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天然癒し系イケメン
しおりを挟むステバから少し歩けば大型スーパーがある。この辺は何から何まで歩いて行ける範囲で揃うので大変便利だ。
母親から貰っていたお小遣いで何を買おうか頭の中に思い浮かべながらカートにカゴをセットした。それを押すのは幼馴染の役目だ。
俺はこう見えて料理がまぁまぁ出来る。
母親がするなら一切したくないが、生憎夜遅かったり朝早かったりする看護師である母親なため、ご飯を作れないときの方が多い。だから自然と覚えたって感じだ。
好きな食べ物も特にないしご飯を食べなくていいなら面倒くさいから食べたくない俺だが、幼馴染は違う。
年相応にしっかり食べるしあれ食べたいこれ食べたいとリクエストされることもしょっちゅうだ。
奴の父親は単身赴任で九州に行ってるし、母親はキャリアウーマンで家にいないことがほとんどなので俺と共に食事をするのが日常だ。
俺が料理を覚えてしまったのも奴のせいだと確信している。
「お肉はどれがいいの?」
「んーこの牛肉がいい」
「どのくらい食べんの?」
「こんくらい」
「…よく食べれんな」
「白犂が食わなすぎんだよ。だから小さいままなんですよー?」
「黙れコスプレ好き変態野郎」
「語弊があるなその言い方。俺がコスプレするのが好きみたいな言い方じゃん」
「ほとんど同じ意味だろ」
「全然違うわ!男のコスプレなんてキモいだけだし。白犂ちゃん限定。めっちゃいいネタになるしな」
「キモいし最低」
スーパーで買い物をするような会話じゃない。
もちろん俺たちにしか聞こえないくらいの声で話してるが、男子2人で買い物をしてる姿が珍しいのか終始視線は感じる。
まぁ、8割が礼於を見る主婦の視線だが。
品物選びを終えてレジに並ぶ。週末の夕方であるため、レジはどこも列が出来ていた。
大人しく順番が来るのを待っていたが、俺はカゴの中身をもう一度見て肝心な卵がないことに気が付いた。
「卵忘れた!取ってくる」
「俺行くよ」
「いや、俺が行くわ。お前じゃ卵コーナーの場所も卵の種類の違いも分かんねーだろ。待ってて」
「すぐ戻ってこいよ」
「はいはい」
礼於に俺の財布が入った鞄とレジ並びを任せて、俺は卵コーナーへと向かった。
レジとは反対の通路の端に並べられた様々な卵たち。礼於が好きなだし巻き玉子を作るのにいつも買っている卵は、残り1つだけだった。
慌ててそれを手に掴もうとして、横からそれを浚っていく手に思わず隣を見た。
「あ…」
「ん?あ、ごめんね。もしかしてこれ取ろうとしてた?」
「えと、はい…」
先を越されてしまった卵の持ち主は、俺が目で追ったことに気が付くと申し訳なさそうに眉を下げた。
これが女の人だったら否定してどうぞどうぞと言っていたと思うが、相手が同姓だったため思わず正直に答えてしまってから後悔した。
「でも、こっちでもいいんで大丈夫です!すみません」
「いやいや!僕こそどれでもいいっていうか、どれがいいか分からなくて。最後の1つだったから人気なのかなと思って手に取っただけだから。どうぞ持ってって?」
「でも…」
「本当に使いを頼まれただけでさ。卵を見つけるだけでも15分も店内を歩き回ったんだ。スーパーで買い物って意外と大変なんだね」
そう言って眉を下げて苦笑いする男性。優しそうな風貌に穏やかな話し方、癒しオーラが出ている。
この人、絶対天然だ…卵を見つけるのに15分つかうくらいなら、店員さんに聞けばよかったのに。
栗色のふわふわした髪に一重で切れ長だけど眉が垂れ下がっているせいか、冷たい印象は全くない。
身長は170後半くらいだろうか、口許に2つ黒子があり俗に言う癒し系イケメンだった。
保育士とかやってそう。そのまま保育園児のパパさんと恋を始めてくれたりしたら最高だと思う。
「あ、それじゃ、有り難く頂戴します」
「ふふふ、若いのに買い物なんて偉いね。この辺の中学生?」
「…高校2年です」
「そうだったんだ、ごめんね。うちの実家にいる黒猫の子猫に似てたから」
ちょっと意味が分からない。実家の黒猫の子猫に似てたから中学生だと思うのか。
違うだろ、俺がチビだからそう思ったのを隠すための言い訳だろ!
と、普通の人に言われればそう思うところだが、この天然癒し系イケメンに言われると猫に似てたんなら仕方ないと思ってしまうあたり、天然って恐ろしい。
「このスーパーにはよく来るの?」
「まぁ、たまに」
「そうなんだ。そしたら青のりがどこにあるか分かる?教えてもらえたら嬉しいな」
「分かります。お礼に案内しますよ」
「ありがとう」
スーパー初心者で青のりを探すのは確かに大変だろうと同情したので、さらに彼の時間を消費させないために俺は店員の如く彼を手招いた。
ふと、幼馴染の存在を思い出して一瞬背筋がヒヤリとするが、スマホは奴に渡した鞄の中だし遅くなった言い訳はいくらでも思い付くのでこれくらい大丈夫だろう。
「ねぇ、名前を聞いてもいいかな」
「…玖波白犂です」
「変わった名前だね。でも綺麗」
「ど、どうも」
「僕は春日井陽向(カスガイヒナタ)です。近くで美容室を経営してるんだ」
「そうなんですか…」
保育士ではなかったか、ちょっと残念。だがしかし彼が美容師だと言うのも頷ける。
髪の毛は柔らかそうで綺麗に整えられているが、指先が少し荒れている。小綺麗な服装と話し上手なところを見れば、きっと人気店なのだろう。
そのまま常連客のダンディで紳士的だったのに本性を現した攻めに俺以外の髪に触れるな!とか言われてほしい。
青のりが置いてある場所に着いて、これまた種類がいくつかある中でお勧めを教えてあげると、彼は素直にそれを手に取った。
大丈夫かこの人、いつか高いツボ買わされそうだな。
「ありがとう、助かったよ」
「どういたしまして。買うものは青のりと卵だけですか?」
「うん、何に使うかは知らないんだけど。彼女が家で待ってるんだ」
ですよねー、やっぱり彼女持ちですよねー。そんなやたら目ったらホモが現実にいるわけがない。
でも妄想の中ではいくらでもホモを大量発生させることが出来るから別に気にしない。
「そうなんですね。それじゃ、俺はこれで…」
「あ、ちょっと待って。白犂くん、美容室で髪の毛切る予定ある?」
「ない、ですけど」
「今度うちに来てみてよ。白犂くん、前髪をもっと短くして整えたら絶対今より素敵になるよ。はいこれ、僕の店の名刺」
「……」
「あっ、ごめんね。ちょっと強引すぎたかな。でも学生割引でカットだけなら3000円くらいだから。ううん、白犂くんにならスーパーの救世主ってことで無料でやってあげたい」
「スーパーの救世主…」
「火曜日は休みだけどそれ以外ならいつでも大丈夫だから、気が向いたら来てみてほしいな」
「分かりました、ありがとうございます」
「うん。それじゃあまたね」
そう言って手をヒラヒラとさせた春日井さん。呆然と立ち尽くす俺の手には渡された名刺。
不思議な人だったなぁと思いながら、俺はそれをズボンのポケットの奥に押し込んで、急いでレジへと戻った。
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