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元婚約者が王宮に現れる
しおりを挟む異常気象と共に結界破壊騒動が終息してから数日後、ライナス王子率いる調査チームは結界が壊された原因もそれが修復された理由も解明出来ずにいた。
それに加え、女神レティシアの声を語る人物の特定も急ピッチで行われているが、闇魔法を使える女性も、闇魔法を使える人間すべてを調べても黒魔法に近づけるほどの魔力持ちは見つかっていない。
同時に祈りの間に入れた人物も全員調べられたが、数は相当少なく、一度入ったっきり神殿に近付いた形跡がある人間すら見つからなかった。
宰相が死んだことによる穴は確かに大きかったが、それも日々の目まぐるしさにあっという間に薄れ、王宮は日常を取り戻しつつあった。
転移魔法が使えるようになった俺はライナス王子にその事を報告をしたかったが、彼の忙しさは桁違いで声をかけることすら憚られる。そのため俺が転移魔法を使えたという報告は届いているようだが、まだ王子と直接会って話すことが出来ていない。
もちろん魔力訓練もストップ状態だ。アルウィン曰く転移魔法を毎日使っていると徐々に行ける距離が伸びる可能性があり、それは王宮の外に出てしまうかもしれないからと今は転移魔法を使うことを禁止されている。
おじいちゃん先生も同じ意見だったから俺は毎日大人しく浄化魔法だけを使っていた。しかし回数は1日1回から2回に増やすことができ、魔力が確実に芽生えていることを実感する。
早く属性魔法が分かってほしいし、それが聖魔法であることを祈るばかりだ。
「ミト、少し休憩しよう。文字ばかり見ていては目が悪くなる」
「うん。ん、はぁー!肩凝っちゃった」
「揉んでやる」
少しでもライナス王子の負担を減らすべく、俺たちは闇魔法について書かれている書記や聖魔法の結界について詳しく書かれている書記を読み漁って、何か少しでも得られる情報はないかと探していた。
部屋の机に詰まれた本の山。いつまたどこから命を狙われるか分からないから外に出ることも出来ず、国をあげての調査をしているため魔力訓練も授業もない今は時間が無限にある。
文字を読みすぎて目が疲れてきたところでアルウィンの一声があり、俺は思いっきり背筋を伸ばしたあと、背後に立ったアルウィンの肩揉みを遠慮なく受け入れた。
「気持ちいい…」
「だいぶ凝ってるな。ずっと座って本を読んでいるから仕方がないのだろうが、たまには室内でも身体を動かさないと凝り固まってしまうぞ」
「そうだよね。う、いてて…」
俺よりも太くてしっかりとした指に凝っているところをピンポイントで押され、顔を歪める。痛気持ちいい塩梅で肩を揉まれ、次第に肩が楽になってきた。
「めっちゃほぐれた感じする!ありがとう」
「そうか?なら良かった。でもまだ休憩は終わってないぞ」
そう言うと座っている俺のつむじにキスを落としたアルウィンの手が、マッサージをしていた手付きとは明らかに雰囲気が変わる。後ろから回された腕が肩や胸をすべり、ボタンの隙間から素肌に指が差し込まれる。
「アルウィン…まだ昼間だよ…」
「ミトに触れたら我慢出来なくなってしまった。少しだけ、触れさせてくれ」
「でも誰か来たら…」
「鍵はかけてある」
用意周到なアルウィンの甘い誘惑につかまり、俺は首に落とされる唇の柔らかさに身を捩る。プチプチとボタンが外される音が聞こえ、大きな掌が俺の素肌にぴったりと触れる。まだ昼間なのに、という倒錯的な興奮と彼の熱に追いたてられるようにして次第に溢す息は熱くなる。
「んっ…ぁ」
「ミトにこうしていつまででも触れていたい」
「でも、みんな頑張ってるんだから…俺たちもやらないと…」
「それは分かっているんだが…ミトを前にするとどうも自制が難しいな」
首を掴まれ、後ろに誘導される。そのまま唇を被うようにキスをされ、早急な動きで舌が入り込んできた。ぬるぬると動くアルウィンの舌に置いていかれないよう、必死に自分の舌を絡める。
昨夜も隣の部屋で抱かれたのに、キス1つですぐにアルウィンを欲してしまうようになってしまった淫らな身体。彼の夜の獰猛な表情を思い出して、腰がズクンと重たくなった。
―――コンコン。ピンク色に染まりつつあった室内に、無機質なノックの音が響いて俺は肩を跳ねる。アルウィンは上体を起こし、忌々しそうに扉を見つめながら声を発した。
「はい、どちら様ですか」
「私でございます。アルウィン様に面会を求める方がいらっしゃっております」
返ってきたのは使用人の声だった。俺は急いで外されたボタンを閉め直し、椅子から立ち上がる。アルウィンは怪訝そうな顔で扉の鍵を開け、使用人の声がハッキリと聞こえるようにした。
「面会?どなたでしょうか」
「マクラウド男爵家のリジーご令嬢でございます。別室でお待たせしておりますが、お会いになられますか?リジー様はミト様と共にお会いしたいと申しております」
「え、俺もですか…?」
リジーさんの名前を出され、心臓がドキリと嫌な音を立てる。先日、アルウィンとの婚約を破棄したばかりだというのに今まで会いに来なかった王宮にまで直々に来るとは何事だろうと不安が胸中に渦巻いた。
「ミトも一緒にだと?何の用なんだ」
