【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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最善策は俺が死ぬこと

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    俺の悲鳴が獣人であるドロモアの耳にはしっかり届いていたようで、俺はベッドから身体を起こし、乱れた服装を直した。

「ドロモア、大丈夫だからアルウィンを離してあげて」
「ん」
「…っ、すまない、ミト」

    ドロモアに取り押さえられたことで痛みが冷静さを連れ戻したのか、アルウィンは項垂れるようにして床に座り込んだ。俺は彼の前まで近付くと、目線をあわせるようにしゃがみこんで口を開いた。

「決してアルウィンに触れられるのが嫌だったわけじゃないんだよ。ディラードは俺たちを監視してるって言ってた。もしディラードにあんな場面を見られたらアルウィンは真っ先に殺されちゃうと思ったから…どうしても止めたかったんだ。ごめんね」
「……でも俺は、嫌がるミトを前に自分を止められなかった。やってることは魔王と同じだ…っ」
「それは違う。ディラードとアルウィンでは、たとえ同じ行動をされても同じにはならない。それだけは分かっていて」
「それでも…俺の思いは、信じられないんだろう?魅了にかかっていると思うんだろう?」
「それはそう。とりあえず、俺たちはもう恋人ではないことは確か。いい?」

    心をナイフでざっくりと切られたように顔を歪めたアルウィンだったが、唇を強く噛んで無理やり頷いたように見えた。今の彼を深く傷つけてしまっていることは心苦しいが、魅了が解ければその傷も勝手に塞がるだろうと思い、振りきるようにして立ち上がる。

「ドロモア、ライナス王子の手伝いは進んだ?あ、周りには獣人であることバレてる?」
「何人か、分かってる。でも言わない。片付け、終えた」
「そっか。ライナス王子は今どうしてる?」
「父親、話してる。ミト、呼べと」
「国王が俺を呼んでるんだね?」
「ん」
「分かった。じゃあ行こう。アルウィンも…来る?」
「当たり前だろう。たとえ恋人でなくなったとしても俺はミトの護衛騎士だ」
「…うん、そうだね。ありがとう」

    別れたばかりの恋人が護衛騎士だなんて気まずいにも程があるが、前の俺たちに戻っただけだと思えばどうにかなる気がした。痛む心に瘡蓋をいくつも重ねて、傷口から滲む血には見てみぬふりをした。

***

    それから俺たちはアルウィンの転移魔法で玉座の間へと行き、ある程度ライナス王子から俺の正体や過去について聞いていた国王にいくつか質問をされ、正直に答えていく。
    国王の顔はとても険しく、俺に対して強い危機感を持っているように見える。しかしそれも当然のことだ。俺は魔王と女神の戦いを引き起こす爆弾のような存在なのだから。

「今我が国に張られている結界はミトの結界だが、聖魔法によるものではなく、黒魔法によって出来たもので間違いないか?」
「たぶんそうかなと。俺の属性を聖魔法と最初に言ったのはボードン…魔界でバスタードと言われていた人物ですし、聖魔法だと思い込まされただけですね。黒魔法はみなさんが思っているようなものもあれば、聖魔法に近いものもあります。簡単に言うなら、人間界にある全属性魔法を集めたようなものが黒魔法です」
「なんと…ということは、今のミトは全属性魔法を使える状態ということか?」
「うーん、それはやったことがないので分からないです。俺はずっと魔力を封じられて魔界で生きてきたので、魔力制御をうまく出来ないと思いますし、魔力が膨大だからどんな威力の魔法を放ってしまうか分からないので容易には出来ないですね」
「そうか。魔王ディラードと女神レティシアが今後も戦うだろうが、ミトには止められぬのか?」
「分からないです。これから魔力制御を覚えればある程度のことは出来るかもしれませんが…魔王は俺よりもはるかに膨大な魔力を持ってます。それに彼の思念体にいくら攻撃したところで本体に影響がなければ、時間をおいて何度でも思念体を送れるはずです。しかも今この国の結界は俺の黒魔法で作られたもの。侵入は容易いと思います」
「それでは魔王が何度も来て攻撃してくるということか?……ミトが魔界に帰らないかぎり」

