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Twin Snakes
初めての狩り
しおりを挟むガルサの街は領主の館を中心にした、平民の活気で溢れている西側とお貴族様と成金共が静かに暮らす東側に二分されている。
東側は治安も良く平穏だが、やたら物価が高いので平民でもかなりの金持ちじゃなきゃそうそう足を踏み入れることのないセレブ街。
お貴族様は平民を軽く見ているフシがあるのであんまり近づくことも無いけど。
西側は治安に不安があるが、大抵の食材や道具なんかは安価で手に入る昔ながらの下町だ。
ちょっとした裏側に入ると攫われる危険もあるが、近づかなきゃ問題ない。
一長一短はあるが、総合的に見ればガルサは居心地の良い街の部類に入ると思う。
だが、ガルサには……否、この世界に点在する都市には共通の危険と隣り合わせだった。
この世界でアルヴィラの影響を受けた生物は、人間だけではない。
魔物。
この世界の原生生物がアルヴィラの性質に影響された、『魔なる生物』。
複雑な思考様式を持っている人間に比べて影響を受けやすかったのか、比較的単純な知能しか持ち合わせていない動物や昆虫等が巨大化、凶暴化した生物たちである。
アルヴィラを信仰する教会の連中は魔物を『神に反する穢れた獣』と糾弾しているが、その実アルヴィラがこの世界に降り立った事が原因なので皮肉な話だ。
そして、その人類の脅威と言える魔物達を狩る者が存在する。
土地土地を転々とし、スリルを求めて戦う大馬鹿野郎共。
それが冒険者ってヤツだ。
で、だ。俺がこんな話をしているのにも一応理由がある。
アルカ嬢達穏健派は規模が排斥派に比べて小さく、後援の協力を得る等、資金繰りに割く人員が少ないらしい。
アルカ嬢も穏健派としての活動資金は与えられていたが、それが少し心許なくなってきたそうだ。
そこで先程出てきた冒険者の話が関係してくる。
手っ取り早く資金の調達をするなら魔物を狩り、肉や骨と言った素材を売り捌くのが一番の近道だ。
しかし、魔物の素材は基本的に希少かつ高価であり、原則として販売は禁止されている。
ギルドと呼ばれる組織が素材を買い取り厳重に管理、然るべき所に卸売するのが唯一の流通ルートとなっていた。
そしてギルドに素材を売ることが出来るのは、ギルドに登録した冒険者のみなのである。
「……これが冒険者ギルドの仕組み。質問は?」
ギルドへ向かう道すがら、ギルドと冒険者の関係を簡潔に説明し終え、嬢たちに質問を促す。
最初にアルカ嬢が怖ず怖ずと手を上げた。
「………ギルドが魔物の素材の流通を独占しているみたいだけど、その相場って適正なの?」
「良い質問だ。……っつっても、俺もそこまで詳しかねーんだよね。てなわけでキーシャ、あとはよろしく」
ひらひらと手を上げてキーシャに説明を譲る。
話を振られたキーシャは俺にじっとりとした目を向けながらため息をつき、説明を引き継いだ。
「……相場に関しては問題ないだろう。以前に調べてみたことがあるが、市場に出回っている素材一つにつき原価格として冒険者側に八割、仲介料としてギルド側に二割の金額が支払われている。簡単に言えば、『冒険者の素材を市場の八割でギルドが買い取っている』ということだな」
つらつらと淀みなくアルカ嬢達に説明するキーシャ。
彼女がここまで事情に詳しいのは、その実彼女もその冒険者の1人だからだ。
傭兵として各地を転々としつつ、小遣い稼ぎ程度に冒険者として色々な魔物を狩って素材を売り捌いていたそうな。引き篭もりのクセに。
「………今小馬鹿にしただろう」
「してないしてない」
被っていたキャスケット帽を直しながら睨んできたので適当に誤魔化す。
因みにキーシャの服は先日着せたものではなく、キーシャ自身が持っていた服や俺の古着を改造したものだ。
