいなかった。
    ソファに2人で並んで座り、アルウィンが俺の手に自分の手を重ねる。話してくれた内容だけではまだ不透明な部分はあるが、ひとまず彼に伝えたい。

「ずっと1人で抱え込んでいたんだ…アルウィン、ごめんね。何も知らないまま、勝手に勘違いして。アルウィンも辛かったでしょ?」
「辛かった…というより、何とかしなければという思いが強かった。ミトのことも孤児院のことも守るために、どうすればいいのかずっと考えていた」
「俺が頼りになる男なら事情を話して力になれたかもしれないのに…誰にも何も言えなかったのは苦しかったと思う。でもそうまでして、俺を守ろうとしてくれて本当にありがとう」

    今日、あの会話を聞くまではアルウィンの疑惑を聞かされても全く疑っていなかった。きっと彼にも何か事情や思惑があり、動いているのだろうと確信していた。
    しかし今日のあの一瞬の会話で絶望感に陥るほど、彼を最後まで信じきることが出来なかった。それが俺は、はらわたが捩れるほど悔しい。

「…最近、よくいなくなっていたのは孤児院に行って院長と相談していたから?」
「それもある。宰相が捕まる前に孤児院に何か手出しをされたらたまったものではないから、移設と合わせて警備強化を地元の騎士団に頼み込んでいたんだ。その他にもマクラウド男爵と話をつけるため男爵家に行っていた。ミトが安全であると確信出来なければ俺も動けなかったから、嘘をついてまでこの部屋に閉じ込めてしまった。本当にすまなかった」
「ううん、アルウィンがそんなに頑張っていることを知らずにのうのうとこの部屋で暮らしていた自分が恥ずかしい」
「宰相はこの後捕まるだろうから話はつくが、まだマクラウド男爵と話はつけてもリジーと話が出来ていない。それもすべて終わったら……」
「うん、分かってる。だから今はまだ何も言わないで」
「…ありがとう、ミト」

    俺たちは自然と導かれるように、抱き締めあった。言葉はなくても、お互いの気持ちは見えていた。夢のようでまだ信じられない気持ちがあるけれど、アルウィンからの愛を全身で感じる。今はそれだけで、胸がいっぱいだった。

***

    その日のうちに、ライナス王子から報告を聞いた国王は宰相を捕らえ、事情聴取をした。そこに王子とアルウィンも同席し、宰相は激昂しながらこの拘束は不当だと喚いていたらしい。

    何も話そうとしない宰相を捕らえて3日後、俺は自ら宰相と話をさせてほしいと国王に願い出た。俺なら、話を聞き出せる自信があったからだ。
    宰相には俺と2人きりの空間のように見せて、実際はアルウィンたちも聞いている場を認識齟齬魔法で作り出してもらう。
    事前にライナス王子には、第二王子の秘密に関しての推測を話しておいた。話さない方がいいと思っていたが、俺を殺そうとした理由がそこにあるのならいずれ知ることだ。もちろん彼は声を荒げて信じなかったが、逆にこの事情聴取を誰よりも怖い顔で真剣に聞くことにしたようだ。
    アルウィンと話し合った上、事情聴取には俺たち3人だけが聞くこととし、国王には後から真実を報告するかしないか、話し合った上で決めようということになった。

    冷たい牢獄の中で魔力を奪う枷をつけられた宰相と俺は3mほどの距離をあけ、向かい合った。

「ミト…異世界人…やはりあなたは知ってしまったのですね!?」
「ユーリス第二王子が国王とエレノア様の間に出来た子供だということを?」
「口にするな!やはり…やはり女神レティシア様は正しかった…!早くあなたを殺さなければ…殺さなければ…!」

    宰相の口ぶりからやはり俺が気付いてしまった推測は事実なのだと確定する。認識齟齬魔法で姿は見えていないが、ライナス王子が驚きで白目を向いていなければいいなと思いながらも、俺は話を続けた。

「俺がそのことに気付いたのは毒を盛られた後です。何で俺を殺そうとしたんですか?」
「嘘をつくんじゃありません!女神レティシア様は祈りの間でおっしゃったのです!異世界人ミトは国王様の秘密を暴こうとしていると!そしてそれを国中に言い触らすつもりだと!」
「祈りの間って神殿の…?デロリーさんは祈りの間に入れるんですか?」
「ええ、入れますとも!あなたと違って私は純粋で美しい魂の持ち主ですから!あなたは悪に染まり、薄汚い欲にまみれた異世界人、祈りの間に入れるわけがありません!」