    遠回しに、国王は俺に魔界へ帰ってくれと言っているのだと察した。しかし俺が魔王にされてきたことを聞かされ、直接的には言えないのだ。個人の優しさと、国王としての決断の狭間で揺れているようだった。

「俺は魔界に帰りたくありません。というより、たぶん帰れないんじゃないかと。女神レティシアがそんなようなことを言ってましたから。それがなぜなのかは俺も覚えてないので分からないんですけど。だから俺は死ぬのが一番の解決策だと思ってます」
「なっ…!?なにを言っているんだお前は!」
「ライナス、落ち着きなさい。ミト、死ぬとはどういうことだ」

    動揺した声で話に入ってきたライナス王子を国王が諌める。アルウィンの何か言いたそうな気配も背中で感じた。

「俺が死なないかぎり、ディラードは何度でもやって来ると思ってます。もちろん思念体を魔界から底辺界に飛ばすのはかなりの魔力がいることですし、長時間滞在させることも頻繁に来ることも出来ないとは思います。それでも俺が底辺界にいるかぎり、彼は諦めない。何としてでも俺を連れて帰ろうとする。出来やしないのに」
「だが女神はミトの命を人をつかって狙うことで魔王を挑発したと言っておったのだろう。ならば魔王はミトが死ぬことを何としてでも止めたいはず。万が一本当にミトが死んでしまったら、我が国を滅ぼそうとするかもしれん」
「いえ、俺が死ぬということは俺がつくった黒魔法の結界もなくなるということ。俺の結界でなければ彼の思念体は侵入することが出来ません。俺が生きているかぎり結界は作動し、侵入を許し続けてしまう。だから俺は死ぬのが一番いいんです」

    バスタードの狙いは、俺に聖魔法と偽り黒魔法の結界を早くつくらせることだった。今ならいろんなことが見えてくる。バスタードの行動の意味が。

    蝙蝠で俺とアルウィンの関係を見ていたディラードは、バスタードに俺とアルウィンを別れさせる、もしくは引き離すよう命じたはずだ。
    それにくわえ、俺とライナス王子に子をなさせようとする動きが活発化したから、早く俺が聖魔法を使えると思い込ませる必要があった。続けて蝙蝠を目の前で浮遊させ、姿を見せたのも早く俺の魔力を芽生えさせるためだったんだ。

    他にも偶然俺たちのキスシーンを見てしまったリジーさんの元使用人に黒魔法をかけ操り、リジーさんに報告するよう仕向けた。やはり彼女は激昂し、俺たちを別れさせようと王宮に乗り込んできた。
    ライナス王子は素の反応だと思うが、関係を明かしてから激しい口論となったアルウィンとライナス王子の元に突然現れたバスタード。あれも今考えれば不自然なほど絶好のタイミングだった。

    アルウィンからもライナス王子からも引き離すことに成功したバスタードは、仕上げとばかりに俺の夢とディラードの意識を繋いだ。
    これまで何度も夢の中で見ていたものは、俺が記憶を封じていることに気付き、俺の記憶の鍵を探すため、俺の潜在意識に侵入していたのだ。これにもかなりの魔力が必要なことから、ディラードはどれだけの魔力を持っているのか考えるだけで恐ろしくなる。
    けれど俺は記憶の鍵を"声"に設定していたから、俺も彼もお互いの声が聞こえなかった。今思えば『あえーてよい』と動いているように見えた口の動きは、ずっと『かえってこい』と言っていたのだと思う。