シャツは背中側の布を一度裁断してから別の布を縫い合わせて胸を締めないようにし、上着として俺の持っていた革ジャケットをキーシャの体型に合わせて作りなおした。ちらりと見えるヘソがミソ。
短パンはデニムジャケットを仕立て直した物を穿かせ、革ベルトで軽く留めている。靴は俺と同じ革ブーツ。
………いやぁ、素材がいいオンナを着せ替えるのは楽しいねぇ。
「………今不埒な事を考えただろう」
「考えてない考えてない」
キーシャの懐疑の視線を誤魔化しつつ、俺達はギルドへの歩を進めた。
そんなこんなでギルド前。
石造4階建ての建物の中央には無駄にバカでかい扉が開け放たれ、左右には剣を地面に立てる戦士像が俺達を見定めるように並んでいる。
相変わらず馬鹿っぽいデザインだな。
「ここが冒険者ギルドのガルサ支部。基本的にバカしか居ねぇけど悪いヤツは居ねぇ」
「…………本当ですか?」
俺の言葉にジャコが怪訝そうな顔でそう言った。
あ、そう言えばこの街で最初に関わった冒険者ってあいつらだったな。
「キーシャが殺った連中なら、多分ガルサに流れてきたばっかの新参者だろ。俺に見覚え無かったし」
ガルサの冒険者で俺に手出しする連中はモグリだ。
俺とギンが懇意にしているのを知っているなら普通はどうこうしようなんて思わない、というのが冒険者達の意見らしい。
理由は2つ。
一つは俺を痛めつけたと娼婦達に知れれば、そいつはこれから先ガルサの娼婦を抱く機会を失うから。
二つ目は。
「ギンに物理的に潰されるから。なんだかんだ言ってもあいつは俺にぞっこんだからな。ブチ切れたギンは相手を確実に去勢して街から追い出すだろうよ」
尤も、そうなる前にキーシャに殺されたのは運がいいのか悪いのか。
ある意味で、男の尊厳を潰さずに死ねたあいつらはある意味運が良かったんだろう。
「………女が惚れているとか、自分で言うか?」
キーシャがジトーっと睨んできたので俺は肩を竦める。
「惚れてなきゃ毎回毎回大金を無利子無担保でポンと貸すかよ。借金でもなんでも理由付けして俺を繋ぎ止めたいのさ、多分な」
金借りる俺も俺だが。
閑話休題、いつまでも玄関先でたむろしているのは迷惑だ。
「ただでさえ嬢たちは目立つんだし、さっさと入ろうぜ」
そう言って俺は先頭に立ってギルドに入っていった。
「ようゲルド、儲かってるか?」
「お?ビットの旦那じゃねーか。珍しいな」
俺はまっすぐ受付に向かい、だらけていた無精髭の男に話しかける。
男は俺の姿を見とめると、剃りあげた禿頭を撫でながらピンと背筋を伸ばした。
「旦那がギルドに顔出すなんざ何事……って、女連れかよ、しかも三人も」
後ろから追いかけてきた嬢たちを見ると、男は呆れ顔で溜息をつく。
「おい、なんだよその面は」
「いや何、旦那は女を誑し込む天才だなっと」
「ははは、羨ましかろう」
馬鹿なやり取りをしながら俺は男、ゲルドを嬢たちに紹介した。
「こいつはゲルド、ゲルド・ギランズ。ここの支部長だ。因みに現役時代はジェイクの同期な」
「よろしくなお嬢さん方」
ゲルドは禿頭を撫でながら嬢たちに笑いかける。
四十路近いおっさんのゲルドだが、その笑顔はやたら人懐っこい。
「アルカ・ドリィです。彼女は従者のジャコ」
「よろしくお願いします」
「おう。よろしく。で、そっちの姐さんは?」
ゲルドが嬢たちからキーシャに視線を移すと、キーシャは短パンのポケットから銀色のカードを取り出した。
「銀ランク、キーシャ・トレインだ」
「……おお、コイツぁ大物だ」
カードに刻印された名前にゲルドは目を見張る。
………正直俺も驚いた。まさか銀ランクとは。
冒険者は金色によってランク分けされており、最初は青銅、続いて赤銅、鋼、銀、金の順に上がって行く。
キーシャは上から二番目、一流の冒険者と言っても過言では無かった。
「で、その銀ランクの姐さんが、なんで旦那と?」
「俺に個人的に雇われてんの。んで、冒険者について右も左も分からないアルカ嬢達の付き添い」