    うんともすんともしなかった石壁の扉を思い出す。宰相があの祈りの間に入れたとは驚きだ。
    確かに大神官から祈りの間に入れる者は純粋な魂の持ち主だけで、入れた者には奇跡とも呼べるような不思議な出来事が起こるという。しかし大神官は、女神レティシアの声が聞こえるとは言っていなかったはずだ。

「祈りの間で、女神レティシアと会話したんですか?」
「ええ、ええ、そうですとも!私は女神レティシア様に選ばれた存在なのです!彼女は私におっしゃいました。私達が召喚した異世界人ミトは邪悪な存在であり、私が必死に隠し通してきた王族の秘密を暴き、この国を乗っ取ろうとしていると!」
「はぁ?」

    あまりに突拍子もない話すぎて思わず顔を大きくしかめる。俺が努力していたことを少なからず宰相は知っていたはずだし、誰よりも俺とライナス王子を仲良くさせて子を生ませようとしていたのはお前なのに何を言っているんだ、と思わずにはいられなかった。

「俺が国を乗っ取る?あなたの妄想ではなくて?」
「女神レティシア様の美しい声を実際に私は耳にしたのです!あなたは私が必死に隠し通してきた第二王子の出生の秘密まで既に勘づいていると。共に食事をしたとき、私のことを訝しげな、探るような目で見ていたではありませんか!」
「それは確かに挙動不審なデロリーさんを不思議に思ってましたけど。でも毒殺未遂されるまで俺は第二王子に関して何も不審に思っていませんでしたよ。デロリーさんが黒幕かもしれないと聞かされてから、あの時の挙動不審なデロリーさんを思い出してそれから調べ始めたんですから」
「嘘を言うな下賤者!私はしっかり女神レティシア様の声を祈りの間で聞いたのです!」

    話は平行線だと思った。宰相の様子からして本当に女神の声を聞いたか、聞いたと思い込んでいるかのどちらかだ。それに関して事実の証明はしようがないから、俺は明らかにするべき事実について話を切り出した。

「エレノア様はどうして国王との間に子を?2人は記憶がないようですけどどうやって2人の記憶を奪ったんですか?」
「人の記憶を奪えるはずがないでしょう!あれは…あの時は…お二人とも心の病に犯されていたのです!国王様は王妃様を強く愛しておられたのに二度と床入り出来ないと知り、深く絶望されましたがそれでも王妃様を愛されました。しかし次第に触れたくても触れられないもどかしさに精神がおかしくなっていき…15歳だった当時のエレノア様は瓜二つとは言わずとも王妃様に姿形が、特に体つきが次第に似られていき…それを国王様は夢の中だと思い、エレノア様を襲ってしまわれたのです…!」

    宰相の悲痛な叫び声が耳をつんざく。やはり宰相も、俺を殺そうとしたとはいえ、それはすべて国王に仕える忠誠心のもと、血迷っただけなのだと悟る。むしろその忠誠心を利用されたようにも思える。

「エレノア様は泣いて喚き、その声を聞いた私は国王様を止めようと必死でした。しかし…国王様は止まらなかった。止められなかった…!私の罪でございます!」
「…エレノア様は、その後どうしたんですか?」
「事が終わり、気を失っていたエレノア様が目覚めたとき、彼女はショックから何も覚えておりませんでした。むしろ心を病み…妊娠中は人形のように何も話さず、自分が妊娠していたことも出産したことも、すべて忘れられていたのです…!」

    記憶を消す魔法などないと聞かされたときから薄々分かってはいたが、やはり記憶を消されたのではなく、エレノア様自身があまりのショックで記憶に蓋をしたのだ。
    ライナス王子のことを語って笑い、俺の頭を撫で、息子のネッドくんとウィンストン公爵と共に幸せそうな笑顔を浮かべていた彼女を思い出す。悲惨な記憶を失ったからこそ、あの笑顔は失われていないのだと知り、胸が軋むように痛んだ。

