【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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次々と起こる不自然な出来事

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    水をうったように静まり返った玉座の間に、国王が息を吸うのがやけに大きく響く。宰相を失ったことへの喪失感からか、一気に多忙を極めた疲労感からか、今回の緊急事態に動揺しているからか、国王は急激に老け込んだように見えた。

「我が国の結界が何らかの理由で一部分破壊されたとの報告により、国家緊急事態宣言をここに示す。現在の異常気象も重なり、他国からの侵入をしやすくしてしまう可能性が極めて高い。このまま侵略行為に発展した場合、即座に迎え撃ち戦争状態となるため、ここに集まる皆の者には命を張って国を守るために尽力してほしい」

    厳かな雰囲気の中、国王の固く重々しい声は、外の雷や雨風の音にかき消されることなく、堂々と響き渡る。
    確かペンドリック王国がペンドリックの領土内で大きな戦争をしたのは1000年近く前だと言われている。それほど長い間、侵略されて来なかった国が狙われるかもしれないという状況に、あちこちから唾をのむ音が聞こえた。

「なぜ突然結界が破壊されたのか、どうやって破壊したのか、一体どこの誰が破壊したのかを調べるため、緊急調査チームをライナスを筆頭に組んでもらう。その面子はライナスから直々に指名されるゆえ、申し訳ないか拒否権はないに等しいと思ってほしい」
「父上、ここに集っている者は皆、いざというときに国を守るために力をつけ、技を磨いてきた者たちばかりであります。謝ることなど一つもありません」
「分かっておる。ここにいる者たちの我が国への忠誠心を疑うことはまずない。わしの聖魔法に綻びが出てしまったことで皆の者を危険な目に合わせてしまうかもしれぬことが何よりも心苦しいのだ」

    国王は、ひどく自分を責めているようだった。きっと今回結界を壊されたのは、自分の聖魔法が意味も分からず力を失い始めたことに深い関係があると思っているからだろう。俺も自分を責めたくなるその気持ちは痛いほどよく分かるから、胸が苦しくなった。

「父上のせいではございません!今は原因よりもこれからのことを考えるべき時です。国境に配置している騎士団の増員、魔導師との連携力を高めなければなりません」
「あぁ、そうじゃな。この雷雨と暴風の中、国境の騎士団のことが心配でもある。ここに集う騎士たちは騎士の中でも精鋭揃いだが、何人か国境へ送ることとなる。家族や友人、恋人としばらく別れさせてしまうことになるが嘆願する者から順番に選ぶこととする」

    驚くことに国王の言葉を聞いてすぐに国境へと向かわせてほしいという騎士たちが次々と手を挙げる。国の一大事にここで尻込むような人間は騎士失格だとまで言う声もあった。この光景だけを見ても、国王が慕われ、国王のために動く人間が多くいることを実感した。
    たとえ15年前に実の娘を犯し妊娠させてしまったとしても、本来の国王はそんなことをするような人間性ではなく、あれは悲しき事故だったのだ。そう思うとやりきれない切なさと、一生隠し通したかった宰相の気持ちがよく分かった。

「皆の者、勇気ある声に感謝する。今はまだ国境の騎士団から他国に動きがあるという報告はないが、いつ動き出すか分からん。戦争になったときのことを考え、国境近くに街や村には避難所の確認と備蓄の準備を早急にするよう命ずることにする。早めに備え、どんな状況にも臨機応変に対応し…」

    国王の言葉が、そこで止まる。俺たちも同じく、突然窓から差し込む日の光に視線を外へと向けた。
    ついさっきまでゴウゴウと音を立て、ドンガラピッカーンと鳴り響いていた雷や雨風がやみ、真っ黒に染まっていた空が晴れていた。それは瞬きをした次の瞬間に夜が昼に変わったかのように、一瞬の出来事だった。