俺の言葉にゲルドは「成る程」と頷く。
「ってことは、お嬢さん方は冒険者登録に来たのか」
「そゆこと。手早く頼むぜ」
「おうよ」
ジェイクと似たような返事をしながら、ゲルドはカウンターの下から登録用紙を二枚取り出した。
「ここに名前と年齢、それと得意な得物や特技なんかも書ける分だけ記入してくれ。常人種か吸血種かも出来れば書いてくれると有りがたい」
「……っ」
最後の一言に嬢は少し苦い顔をして俺とキーシャを見る。
「正直に書いておけ。色々と便宜してくれる」
「………ええ」
キーシャに促され、アルカ嬢は名前と年齢と得意武器、そして備考の部分に『吸血種』と書き加えた。
お、嬢って23歳だったのか、カイと同い年かよ。
「………成る程な。旦那がわざわざ連れてくるから何かあると思っちゃいたが、『そういうワケあり』か」
ゲルドは登録用紙に目を通し、すぐに認可の判子を押し付けた。
「これで冒険者登録は完了だ。期待してるぜ」
「え、もうですか?」
特に審査などが無かった事に嬢は拍子抜けしたように目を見開く。
「旦那と銀ランクの姐さんが推薦したんなら問題ねぇだろう?」
言いながらゲルドは青銅のカードを二枚取り出し、指を押し付ける。
バチッと一瞬カードが光り、指を離すと二枚のカードにはアルカ嬢とジャコの名前が刻印されていた。
「そら、新人は青銅ランクからのスタートだ。頑張って金ランクを目指しな」
「あ、ありがとうございます…」
怖ず怖ずと二人はカードを受け取り、じっとそれを見つめていた。
さて、デビュー戦は一体何を狩るかね。
真新しいカードを手にしたアルカ嬢達を連れて俺達は受付から掲示板の前に移る。
掲示板にはガルサ周辺に生息する魔物の情報や魔物による農作物や家畜の被害など、雑多ながら膨大な情報が貼り出されていた。
「さてアルカ嬢、小手調べにどの辺いっとく?」
「……うぅん…どうしようかしら」
二人並んで顎に手を当て、首を捻りながら考える。
別に俺が魔物狩りをするわけじゃ無いのだが、協力者としては嬢達の対魔物戦での実力は知っておきたい。
とは言うものの、俺の場合はどれも危険すぎて、アルカ嬢の場合は基準がよく分からなくてどの魔物を狩ればいいのか決めあぐねていた。
そんな時キーシャが助け舟を出してくれる。
「貼り紙の右上を見ろ」
言われて視線を多量の貼り紙の右上付近に移す。
紙にはそれぞれ赤や青といった色で○印が付けられている。
「お、冒険者ランクと同じ色分けだな」
「それが魔物の危険度を表している。金が最高危険度、青が最低だ」
成る程成る程。同時に『目安』って訳ね。
冒険者はその色で自分の実力に見合った魔物を狩るのが最適の様だ。
「狙う魔物のランクが高すぎたり、低すぎたりしても特に罰則などは無いが……高すぎれば死ぬかもしれない。低すぎれば低ランカーの食い扶持を奪う真似に当たって、周りから白い目で見られるから気をつけろ。と言っても、お前たち二人はなりたての新米だからな。無難に青の魔物を狙っておけ」
キーシャは腕を組み、赤い瞳を細めてそう忠告をいれた。
む、確かに嬢達は対魔物戦の力は分からないが、少し慎重すぎやしないかね?
「……ビット・フェン。お前に取っては魔物も人間も同じように映っているのだろうが、対魔物戦と対人戦では、勝手が違いすぎるんだぞ?」
俺の胡乱な目を見てキーシャが眉根を寄せてそう言ってくる。
ほう、魔物も人間も等しく俺に取っちゃ危険だと言いたいのか。俺の事が少しは分かってきたじゃないの。
「なんだかんだ言って嬢達にアドバイスする辺り、面倒見いいのな、仔猫ちゃーん」
「っ、うるさい。ただ雇い主の意向に従っただけだ」
俺に指摘されて少し頬を赤くしそっぽを向くキーシャ。
言動こそつっけんどんだが、一度関わっちまうとぶつくさ言いながらも面倒を見るタイプらしいな。
えーと、こういうの昔の島国の言葉でなんつったっけ?
