【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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国王の結界が壊される

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    朝一番に目を開けて、隣に愛する人がいるという幸福を知った俺は生まれ変わったような新たな気持ちで目覚めた。アルウィンの筋肉に覆われた腕に抱かれ、その温もりにずっと包まれていたくなる。
    夏の朝だというのにこの熱から離れたくないと思いながら、むき出しの筋肉に頬を擦り寄せていると、頭上から小さく笑う気配を感じて顔を上げた。

「随分と可愛いことをしているな」
「アルウィン、いつから起きてたの?」
「ミトが起きるより前から起きてミトの寝顔に癒されていた。身体はどうだ?痛いところや辛いところはないか?」
「少しだる重い感じはあるけど痛いところはないよ。その…アルウィンが優しくしてくれたから」
「いや、途中から我を忘れてミトを貪ってしまった。すまない。あまりにもミトが可愛いすぎて止められなかった」
「そ、そういうことは恥ずかしいから言わないで…」

    甘ったるい笑みと甘ったるい言葉の猛攻を受け、俺は慌てて赤くなる顔を隠すように視線を下げた。アルウィンの手がからかうように俺の頬を擽り、この指が昨夜俺を翻弄したのだと思い出すとまた顔が熱くなる。

「こんなに穏やかで幸せな気持ちで目覚めたのはいつぶりだろうか…幼い頃、両親に挟まれて寝て起きたとき以来かもしれない」
「…アルウィンのお母さんとお父さんはどんな人だったの?」
「父は俺と同じく騎士で、地元の騎士団に所属していた。無口だったが真面目で勤勉な、優しい父だった。母は自由奔放だったが、美しい赤髪と美しい声を持っていた。地元の酒場や舞台で歌を歌う歌手だったんだ」
「だからアルウィンも唯一無二の声を持っているんだ。子守唄もやけに上手だなと思ってた。真面目なところはお父さんに似たんだね」
「そうかもしれんな。もう両親との記憶はほとんど薄れてきてしまっているが、両親からの愛情と温もりは今でもはっきりと覚えている」
「…きっとアルウィンのご両親も、今のアルウィンを空から見て誇りに思っていると思うよ。いつか…ご両親のお墓に一緒に手を合わせに行ってもいい?」
「もちろんだ。両親に俺の恋人だと紹介させてくれ」
「うん、楽しみにしてる」

    アルウィンのご両親が今も生きていたら、どんな会話が出来たんだろう。俺たちを見てどんな言葉をかけただろう。アルウィンに似た男女を想像して、でも上手く出来なくて。彼らに生きていてほしかったと心から思うが、死んだ命は還らない。
    彼がご両親から愛情を受けたのはたった5年。本当はもっとたくさんの愛情を注がれ、たくさんの温かい思い出を作れるはずだった。きっとご両親もそれが無念で堪らなかったと思う。
    でもそんな彼らが愛したかった分まで、彼らと作れるはずだった思い出の分まで、俺がアルウィンに愛を注ぎ、たくさんの幸せな思い出を作っていきたい。

「これから毎日こうして目覚めたいものだ」
「ま、毎日は無理だよ!?あんなこと毎日してたら身体がもたない!」
「フッ、分かっている。俺はただ毎日こうして抱き合って眠るという意味で言ったんだが?ミトは何を想像したんだ?」
「なっ…ち、違うもん!勘違いしただけだもん!」
「ハハ、そうだな。気持ち的には毎晩ミトを抱きたいがミトの身体を大切にしたいからミトがしても大丈夫な時にまたしような」
「…うん。俺も初めてなのにすっごく気持ち良かったから…また、したい。たくさん」

    恥ずかしさを押し殺してアルウィンを上目遣いで見上げながら本音を伝えると、彼は片手で目元を覆い、深く息を吐いた。

「ふぅー……ミト、今も必死に抑えている俺を煽るのはやめてくれ。そんな可愛いことをそんな可愛い顔で言われてしまうと襲いたくなる」
「だ、だめ!もうそろそろ使用人も来るし起きないと!」
「分かっている。でもその前に…」

    アルウィンから不穏な空気を感じて慌てて上半身を起こしかけたが、すぐにアルウィンの腕に捕まり後ろに戻される。そして俺を押し倒したアルウィンの顔が至近距離にあり、彼は寝乱れたワインレッドの髪をかき上げたあと。

「おはよう、ミト」
「…おはよう、アルウィン」

    恋人になって初めての朝の挨拶の言葉と共に、優しいキスをした。これからの俺たちは毎朝、おはようのキスをするんだろうという確信を持って、俺も心を込めてキスを返した。

***

    宰相が死んだことによって王宮内に出来た穴は、想像以上に大きかった。
    国王の側近、右腕として任されていた仕事が多く、その後釜としてライナス第一王子、そしておじいちゃん先生が奔走することになり、おじいちゃん先生との授業も王子との魔力訓練をする時間も取れずにいた。
    今は国内にいる闇魔法持ちの人間をリストアップし、その中でも女性を中心に身辺調査が進められているようだ。

    闇魔法を使える人間は極めて少なく、女性にまで絞ると片手で数えられる程度しかいないため当初は簡単に怪しい人物を割り出せるだろうと思われた。
    しかし、どんなに調べても闇魔法持ちの女性全員に怪しいところもなく、王宮に近付いた形跡さえ見当たらなかったことから、男性含めた全員の調査に切り替わったという。
    そうなると、宰相が聞いた女神レティシアの声は、女性ではなく男性のものだったということになる。しかしどうして宰相は自分が聞いた声を女神レティシアだと思ったのか、死人に口なしの今、誰にも分からない。

