【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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獣人兄弟と一緒に過ごす日

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    宰相が亡くなったと正式に国王から発表され、困惑と悲しみが入り乱れる王宮内で俺はなるべく大人しく過ごしながら迎えた週末。男爵家に向かうアルウィンを送り出し、ドロモアたちが来るのを自分の部屋で待ちながら最近のことを整理した。

    アルウィンたちと決めた通り、国王は宰相が隠し通してきた秘密をもちろん知らない。しかし女神レティシアの声を語る人物に俺は悪魔だと嘘を吹き込まれ、暗殺を企んだというふうに国王に報告し、その通りに王宮内でも国民に向けても発表された。
    その宰相が口封じのために女神レティシアの声を語る人物とされる何者かに暗殺されたことも合わせて発表されると、国民からは不安や不満の声が噴出しているという。
    長年国王の側近であり右腕として国に尽くしてきた宰相は、操られ利用されたことで惜しい人材を失ったとも囁かれているようだ。実際にその通りなので国民からは異世界人の俺が元凶ではないのかと、俺への疑心や鬱憤が溜まってきていると使用人が噂しているのを聞いてしまった。
    アルウィンやライナス王子はすぐにそんな声はおさまるから気にするなと言うからなるべく気にしないように振る舞っているが、俺のせいで宰相が死んだという罪悪感はずっと拭えない。

    国王が黒幕の正体を調査していること、異世界人である俺は被害者であり巻き込まれただけなこと、国のために俺が頑張っていることを説明して噂は一蹴してくれたが、それでもまた別の人間から憎まれ、殺されそうになるんじゃないかと不安は尽きない。
    ライナス王子が多忙を極めているため魔力訓練もアルウィンの魔力を流してもらうのみだが、毎日浄化魔法は必ずしている。しかし少しでも早く魔力量を増やして役に立てるようになりたい俺は、焦りも感じ始めていた。

    21年前の事件の黒幕と今回の黒幕が同一人物である可能性が高いことについてもアルウィンとよく話し合っている。両親の仇を討ちたいアルウィンにとって、今回の事件はある意味大きなチャンスでもあるのだ。
    そんな彼にとって今日は、幼い頃からの幼馴染みでありずっと婚約者だったリジーさんとの婚約破棄を成立させる大切な日だ。
    言葉にせずとも、アルウィンから注がれる眼差しや言葉、行動の節々から俺への思いを感じる。これは勘違いではないと信じている。アルウィンも俺と同じ気持ちなのではないかと、期待してしまっている。

    今日、アルウィンが帰ってきて一番最初に言う言葉は何だろうかと考えながら1人部屋で待つことがなくて良かったと心底思う。早くドロモアたちが来ないかなとそわそわしながら待っていると、待ち焦がれていたコン、という音が窓から聞こえてきた。
    すぐにパタパタと音を立てながらカーテンを開け、窓を開ける。するとドロモアとウィルマが素早い動きで上から室内へと飛び込んできた。

「ミト!会いたかった!」
「ウィルマ!久しぶり!ドロモアも来てくれてありがとう」
「ん」
「ミトから遊びに誘ってくれたんでしょ!?何して遊んでくれるの!?」

    窓から入ってきてすぐウィルマに抱き付かれ、その勢いの凄さに後ろによろけそうになる。それをドロモアの腕が腰を支えてくれて、何とか倒れずにすんだ。

「外では遊べないからこの部屋の中で出来ることのみになっちゃうけど、今日は長く遊べるよ。ウィルマはどんなことがしたい?あ、おやつもあるよ」
「やったー!おやつ食べたい!」
「じゃあまずは手を洗ってソファに座って。そうだ、獣化は敵襲とかがないかぎりはしないでね」
「はーい!」

    今日も元気一杯でいい子なウィルマに癒されながら、俺は机の上に用意してもらっていたお茶をカップに注いでいく。ドロモアに窓とカーテンを閉めるように頼んで、使用人も入ってこれないように扉に鍵をかけた。

「それにしてもドロモア、この前反応返してくれたけどいつも俺の声が聞こえるくらいの距離にいてくれているの?」
「ん。ミト、守るため」
「兄ちゃんだけずるい!僕もミトの近くに行きたいのにいっつもお留守番させられるんだよ!」
「お前、邪魔になる」
「ひっどーい!ミト、兄ちゃんはすっかりミトのことが大好きになって、いつも獣人村を抜け出してずっとミトを見ているんだよ!」
「そうなの?ドロモアのおかげで獣人村のみんなは俺を妖怪みたいに狙わないって聞いたけど、それも本当?」
「うん!ほんと!僕は話聞いてなかったけど、村長や父ちゃんたちはミトを絶対守れって兄ちゃんに言ってた!みんなミトのこと好きにったみたい」

    都合の良すぎる話に首を捻る。獣人も妖怪と同じく異世界人を憎んでいたはずなのに、俺を守れとは一体どういうことなのか。
    ウィルマは単純に俺が好かれたからだと思っているようだがそんなわけがない。ドロモアを見上げて説明を求める視線を向けるが、彼は今日も今日とて感情の分からない無表情と無言を貫いていた。