………あー、そだそだ、『ツンデレ』だ。
「………今、物凄くバカにしただろう」
「してないしてない……いででで!」
ニヤけながら否定の言葉を口にすると、キーシャに顔面を引っ掻かれた。
で、それから30分後。
俺達は街から少し離れた平原に来ていた。
「………くぁぁぁぁ………あふ」
適当な岩の上に座り込んで煙草を咥え、欠伸を噛み殺しながら俺は嬢たちの様子を伺う。
「……っ…」
やはり人間同士の戦いとは勝手が違うと聞いてか、アルカ嬢には若干の緊張が見える。
多分だが、温室育ちっぽいしなぁ。
「…………」
それに反してジャコは結構落ち着いているっぽい。
そう言えば、以前俺に殺気を向けたことと言い、俺達が止めたとはいえ死に損なったキーシャへのトドメを躊躇わなかったことと言い、彼女はある意味キーシャ以上に荒事に慣れているフシがあった。
アルカ嬢以上に謎だな、ジャコって娘は。
彼女達のバックボーンに興味を抱いて無駄なことを考えていると、帽子を取っていたキーシャが顕になった耳をピクリと動かす。
「…………獲物が来たぞ。構えろ」
キーシャの指示に二人は手のひらを傷つけ、直ぐ様血晶魔法を掛ける。
嬢は厚みのある片刃の両手剣、ジャコは小ぶりな戦斧を両手に二本。
二人の武器の用意が終わると、近くの林が僅かに揺れた。
草を掻き分け、そこから灰色の影が顔を出す。
『……ブモォォ』
全身が岩のように大きなそれは、太く短い四脚で地面を踏み鳴らしながら嬢達の前に現れた。
全長は120センチ程、全高は1メートルって所か。
その胴体はまるまるとしており、鼻先のツノと合わせて動物のサイを思わせる。
しかしその頭部、耳と目の中間辺りには、更に一対のツノが湾曲を描きながら前を向いていた。
「あれがトライゼライノス。草食で大人しい魔物だが、突進力とツノには気をつけろ」
そう言ってキーシャは後方に下がる。
自分たちで仕留めてみろ、ということか。
キーシャの意図を理解したらしいアルカ嬢達は一度深呼吸し、武器を構えた。
狩りの始まりだ。
「…………げふっ……」
全身が真っ黒焦げ、白目を剥いてぶっ倒れていた俺は口からもうもうと煙を吐き出す。
「………………え、えーと、ビットさん?」
「………………大丈夫、です…か?」
心配そうにアルカ嬢とジャコが俺の側に寄り、ぱたぱたと俺の目の前で手を振る。
あ、やめて、ジャコやめて。マジで今触んないで。皮膚が焼け焦げて痛みが直に来るの。マジで痛い。超ヒリヒリする。
「この男がその程度で死ぬわけが無いと、お前たちも知っているだろう」
心配する二人を余所に、キーシャは表情を一切変えること無くそう言った。
…………おい。
「…げんびんば……おべぇ、だりょ…」
未だに痺れの残る舌と口を総動員して、俺はキーシャへ恨み言を呟いた。
時間は数分前に遡る。
アルカ嬢とジャコが初めての魔物狩りに繰り出し、その獲物として現れたトライゼライノス。
二人の少女は現れたライノスに息を呑み、武器を構えてゆっくりと近づいた。
『……ブフッ』
「っ」
ざむっ、と草を踏みしめた音で、のんびりと草を食んでいたライノスが嬢たちの存在に気付く。
二人の姿を見とめたライノスはゆっくりと身体ごと二人の真正面を向いた。
どうやら自分と敵対するつもりだと分かっている様だ。
『ブモォォ!!!』
「!ジャコ!」
「はい!」
ライノスが前足で地面を掻き、三本のツノを振り回しながら突撃を掛けた。
直ぐ様嬢が合図を掛け、ジャコと二人で左右に跳んでやり過ごす。
二人が跳んだ直後にライノスはその場所を通過し、跡には土や草が滅茶苦茶にえぐりぬかれたむき出しの地面だけが残った。
………ひゅぅ、ありゃやばい。
もしも嬢達が対応できずに棒立ちだったなら、この場は人肉解体場に様変わりしていただろうな。