「私は生まれたばかりのユーリス様を抱きながら、必死に考えました。あれは夢だったのだと思い込んで忘れられた国王様と、実の父親に犯され妊娠し、出産したことすべてを忘れられたエレノア様を守るために、何よりこの国を守るために、この事実を墓まで持っていき誰にも知られぬよう隠蔽するにはどうすればよいかと」
「それで…侍女の話を思い付いたのですね」
「やはりそこまで知っていたか…!ええ、そうですとも。お産に関わった産婆は運良く年寄りだったこともありエレノア様が出産した数週間後に亡くなりました。エレノア様の妊娠は私とその産婆のみが知っておりましたから、産婆の死により私以外知る者はいなくなりました」
「エレノア様の妊娠中は病気だと偽り、一切の面会を謝絶して気付かれないようにされたんですね」
「ええ。すべて上手くいきました。一番大変だったのは国王様が夢の中で抱いたのは侍女だと、私の口から国王様に知らせた時でした。その侍女が子を産み、王宮に捨てていったと私が説明すると、国王様は王妃様へ泣きじゃくりながら懺悔されました。しかし王妃様は心が自分にあるのなら国王としての務めを果たすため、側妃や妾を作りなさいと深い慈愛の心で国王様を慰められたのです」

    後宮の話を聞いたとき、国王は元気で凄いなと思ってしまったあの時の自分を恥じる。そんな背景があったとは思いもせず、一夫多妻制への強い反発があったせいで偏見を持ってしまった。国王には、国王の苦しみがあるのだと、初めて知った。

「しかし国王様は、なかなか側妃を娶ろうとされませんでした。第二王子も自分の手で抱こうとすらしませんでした。そして近親相姦ゆえの弊害なのか、第二王子は大変脆弱な体質でございました。さらに恐ろしいことに…その時から、国王様の聖魔法の力が日に日に弱まっていったのです」
「え…じゃあ、国王の聖魔法が弱まっていった原因はまさか…近親相姦をしたから?」
「その可能性が高いでしょう。ですがこれを私は誰にも打ち明けるつもりはありませんでした。謎の問題事として、しばらくは国王様の力が弱まっていることすら隠していました。ですがその失い方は尋常じゃなく、日に日に国の結界が弱まっていることを感じていた私は、国王様にあらたに子を作って頂き、何とか聖魔法持ちの子が誕生するのを願っておりました」
「…だから国王も、仕方なく側妃や妾を作ったんですね」
「自分のせいだと責任を感じる国王様は、ご自身が出来ることはなにかと考え、王妃様への深い愛情とは別の責務として私の意見をのんで下さりました。しかし中々子は出来ず…側妃様が8年前に双子の王子を出産し、ようやく安心しましたが…双子のどちらも聖魔法持ちではありませんでした」

    そして、と宰相は俺を睨み付けながら言葉を続けた。

「ルーサー大神官から、入れれば女神レティシア様に願いを聞いてもらえるという祈りの間の存在を教えられ、私は一か八か試して…そして見事私は祈りの間に入れたのです!そこで女神レティシア様に願いました。次に生まれる王子は聖魔法持ちであってほしいと。すると何と女神の声が返ってきたのです!」

    恍惚とした様子で息を荒げながら次第に声が大きくなっていく宰相は、完全に宗教を熱烈に信仰している信者のようだった。

「女神レティシア様はおっしゃいました。国王様にはもう子種を作るほどの力がないと。しかし、聖魔法持ちの子を作る方法があると教えて下さいました!異世界召喚により異世界人とライナス王子に子を作らせよ、と!」
「じゃあ異世界召喚は、女神に言われたから行われたんですか?異世界書記に書かれていたのではなく?」
「表向きにも国王様にも異世界書記に書かれていたと言いましたが、あれは女神レティシア様から聞いた話を実行するために私がでっち上げた嘘です」
「それなのに今は俺を殺せと?」
「ええ…!異世界召喚で本来召喚されるはずだった人物と間違った人物がこの世界にやって来てしまったと!あなたが!あなたのせいで!!」

    おいおい、嘘だろ……勝手に召喚しておいて人間違えだなんてあるかよ。頭が痛くなった俺は、宰相から明かされる異世界召喚と殺されそうになった経緯を知り、意識が遠退きそうになった。

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