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ダメと言われても止められない告白
しおりを挟む分からないことばかりが膨らんでいく一方なのに、またドロモアが不穏なことを言うから血の気が引いてきた俺の顔を、ドロモアが覗き込んできた。
「…俺、怖い?」
「え?…ううん、ドロモアのことは全然怖くないよ。分からないことばかりで辟易していただけ」
「……ミト、守りたい」
「何から守りたいの?誰から守りたいの?それも言えない?」
「……」
まただんまりを決め込むドロモアに残念な気持ちはあるものの、彼にも彼なりの事情があるのだろうと納得する。ドロモアは俺の顔に手をそえ、親指で俺の目の下を繰り返し撫で始めた。
「な、なに…?」
「…何色、好きだ」
「色?俺の好きな色ってこと?」
「ん」
「ワインレッド。深みのある大人の赤が好き」
「……真っ赤な赤、違う?」
「違うよ。真っ赤な赤はどちらかと言うと苦手かも。渋くて黒を混ぜたような赤が好き。アルウィンの髪色みたいな色」
「……」
「ドロモアは何色が好きなの?」
「…赤」
「それは俺と同じ赤じゃなくて真っ赤な赤のほう?」
「ん。美しい、赤」
初めてドロモアの好きなものを聞いた気がする。突然どうして好きな色を聞いたんだろうと不思議に思うが、もしかして話を逸らされたのかなと勘ぐる。
ドロモアは俺が知りたいことをたくさん知ってそうな気配があるのに、聞いても無言で返されることが多くて何も分からない。何を考えているのかも何を思っているのかも分からない。ここまで来て彼を敵だとは思わないが、絶対的な味方とも言えない不信感があった。
「ねぇ、何なら教えてくれる?ドロモア、何か知ってるんでしょ?」
「……」
「アルウィンを好きなことが俺を狙う理由になるの?俺が誰かに狙われているのはアルウィンが関係しているの?」
「…知らない」
「でも俺がアルウィンを好きだと殺されるんでしょ?その誰かから俺を守ってくれているんでしょ?」
「違う」
「え、違うの?」
「違うけど違わない」
「えぇ?なにそれ…全然意味が分からない…」
「騎士、離れた方がいい」
「だからその理由が知りたいのに…」
あぁ、またこの流れだ。ドロモアの言葉は最小限で、謎かけのようで、頭が混乱する。口下手も良いところだ。余計に混乱するだけだからこれ以上聞くのはやめた方が俺の脳みそのためかもしれないとさえ思い始めた。
「なんかもう、よく分からないからいいや。とりあえずドロモアが俺を守るって言葉に嘘はないんだもんね?」
「ん。ミト守る」
「…そっか。よく分からないけどありがとな。俺なんかを守ろうとしてくれて」
「なんか違う。ミトは主」
「その主ってのもよく分からないし…獣人にとって異世界人は敵視されるような存在なのに何で俺はドロモアの主なの?」
「……」
「…分かった、もう何も聞かないでおくよ」
どうせ無言で返されるだろうなと分かっていながらも駄目元で聞いてみれば、やはり無言で返されてげんなりする。どうせ聞いても答えてもらえず、余計に迷走するだけだから質問することを諦めた。
「とりあえずドロモア、俺から離れて元の席に戻って」
「…怒った」
「怒ってないよ。俺バカだから答えてもらえないなら聞かない方が混乱しなくてすむやって思っただけ。ドロモアも困らせちゃってごめんな」
「…ん」
無表情だけど少ししゅんとして見えるドロモアが立ち上がり、座っていた正面のソファに戻っていく。ドロモアの虎耳の変化は分からないが、縞模様のしっぽがだらりと垂れ下がっていて、やっぱり少し落ち込んでいるのかもしれないと気になった。
「ミト、ただいま」
そんなところに大好きなワインレッドを持つ彼が部屋へと転移魔法で帰ってきて、俺は一気にテンションが上がる。ソファから飛ぶ勢いで立ち上がり、アルウィンに駆け寄ってそのまま抱き付いた。
「アルウィン!おかえり!」
「あぁ、ただいま。何事もなかったか?」
「うん!よかった…きちんと帰ってきてくれた…」
「なんだ、帰ってこないかと思っていたのか?」
「実はちょっと…解放してもらえないとか問題が発生したりするかもしれないと思って、少し不安だった」
「不安にさせてしまってすまない。でも大丈夫だ、婚約破棄は無事に成立した」
「本当!?」
「あぁ、もちろん。やっとだ。やっと…」
アルウィンの口からリジーさんとの婚約が無事に破棄されたと聞かされ、俺はドロモアたちがいることも忘れて踊り出したいほど歓喜に胸が震える。