「ジャコ!常に私か貴女が死角から!」
「はい!」
ばちっと弾けるように立ち上がり、二人は通り過ぎていったライノスの左右を挟むように立ち回る。
右からアルカ嬢が大上段に斬りかかった。
見た感じ上手く力の乗った一撃だが、ライノスは嬢の剣戟を鼻のツノで事も無げに弾き飛ばした。
その隙を突いてジャコがライノスの左の腹を斬りつける。
『ブモッ…!』
「わっ!?」
攻撃されたライノスは嬢の剣を弾いた勢いを利用してツノを振り回し、ジャコはたまらず後退する。
そのままライノスは追撃をかけ、ザクザクとツノで地面を耕しながらジャコを追い立てた。
しつこく追い回されてジャコは退かされたがしかし、逆を言えばライノスの視界に嬢の姿は無い。
「…やっ!」
『ブモォォ!?』
嬢が背後からライノスの尻を斬りつける。
うーわ、痛そう。だが上手い。
常にどちらかがライノスの死角に立ち、ダメージを蓄積させる。
まだまだ拙さは見えている二人だが、狩りの基本はちゃんと出来ていた。
「………む、いかんな」
そうやって着実に二人がトライゼライノスを弱らせていたのだが、しばらくすると様子を見ていたキーシャの顔色が変わった。
『……ブルルッ』
ちくちくと攻撃され、身体のあちこちから血を流すライノスの一対のツノからバチッと火花が散る。
「ビット・フェン、出番だ」
それを見たキーシャは、岩の上で狩りを観戦していた俺の襟首をいきなり掴んだ。
「あ?……うおっ!?」
視界がブレる。
次の瞬間、俺は宙を舞っていた。
『ブモォォォォォォ!!!!』
ライノスのツノが光り、閃光がアルカ嬢へ飛ぶ。
「アバァアァァァァァアアアァァァァァ!?!?!?」
「ビットさん!?」
そして丁度嬢とライノスの中間へ投げ込まれた俺は、強烈な電撃をその身に受けた。
「今だ!とどめを刺せ!」
間髪を入れずにキーシャが指示を飛ばす。
「え、あ、はい!」
俺が電撃を受けている隙に、嬢たちはライノスの首元へと刃を振り下ろす。
『ブモッ…!』
動脈を掻っ切られたライノスは一瞬大きく痙攣した後、重々しい音とともに地面へ沈む。
「……………」
同時に電撃がおさまって俺も地面に落ちた。
皮膚は黒々と焦げ付き、身体のあちこちから煙が上がる俺。
「だからツノに気をつけろと言ったのだ」
そんな俺を一瞥して、キーシャは嬢たちを叱責した。
…………ツノに気をつけろって、そういうことかよ…。
で、現在に至る。
「それにしても、魔物が魔法を使うなんて知らなかったわ」
「冒険者の基本知識だ。よく覚えておけ」
俺をおぶる嬢が少し狼狽気味に初めての狩りの感想を漏らすと、ライノスの死体を引きずるキーシャがそう返す。
「……だからって、俺を盾にするか、普通」
「近くに居たお前が悪い」
「ひでぇ」
いつも通りの冷ややかな面で淡々とキーシャは俺に言った。辛辣である。
「えっと、でも、助かりました」
「そうね、ありがとう、ビットさん」
「あー、別に構わねぇよ。俺なら死なねぇし、必要なら肉壁なりなんなり利用すりゃいい」
未だに痺れの残る手を振りながら俺が気楽に返事すると、返された二人はクスクスと笑った。
バケモンはバケモンなりに役に立てば文句はない。
俺以外に被害は出てないし、初めてにしちゃ上出来か。
初狩猟の成果を手に、俺達は帰路についた。
「見た?」
「見た見た」
「吸血姫だ」
「化け提灯も居た」
「化け猫も居た」
「化け猫、こっち側だったよね?」
「裏切った?」
「裏切り者だ」
「粛清する?」
「吸血姫は?」
「化け猫が殺さないなら、俺達で殺す?」
「殺す」
「殺す」
「「楽しい狩りの始まりだ」」
応援ありがとうございます!
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