「アルウィン、どうする?せっかく王宮まで来たなら会わないのは失礼じゃない?」
「それは確かにそうだが…悪い予感しかしない」
「その…お二人にお会いするまで帰らないと言い張っておりまして…どうか早めにお会いして頂けると助かるとのことです」
「え…そんな感じなんだ…早く会わないと王宮の人たちに迷惑かけるし会うしかなさそうだね」
「…一体何を考えているんだ。仕方ない、ミトも警戒を怠らず一緒に来てくれるか」
「もちろん」
「ご案内致します」
リジーさんの待つ部屋へと案内してくれる使用人の後を不安な心持ちで着いていく。アルウィンが大丈夫だというように軽く指先を握ってくれたことで少し安心したものの、やはりリジーさんと対面するのは恐怖心と緊張感があった。
東塔の通路に近い王宮の客間に連れてこられ、使用人がノックをすると確かに中からリジーさんの声が聞こえてきた。侯爵家襲撃事件の時に見た憤怒の表情をしたリジーさんを思い出し、緊張を隠せない顔色のまま、俺は室内に足を踏み入れた。
「お久しぶりね、ミト。アルウィンはついこの間ぶりかしら」
「…お久しぶりです、リジーさん」
「何の用があってここまで来たのか教えてくれ」
「もう、急かさないで頂戴よ。座ってゆっくり話しましょう。紅茶とお菓子も用意してもらったのよ」
公爵家で俺の飲み物に毒が仕込まれていて毒殺されそうになったことは犯人確保のために大々的に周知されているはず。もちろん男爵令嬢の彼女は知っているはずなのに、俺に淹れたての紅茶ではなく既に自分の目の前にあったものを差し出すとは何を考えているのか。
俺は緊張と警戒を滲ませながら座るように促された対面のソファへとゆっくり腰掛け、アルウィンはその背後に立った。
「あら、アルウィンも一緒に座って食べましょうよ」
「それは出来ない。ミトの前は俺の目で、後ろは俺の背中がミトを守るからな。急かしてすまないが、早く本題に入ってくれ」
「婚約破棄した途端、あからさまで嫌になるわね。まぁ、私も長居する気はないの。ミト、あなたにちょっと聞きたくて」
「は、はい。何でしょう」
アルウィンに冷たい視線を送るリジーさんの目が、俺に移される。じとりと嫌な汗をかきながら、俺は背筋をピンと伸ばしてリジーさんの続きの言葉を待った。
「私たちが婚約破棄したのはもちろん知っているわね?」
「は、はい。アルウィンから聞きました。その…」
「あぁ、慰めの言葉などいらないわ。惨めになるだけだもの。アルウィンが何て言って婚約破棄をしに来たか、それはご存知?」
「いえ、そこまでは…」
「自分の気持ちに嘘はつけない。どうしても一緒になりたい人がいるから婚約破棄をしてほしいって言われたのよ」
まさかアルウィンがリジーさんにそこまで言っていたとは知らず、思わず目を見開く。俺の護衛という終わりなき仕事やリジーさんを愛していないことを理由に婚約破棄を提示したのだと勝手に思っていた。相手が俺だとは言っていないだろうが、他に想う相手がいることを伝えていたことに驚きと同時に嬉しさを感じる。
「私は確かにアルウィンと結婚する気でいたしアルウィンも同じ気持ちだからずっと婚約者の地位にいられたのだと思っていた。でも別にお互いを愛し合ってはいなかったわ。私はお父様の願いを叶えたかっただけだし、気の知れたアルウィンとならその最高傑作が出来ると思っていただけだもの」
「最高傑作?」
「私のお父様の願いは、とにかく美しく強く優秀な男子を私が生むことだった。男爵家の跡取りとするためにね。でもそのためには私が嫁に行くのではなく婿をとって子を生まないといけない。優秀な男性はほとんどが爵位の跡取り。けれどアルウィンは爵位がない孤児院育ちなのに名誉騎士にまでなれた逸材。だからお父様にとっては格好の餌食だったのよ」
「そうだったんですか…」
リジーさんがアルウィンと結婚したがったのは父親のためだったのかと思うと、彼女も父親のためにいろんなものを犠牲にしてきたことを想像して胸が痛む。
「アルウィンは女性を愛したことがなさそうだったし、婚約も死んだ両親の願いであり、男爵家に入れば孤児院のために出来ることのはばも広がる。だからずっと婚約していたのだと思っていたわ」
「確かに最初はそういう気持ちもあった。特にやりたいこともなく孤児院に恩返しが出来るならこのままリジーと結婚した方がいいのだろうと。だが、マクラウド男爵の娘を利用しようとする面やお金に汚い一面を見たことで、次第に考えが変わった」
「それはそうでしょうね。今のお父様は婚約破棄で違約金をもらえたことで鼻の下を伸ばしていい気になっているもの。結婚しなくて良かったなんて言い出す始末よ。最悪な父だけど……私にとっては唯一の肉親。見捨てられないわ」
その言葉を聞いて初めてリジーさんには母親や兄弟姉妹がいないことを知る。唯一の肉親ならどんなにひどいことをされても情が捨てられず、言いなりになってしまう気持ちも分からなくはなかった。
彼女の人生を思うと同情心が拭えないが、俺が同情したところで彼女に出来ることは何もない。これから彼女は父親の言いなりではなく、自分の意思で自分の人生を切り開くべきだからだ。
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