    潜在意識の中だから動くことはできなかったのに、最後は動くことができていた。それは、俺の深くにディラードの意識が入り込んだことによって、封じていた俺の魔力が箱から少しずつ引き抜かれるように漏れだしていたのだと考えられる。
    記憶の箱についでと言わんばかりに魔力も封じ込めたが、魔力は同類の強大な魔力に反応して外に出ようとしていたのだ。
    だから魔力訓練の成果ではなく、少しずつ蝙蝠を見るたびに俺の魔力が反応していたんだろう。最後の仕上げが、あの夢だった。

    潜在意識の中だから体温を感じることはない。ひどく冷たかったディラードに触れられ、首筋を噛まれた。魔王と女王は決して消えない紋様で繋がっている。お互いの魔力に反応するのだ。
    これによって俺の魔力が完全に目覚め、記憶の箱の鍵が開くよりも前に魔力がすべて外に放出した。それに驚いた、人間に順応した身体が2週間も眠りについたというわけだ。

「ディラードとバスタードは俺を取り戻すため、用意周到に準備をしてきました。しかし彼らは知らない。俺が女神レティシアと何を話し、どうやって異世界召喚の異世界人として底辺界におりてきたのか。俺もそこだけは記憶が曖昧で分からなくて…すみません。でも俺はもう魔界に戻れるほどの寿命がない。それは確かなんだと思います」
「寿命5000年など、寿命100年前後の我々人間からしたら考えられない数字だが…ミトが魔界に戻れぬのに魔王は何度も底辺界に来るつもりか?」
「たぶん、俺の亡骸を持って帰れば満足すると思います。死体は何も払わずとも上に持っていけるはずなので。それでやっと底辺界に思念体を送る必要性を感じなくなり、結界も俺のものではなくなるのでもう二度と彼らが干渉してくることはなくなると思います」
「だから僕たちにお前を殺せと?そう言いたいのか?」
「うん。出来ればアルウィンにお願いしたいところだけど……それはさっきアルウィンに断られてしまったからライナス王子でもいいよ。とりあえず俺を殺さないと悲劇は連鎖の一途を辿るということだけ分かっていてもらえれば」

    淡々という俺に、ライナス王子の怒りの炎がどんどん大きくなっているのが分かる。俺が彼の怒りの炎に薪をくべ続けているからだ。

「だが!お前が死んで失くなってしまった結界は誰が補充するんだ!父上の結界はもう張れないのだぞ!」
「これは予測なんですけど、たぶん国王の結界が弱まっていたっていうのは女神レティシアの嘘だと思います」
「なんだと!?」

    頓狂な声を出した国王と同じくして、ライナス王子も眉間に深い皺を寄せて腕を組み、イライラしたように足を小刻みに揺らし始めた。

「国王の結界が弱まったと嘘をつき、異世界召喚の儀式を行わせるためだったのだと思います。結界が弱まったと判明した場にルーサー大神官はいませんでしたか?」
「そういえば聖魔法の結界に異変があると言い始めたのはルーサー大神官であったな。水晶で弱まった結界を見せられたが…なるほど、あれは幻術だったかもしれんのか」
「そうですね。異世界書記は宰相がでっちあげたと本人も言ってましたけど、内容は女神レティシアから聞いていたことでした。だから約600年前の異世界人は治癒魔法を使って多くの人を救った英雄だとか、異世界人と王族なら聖魔法もちの子をなせるとか…たぶん、全部レティシアの嘘です」
「はぁ!?では僕とお前はたとえ身体を繋げたとしても聖魔法もちの子など生まれぬということか!?」
「はい。女神レティシアは国王の結界を弱らせたように見せ、聖魔法持ちの子を異世界人とならなせると信じこませ、異世界召喚をさせたかったんですよ。俺をディラードから奪うために」

    信じられない、と顔に書いているような呆然とした表情の親子を見て、こんな時なのに思わずそっくりだなと笑ってしまいそうになる。
    アルウィンは能面を張り付けたような表情で、じっと俺を見つめていた。その視線から逃れるように、俺は彫刻が施されている金色の玉座の肘掛けに目をやった。

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