「と、突然天気が変わった…?」
「晴れているぞ」
「雲すらなくなっているだと!?」
「いきなり天気が変わるなんてあり得ない」

    あまりに不自然な天気の切り替わりに、騎士や魔導師が口々に言葉を発する。国王も信じられないという表情で唖然と窓の外を見つめ、ざわめきが波打つ玉座の間。そんなところに、1人の官僚が慌てたように扉を蹴破る勢いで入室し、国王の前で跪いた。

「アンガス国王様!たった今入りました報告によりますと、なぜか破壊されていたはずの結界が修復されているとのことです!」
「なんじゃと!?」

    驚嘆の声をあげながら、国王は玉座から音を立てて立ち上がり、目を大きく見開く。アルウィンやライナス王子と視線を合わせると、2人も驚きを隠せていない様子だった。

「それは真か!?」
「は、はい!なぜか破壊されていたはずの部分が綺麗に塞がれ、それと同時に天候も切り替わったと…結界の強度にも問題がないということでございます!」

    おお、と玉座の間は安堵と驚きの声で溢れ返る。つまり、結界が修復されたと同時に嵐のような天気もおさまったということだろうか。そんなことがあり得るのかと俺は安堵よりも不気味さを感じていた。

「なんと…!これは奇跡としか言いようがありません!神殿にて祈りを捧げる声が女神レティシア様へと届いたのでしょう」
「ルーサー大神官の言う通りかもしれん…そうでなければ説明がつかないような出来事である。皆の者、我が国は女神レティシア様の恩恵により救われた!もう二度と起こらないとは言い切れぬがひとまずの緊急事態は避けれたものとして、先ほどの話は保留とする。しかしまたいつ破壊されるか分からぬため、今後も結界の調査と国境の監視は引き続き行うこととする」

    そして玉座の間は、閉廷となった。国王が退室すると、女神レティシアへの感謝や心酔の声、本当にそうなのだろうかという疑心暗鬼の声で玉座の間は包まれる。
    あり得ないことが2つ同時に起こり、俺は胸のざわめきがおさまらなかった。何かとてつもなく最悪なことが起こるのではないかという不安に付きまとわれていた。

「一体何だったんだ…何が起こったんだ…?本当に女神レティシアのご加護とでも言うのか?」
「殿下、ひとまず緊急の危機は去ったと見て間違いありませんが明らかに異常な出来事でした。女神レティシアの声を語る人物の仕業かもしれません」
「だがこんなことが出来る人間などいるわけがない。人間が天気を操り、聖魔法の結界を破壊し直したとでもいうのか?神業としか言えない、普通に考えたらあり得ない事が起こったのだぞ!」
「結界を破壊した人物と直した人物は別人の可能性が高いでしょう。どちらかは…おそらく破壊したのは女神レティシアの声を語る人物、直したのは本物の女神レティシアの可能性はありませんか?」
「底辺界に神界にいるはずの女神レティシアが干渉できるとでも?この世界の神は平等でなければならないというルールにおいて、それは重大な違反行為だ。存在を消されるとまで言われている違反行為をしてまで、女神レティシアが干渉してくる意味も分からん!」
「それは確かにそうですが…」

    熱烈な討論を繰り広げるアルウィンとライナス王子の話に俺はさっぱりついていけない。そもそも神界に誰も行ったことがないのに神界は存在しているということ事態、疑ってしまう。
    妖界と獣人界、妖精界が存在していることは信じるが、それより上の魔界、天界、神界は書記に書かれているだけで本当のところは分からない。日本にいるときから神様を信じていない俺は、女神レティシアも胡散臭いなと思っていた。

「…とりあえず、部屋に戻らない?お腹すいちゃった」
「こんの能天気ちんちくりんバカは!少しはお前も考えぬか!」
「ごめんって~…でも考えたところでさっぱり分からないし、腹が減っては戦ができぬって言うしさ!」
「そんなの知らん!異世界のことわざだろう!」
「まぁ、そうだけど…王子も日々の激務で疲れているだろうし久しぶりに食事を一緒にしながら楽しい話しようよ」
「…ふん!その誘いはのってやるが、楽しい話が出来るかはお前次第だ」