    最悪、表向きの属性魔法とは別に闇魔法持ちであることを隠し、国内ではまだ確認されていない2属性持ちの女性がいる可能性も視野に入れて調査するそうだ。それはつまり、国内の女性全員を調べなくてはならないため、膨大な時間と労力が必要になることを物語っていた。

    祈りの間で女神レティシアの声を聞いたという宰相の話が嘘だったら取り越し苦労になるため、大神官に宰相が祈りの間に入れたのかどうかを事情聴取すれば、それは事実だと言う。
    アルウィンが真っ先に疑い、ライナス王子はあり得ないと一蹴していたルーサー大神官についてもくまなく調べられたが、やはり彼に怪しいところはないとのことだった。
    宰相が祈りの間に入った日時は大神官が記録しており、それは大神官だけでなく神殿に遣える神父や修道女も同一の証言をしていた。そして宰相が祈りの間に入っている時間のほとんどを、大神官は神殿内で目撃、または共にいた人物の証言が取れたのだ。
    これにより、祈りの間に入れる貴重な1人であり、敵だったら一番厄介だと思われていた大神官の容疑は晴れ、彼も祈りの間に侵入した者の形跡がないかを調べてくれているそうだ。

    俺はまたいつ女神レティシアの声を語る人間から殺されそうになるか分からないため、王宮の外に出ることは禁じられている。
    アルウィンと共に大図書館や自分の部屋で少しでも王子の負担を軽減しようと、俺たちも闇魔法についてや、声を変える魔法が本当にないのかを調べる日々を送っていた。

    外に出ることが出来ない分、俺とアルウィンは毎晩共に眠り、時には身体を重ね、毎日愛の言葉を交わす濃密な時間を過ごせていた。
    幸せだと思う一方、あれから俺を狙う気配がパタリとなくなり、嵐の前の静けさのような不気味さを感じることもある。
    なかなか新しい情報が掴めず調査が難航していることもあり、俺はいつまで得たいの知れない何者かに命を脅かされる生活を強いられるのだろうと不安が襲う日もあった。
    そのたびにアルウィンが優しさとたくさんの愛で包み込んでくれて、落ち着きを取り戻す。彼がそばにいてくれることが、何よりも精神安定剤だった。

    宰相が口封じをされてから、半月が経った頃、この国に大きな異変が生じ始めていた。

「また今日も雷だ…」
「この時期に雷雨があるのは珍しいことではないがこうも連日続くと異常気象としか思えんな」

    夏が自殺するかのような荒々しい雷の足音。窓を叩きつける大粒の雨と強い風。まだ昼間の時間帯だというのに、空はどんよりと暗く重々しい雰囲気。次第に、夜のように空が真っ暗に染まり始めた。

「これ…何かおかしくない?昼間なのにこんなに真っ暗に染まること、ある?」
「…明らかにおかしい。何かが起ころうとしている」
「失礼致します!アルウィン様、至急玉座の間に集まるよう国王様のご指示です!ミト様もご一緒に!」
「わ、分かりました!」

    やはり異常事態が発生しているようだ。俺とアルウィンは至急転移魔法で玉座の間に行くと、そこには妖怪が襲撃してきたときと同じように多くの人間が集まり出しているところだった。
    玉座の隣に立つライナス王子と目が合い、彼がこちらに近寄ってくる。俺たちは人前であるため形式上の敬礼の姿勢を取り、王子と向き合った。

「殿下、外の異常な天気と何か関係があるのですね?」
「かなりの大問題が起こった。……父上の聖魔法による結界が、壊されたんだ」
「え……?」

    ドゴオォン、雷の落ちる音と共に俺たちにも衝撃がはしる。ビカッと外が光るたびに玉座の間の窓から白い光が差し込み、俺たちの横顔を白く照らす。風の吹きすさぶ音もどんどん強まっていることが分かった。

「結界が…壊された?壊されることなんてあり得るの…?国王の聖魔法の力が完全になくなったとかではなく?」
「違う。結界が保つ年数は少なくなったが、強度は変わっていない。聖魔法の結界を破れるなど前例がないから僕たちも混乱しているところだ」
「陛下の体調に変化はないのですか?陛下自身に何かあったから傷がついたとも考えられます」
「もうすぐこの場に来られるから分かると思うが、父上はピンピンしていらっしゃる。命に関わるような体調不良も怪我もない」
「じゃあ何で…一体何がこの国で起こってるの…?」
「それを調べるために国内の全魔導師と騎士を転移魔法で召集している。結界が壊されたということは他国の侵略も十分にあり得るからな。国の一大事だ。早く手を打って何とかしなければならん」

    今までに見たことのない表情を浮かべるライナス王子の様子に、緊張感が高まる。続々と玉座の間に転移してくる魔導師や騎士たちも、妖怪襲撃事件の時以上の混乱と緊張感を持っているようだった。

「ライナス殿下、ミト様、アルウィン様」
「ルーサー大神官、来たか。神殿の方の様子は?」
「神殿がある地域も空は黒く、嵐のような天気でございました。神殿に遣える者全員が女神レティシア様に祈りを捧げ、この状況が改善されることを願っております」
「そうか。父上の結界が壊されたのはもう聞いているか?」
「ええ、先ほど聞きました。まさか聖魔法の結界が壊されるなどあり得ないことでございます。何かの間違いではないのですか?」
「間違いだったらどんなに良かったか…」

    比較的遠い場所にある神殿から転移してきてくれた大神官も、いつもの優しげな笑みはなく、曇った表情をしている。
    かつてない国の一大事に不安と緊張が入り交じる中、国王が玉座の間に入られるという声が響き渡ると、その空間はピタリとざわめきが止み、全員が背筋を伸ばした。前は国王がお成りになるのを宰相が言っていたんだよなと思いながら、俺は国王が玉座に座るのを静かに見つめた。

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