「ドロモア、何で俺を守ろうとしてくれるの?」
「……ミトだから」
「そんなのミトのことが大好きだからに決まってるじゃん!兄ちゃんの番になってよ!」
「番って…そもそも獣人と人間って番になれるものなの?」
「分からないけどミトならなれそうな感じあるよ!」
「人間は無理。ミトは出来る。でも出来ない。番したかった」
「んー?どゆこと?異世界人と獣人なら番になれるの?俺の前の異世界人が来たときはまだ獣人は底辺界に来ていなかったのに?」
「僕、難しいことは分からないよ!でもミトは特別だから番になれるよ!ね、兄ちゃん」
「……」

    ウィルマの問いにドロモアは頷かず、無言を返した。俺は獣人と番になれるようだが、番になれないらしい。謎かけみたいで意味が分からないが、そもそも俺はアルウィンとしか結婚したくないので考えるだけ時間の無駄だなと思い、話題を変えた。

「ウィルマ、この国のオモチャとか絵本とか用意してもらったんだ。どれから遊びたい?」
「オモチャ!?やったー!」

    初めて見るオモチャに興奮した様子のウィルマがキラキラと輝かしい笑顔を浮かべていて、子供の無邪気さと純粋さに心が浄化される気分になる。
    俺もこの世界のオモチャは初めて触れるが、ウィルマが気になったものから試していき、勝負をしたり協力ゲームをしたりしているうちに、時間はあっという間に過ぎていく。
    たまにドロモアも混ぜてゲームをすると全部ドロモアが勝ってしまったので途中からは俺とウィルマの2人だけで対戦し、ドロモアはお菓子をむしゃむしゃ食べているだけとなった。
    
    用意してもらったオモチャのほとんどを遊びきり、ウィルマが絵本を読んでほしいと言うので俺たちはベッドに移動した。遊びつかれたのか、少しうとうととした様子のウィルマと並んでベッドに入り、ウィルマが選んだ「ご主人様と忠犬の絆」という絵本を読んであげる。
    絵本は孤児院で読んで以来だが、子供向けとはいえ案外おもしろくて俺も台詞に熱を入れて読む。最後のページを読みきって横を見ると、ウィルマがスゥスゥと寝息をたてて眠っていた。
    俺は静かにベッドからおりて、ソファに座っていたドロモアの前の席に座る。読み聞かせしたことで乾いた喉をお茶で潤し、ホッと息をついた。

「ウィルマ、ぐっすりだ」
「昨日寝てない。楽しみしてた」
「眠れないほど楽しみにしてくれてたんだ?たくさん遊んで楽しめたかな」
「ん。すごく」
「良かった。でもドロモアはつまらなかったよね?付き合わせちゃってごめんね」
「ミトのそば、いれればいい」
「ふふ、ドロモア、今読んだ話の忠犬みたいだ」
「…虎だ」
「うん、犬じゃなくて忠虎だね。でも今日は本当にありがとう。俺も久しぶりに力を抜いて楽しい時間を過ごせたし、1人でこの部屋でアルウィンの帰りを待つのはしんどかったと思うからとても助かったよ」
「ん」

    小さく頷くドロモアの表情はやはり変わらないが、何となく雰囲気で少し照れているのかなと伝わる。図体は大きいし仏頂面で強面だから迫力はあるけれど、動きは最小限で小さめだし話してみるとあまり抑揚のない静かな声だからか、自然と癒されるのが不思議だ。

「…騎士、どこ行った」
「アルウィン?婚約破棄をしに婚約者の実家に行ってる。もう少しで帰ってくると思うよ」
「アイツ、ミトに触れるな、言った。嫌だ」
「あー…アルウィンはまだ少しドロモアを警戒しているからね…気悪くしたならごめん。でも触れられるのは俺もちょっと…」
「なんで」
「いや、そりゃだって触れる必要ないし」
「忠誠の証、したい」
「あれは絶対ダメ!やったらアルウィン、激昂して二度とドロモアと会えなくなると思う」
「…権利、ない」
「アルウィンがそんなこと言う権利ないって?確かに"今は"そうかもだけど…」

    今日帰ってきたら、そう言う権利が出来るかもしれないのだ。時間が経つにつれてそわそわ、ざわざわと体内がざわつき始めていた。いよいよだ、と思う気持ちと婚約破棄できていなかったらどうしよう、と不安になる気持ちが交錯しているのだ。

「でも俺はアルウィンのことが好きだから、アルウィンにしか触れられたくないんだ」

    正直な気持ちだしドロモアには話しても大丈夫だろうと思って言葉にした瞬間、ドロモアが今までの無表情が嘘のように目を真ん丸に見開いて硬直する。俺もそんなドロモアの反応に驚いて連鎖したように固まった。
    その後すぐにドロモアがソファからスクッと立ち上がり、正面の俺の元まで数歩歩いただけで来る。突然ピリピリとした空気を纏い始めたドロモアに、冷や汗をかき始めた。
    彼は俺の前にしゃがみながら、俺の両腕をがしっと掴む。彼の握力なら俺の骨を折るなんて造作もないことだから、一気に緊張感が背筋を駆け抜けた。

「それはダメだ」
「え…?」
「ダメだ、絶対、ダメ」
「な、なにが…?アルウィンを好きなことを?」
「ミト、殺される」
「へ?誰に?」
「……」
「肝心なことは何でいつもだんまりなの?それも言ったらドロモアが消えちゃうの?"大変なこと"や異世界人を憎む理由を口にしたら消えてしまうみたいに」

    いまだに妖怪の言っていた"大変なこと"がどんなことなのかは分からないが、今のところ"大変なこと"は起きていない。彼らが口を閉ざさるを得ない理由も分からないままだ。

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