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初めて本音をさらけ出す
背中から強く抱き締められながらソファに座っているのに、厚い壁のように手に触れそうな沈黙が、僕たちを遠く他人のように隔てている。
彼のシルバーブロンドの美しい髪が僕の胸にまでかかり、彼の震える息を首筋で感じる。鼓膜を圧迫する深い沈黙に耐えかねた僕から口を開いた。
「…なんで、別れるって言葉が出てくるの?この前のことでもう言われないと思ってたのに」
「……」
「僕はこれから別れる?って聞かれるたびに別れようって答えるよ。本意じゃなくても」
「いやだ、聞きたくない、やめてくれ…!」
「じゃあきちんと理由を教えてよ」
「自分でも分からないんだ…ッ…気付いたらそう言う癖がついてしまっていた…俺だって一度たりとも別れたいなんて思ったことなどないのに」
確かにあれだけ言ってれば口癖になるのも無理はないのかもしれない。だったらどうすれば口癖を直せるのだろうか。
「最初にウォーレンが別れる?って聞いてきたのは初めて朝帰りした日だったよね。そこに理由があるんじゃない?どうしてあの時、別れるって言葉が出たの?」
「…カッコ悪いから言いたくない」
「恋人にはカッコ悪いところも見せるものでしょ?それにもう既に手遅れだと思うけど」
「……ロナに嫌われるかもしれない」
「別れる?って聞かれ続ける方が嫌になるよ」
ぐ、と喉の奥で息をのみこむ音が聞こえた。抱き締められているウォーレンの腕に指をそわせ、彼の言葉を導くように優しくゆっくり擦る。
「俺は……独占欲が強い」
「うん、それは僕も」
「全然同じじゃない…!ロナと違って俺のは本当に重くてめんどくさくておかしいんだ…!」
「…どんな風に?」
「訓練だって分かっているのにロナが別の男と密着して馬に乗るのも、笑顔を見せるのも、軽いハグも…本当は目を見て話されることにすら嫉妬する」
初めて溢されるウォーレンの本音。そこまでだったとは知らず、僕は内心驚きながら続きを促す。
「ロナに関わるものすべてに嫉妬する。カーティス王子の存在なんて胸が焼かれるくらいにずっと嫉妬している!俺の知らないロナの幼少期を知っていて、一緒に遊んでいたというだけでも歯痒いのに帰国して早々二人きりで会って話して…」
「…ウォーレン」
「これは俺のただの推測だから合ってるか合ってないかの答えは必要ないけど、ロナはきっと王子から求婚されたんだろ?法律のせいで言えなかったとしても態度で丸分かりだ」
図星だったが、肯定も否定も出来ないので押し黙る。しかし無言は肯定だと言っているようなものだった。
「この行き場のない嫉妬も、ロナが嫉妬するような素振りがあると少し落ち着いたんだ。ロナはきちんと俺を愛してくれていると分かるたび、安心して嫉妬心を抑えることが出来た」
「だから試し行動を何度もしてたんだね…」
「嫉妬に焦がれてるのは俺だけじゃないんだと、目で、言葉で、確認出来ないといつも不安だった。最初、ロナは嫉妬する素振りは見せず、心配してるようにしか見えなかったから余計に」
「本当は僕も最初の方はいろいろ我慢して気持ちを抑えてたんだよ」
「うん、分かってる。抑えてるんだろうなとは思ってたけど俺は本音を言葉にしてほしかった。怒ってほしかった。でも中々ロナから嫉妬の言葉が引き出せなくて…朝帰りすれば怒ってくれるだろうと思ったのに…」
ウォーレンが初めて朝帰りした日のことを思い返す。そういえばあの時も僕は、嫉妬ではなく心配してるんだと言い張っていた気がする。
「その時ですら君は俺の身を案じる言葉だけだった。しまいには騎士団長の名前を出すから、他の男の存在を俺たちの間に出されてカッとなって……気付いたらあの言葉が出ていた」
「そうだったんだ…」
「でもその時にロナが傷付いたような、すごく不安そうな表情を見せた後に、"愛しているから別れない"って言ってくれてすごく安心したんだ。ロナはきちんと俺を愛してくれているんだって実感出来た。それからは…その感覚が忘れられなくて、どこまで許してくれるんだろうと確かめるようになってしまった」
毎回「愛しているから別れないよ」と言ったときのウォーレンの顔を思い浮かべる。あの言葉を引き出して満足しているのかと思っていたが、安心していたのか。
「本当にごめんね、ロナ…愛しているのに、試すようなことばかりしたり、言ってしまった。ずっとずっと不安だったんだ。君がいつか別の男のものになるんじゃないかって…今もその不安は拭えていないけどね。こんなことかっこ悪くてロナには言えなかった。そしたら余計に不安になって負のループに陥ってしまった。心から申し訳ないと思っているよ…」
「話してくれてありがとう。そんなに不安にさせていたなんて、僕の方こそ気付かなくてごめんね…」
いつだって余裕たっぷりといった佇まいの彼を好きになったから、僕にカッコ悪いところを見せたら幻滅されると思うのも無理はない。
騎士として男のプライドもしっかりあるだろうし、そこに恋愛感情が挟まると余計に拗れるだろう。
それでもこうして今、彼の本音を直接聞けて良かったと心から思うし、僕も彼の不安にもっと寄り添ってあげるべきだったと反省する。
「もう二度と別れる?なんて聞かないし、試し行動もしない。実は飲み会のときもロナのことばかり考えていて、飲み会じたいは別に好きじゃなかったんだ。帰ったら今日こそ怒ってくれるかな、嫉妬してくれるかなってそんなことばかり考えてた。…見損なった?」
「ううん、それを聞いて安心した。ウォーレンのことは信じてたけどもしかしたら、ほんの少しだけ、女性と会ってたりするのかもって一瞬だけ考えちゃったことはあるけど…」
「それは絶対にない!あり得ない!俺にはロナだけだ。ロナしか愛していないし、ロナの愛を試すようなことはしてしまったけど裏切るようなことは絶対にしない」
「うん、きちんと分かってるよ。僕も他の誰に告白されようが求婚されようが、相手がウォーレンじゃなきゃ嫌だからどんなに目上の人でもきっぱりと断れるようになるね」
「……王族以外から思いを寄せられるようなことがあったらすぐに言ってくれ。法律を破らない範囲ならロナのことはすべて知りたいから」
喉の内側をぐんと押すような低い声でそう囁かれ背筋に若干冷たいものを感じるが、僕は気にせずこくこくと頷いてみせた。
「僕も嫌だと思ったことは何でも言うようにする。もう我慢しなくていいよね?」
「我慢なんてしないでくれ。何か少しでも俺が気に触るようなことをしてしまったら都度指摘してほしい。ロナの嫉妬は俺と違って可愛いだけだから」
「ふふ、ウォーレンも爆発させないように僕にあれが嫌だこれが嫌だってかっこつけずに言ってね?王子のお誘いは…なるべく断るか二人きりにならないようにするからさ」
「そうしてくれると嬉しいよ。これからはお互い何でも言い合おう。ロナ、心から愛してる」
「うん、僕もウォーレンだけを愛しているよ」
こうして僕たちは付き合って二年半も経つのに初めて本音をさらけ出し、深く心を繋げられたのだった。
これからの僕たちならきっと大丈夫。何があっても強い絆で結ばれているから。お互いがお互いを深く愛しているから。そう、本気で信じていた。
彼の愛を、信じられなくなる日が来るなんて、思いもせずに。
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