人の婚約破棄を喜ぶなんて最低だと思うし、リジーさんの気持ちを考えたら複雑だが、それでも何かしらの障害があって婚約破棄は出来ないんじゃないかと不安だったから、その憂いが払拭された安堵から来る歓喜だった。
がっしりとしたアルウィンの腕が俺の腰にまわり、俺はアルウィンの背中に回した手に力を込める。俺を見下ろすアルウィンのシルバーの瞳が感慨深そうに揺らめいていて、その瞳の中に吸い込まれるように視線を逸らさず、見つめ合った。
「…ミト、だめ」
しかしそんな俺たちを引き裂くように、後ろからドロモアが俺の口許に手を回して、軽めの力で後ろに引っ張られる。獣人のドロモアの力なら俺たちを引き離すことなんて簡単だ。この力の弱さは俺を気遣ってくれているのだと分かり、ドロモアの存在を一瞬忘れてしまったことに申し訳なさを感じた。
しかし目の前のアルウィンの表情はみるみるうちに不機嫌を通り越したような表情になり、俺の口許に回されていたドロモアの手を無理やり引き剥がした。
「獣人、ミトの護衛には感謝するが……ミトに触れるなと言ったはずだ」
「……ミト、死ぬ」
「なんだと?」
「ドロモアが今日もずっとよく分からないことを言っていたんだけど…確かなのは俺とアルウィンは離れた方がいいって言うんだ」
「獣人、何を根拠にそんなことを言っている?俺は決してミトから離れないしミトも死なせない」
「…後悔するとき、来る」
「自分のした選択を後悔しない努力をするから大丈夫だ。一応は忠告として受け取っておく」
「……」
「今日はこちらの我が儘を聞いて頂き、感謝する。気をつけて帰ってくれ」
ドロモアから少しでも俺を離そうとしたいのか、アルウィンは俺の腰を抱いたまま一歩後ろに下がり、ドロモアを睨み付けながら帰りを促した。ドロモアは無表情のまま静かに俺たちを見下ろしていたが、ウィルマの起きる気配を感じて俺たちに背を向けた。
「ウィルマ、帰る」
「ふぁぁ…僕、寝ちゃってた?」
「おはよう、ウィルマ。そろそろ帰る時間だって。今日は来てくれてありがとな。室内だけだったけどたくさん遊べてとても楽しかった」
「僕もすっごく楽しかった!また遊びに来てもいい!?」
「うん、もちろん。気をつけて帰るんだよ」
「はーい!」
寝起きのいいウィルマはピョンッと軽やかに俺のベッドから下りてフードを被った。ドロモアもフードを被りながら、 俺たちの方をちらりと見る。彼の黄金に輝く瞳と縦長の黒い瞳孔が、細められた。
「ミト、また来る」
「…うん、またね」
「ばいばーい!」
生き生きとした表情のウィルマと意味深な瞳を向けたドロモアに向かって手を振る。彼らは窓からあっという間に姿を消し、カーテンがゆらりと揺れるのをぼんやりと見つめた。
「ミト、あいつに何もされなかったか。どこか触られたか?」
「あー…少し近付かれたけどすぐに離れたから大丈夫だよ。それよりアルウィン、本当に婚約破棄は成立出来たの?」
「当たり前だ。しっかりリジーとも話をして違約金を払って円満で婚約破棄してきた。俺はもうこれで、自由だ」
「おめでとう、って言葉でいいのかな…?リジーさんは…大丈夫そうだった?」
「リジーのことを気にしてるのか?彼女は父親の言いなりになっていただけだしタフだからすぐに別の相手と結婚するだろう。別れ際も仕事頑張りなさいよと背中を蹴られた」
「わぁ、さすがリジーさん、逞しい。でもそれを聞いて安心した…」
「ミト、やっとすべてが片付いた。約束通り……ずっと伝えたかったことを言わせてくれ」
―――ドクン、ドクン。
何度も俺を守ってきてくれた腕に腰と背中を抱き締められながら、至近距離で顔を近付けられる。鼻先と鼻先がさわさわと触れ合っている。体温が急上昇し、心臓が喉までせり上がって来たのかと思うほど、言葉が出なかった。
シルバーの瞳が、熱を帯びている。その熱にあてられて、どんどん俺の頬は熱くなっていく。彼の匂いが鼻腔を擽り、そのセクシーな匂いに頭がくらくらとしてくる。
アルウィンが溢す吐息1つすら見逃したくなくて、全神経を耳に集中させた。そして、ゆっくりと彼の唇が開き、彼の声が鼓膜を震わせる。
「ミト、好きだ。ミトのひたむきで努力を怠らない真っ直ぐな性格も、艶がある美しい黒髪と黒い瞳も、くるくると変わる愛らしい表情も…ミトのすべてを心から愛おしいと思う。俺を、君の恋人にしてくれないか」
熱烈な愛の言葉に、視界がぼやけた。
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