    腕を組んでそっぽを向きながらも頬を染めて少し照れた様子の王子に苦笑を溢す。まだ俺とアルウィンの関係は誰にも言っていないし、これからも言うつもりはない。俺は王子の妃になるかもしれない存在として見られているから、知られてしまったら最後、とんでもないスキャンダルに発展するだろうから。

    夕食が出来るまでの間にライナス王子はもう一度国王と話し合いをしてくると言い残し、玉座の間から姿を消した。俺とアルウィンも自分の部屋へと戻り、ひとまず緊張感が抜けたことで深い息を吐いた。
    部屋を出るときには真っ暗な空を映していた窓に近寄り、今は雲一つない真っ青な空を見上げる。しかし目の前に突然、あの蝙蝠が現れ、俺はアルウィンの名を大きな声で叫んだ。

「どうした、ミト!?」
「み、見て…!蝙蝠が目の前に…!」
「こうもり…?黒い生物のことか…?どこにいるんだ?」
「え…?アルウィン、見えていないの…?」
「?あぁ、何も見えていないが」

    窓の真ん中に浮遊してこちらを見ているような蝙蝠を指差すが、アルウィンは不思議そうにきょろきょろと窓の外を見渡し、蝙蝠の姿は完全に見えていないようだった。
    まさか俺にしか蝙蝠は見えていなかったという事実に、背筋が凍りつく。俺は瞬きもせず何も言えず、じっと蝙蝠を見つめていると、また身体の奥からコトコトと音が聞こえてきた。
    初めて浄化魔法を使えるようになったときと全く同じ感覚。しかし前回よりも、さらに音は大きく、わき出てくる何かの量が多いように思える。これは魔力だと確信し、俺は何も考えずに転移魔法を思い浮かべた。

    ギュッと目を瞑ると少しの浮遊感と共に場所が変わったことを察する。目を開けるとそこは、隣のアルウィンの部屋だった。

「ミト!?ミト、どこだ!?」
「あ、アルウィンの部屋にいる!俺、転移魔法が使えた!!」

    隣からアルウィンのひどく焦ったような声が聞こえてきてすぐに大声で叫ぶ。バタバタと荒い足音を鳴らしながら扉をバンッと勢いよく開けたアルウィンに、そのままタックルされるように抱き付かれた。

「と、突然いなくならないでくれ…!」
「あ…ごめん。何かまた魔力が湧いてきた気配がして、転移魔法を思い浮かべたら出来ちゃったんだ」

    アルウィンの悲痛な声に、転移魔法を使えたという喜びよりも申し訳なさが募る。アルウィンの広い背中に腕を回し、安心させるように撫でさすった。

「転移魔法が突然使えるようになるなどあり得ないが…魔力が一気に目覚めたのか?」
「分からない。でも…アルウィンには見えていなかったみたいだけど俺の目にはしっかり蝙蝠が見えていたんだ。そしてその蝙蝠をじっと見つめていたら突然魔力っぽいものが湧いてきて…浄化魔法を使えるようになったときと同じだった」
「…今日は意味の分からないことばかり起こるな」

    それは俺も同感だった。まさかあの蝙蝠が俺にしか見えていないとは思ってもみなかった。そしてどうやら、俺の魔力は何かしらで蝙蝠と繋がりがあることも今のことで確信する。

「ミトが転移魔法を使える……」
「…アルウィン?」
「……ミト、頼むから何も言わず魔法を使うな。俺の前から突然消えるな。不安で堪らなくなる」
「うん、そうする。驚かせちゃってごめんね…でも距離は一部屋分しか移動できていないからそれくらいしか今の魔力量では無理だってことだよね?」
「…そうだろうな」

    ひどく不安そうな顔つきのアルウィンを安心させるように、俺は背伸びをして彼の唇にキスをした。するとアルウィンも俺の身体をかき抱き、あっという間にそれは深いキスへと変わっていく。

    そんな俺たちの姿を、カーテンが閉められていなかった窓から向かいの建物にいた人物に見られていたとも知らずに、俺たちはお互いの唇をむさぼった。

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