主語のない2人

さつき

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出会い

6話 放課後

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チャイムが鳴ると、教室の空気が一気にゆるんだ。

「帰ろうぜー」と声をかける人、部活の準備を始める人、机の上を片付ける人。
一日の終わりの、いつもの騒がしさ。

西村は教科書をカバンに入れていた。

特に急ぐ理由もないから、ゆっくり片付ける。

ふと横を見る。

水野はまだ席に座っていた。

机の上にノートを広げて、何かを書いている。帰る準備をしている感じじゃない。

西村は少し迷う。

別に話しかける理由はない。

でも、なんとなく口が動いた。

「ねぇ」

水野が顔を上げる。

「なに?」

「帰んないの」

水野はノートを見ながら答える。

「ちょっとだけ」

「なにしてんの」

「ノートまとめてる」

そう言ってノートを少し持ち上げた。

西村は少しだけ覗き込む。

文字がきれいだった。

「きれいだな」

思ったことがそのまま口から出た。

水野は一瞬だけ止まる。

それから小さく笑った。

「初めて言われた」

「ほんとに?」

「だいたい普通って言われる」

西村は少し笑う。

「それ便利な言葉だな」

「西村もよく使うよ」

昼のことを思い出したらしい。

西村は少しだけ気まずくなる。

水野はノートを閉じた。

「もういいや」

「終わったの?」

「うん」

カバンにノートを入れて立ち上がる。

西村もカバンを持つ。

教室にはまだ何人か残っているけど、二人は同じタイミングでドアに向かった。

廊下に出る。

窓の外はもう少しオレンジ色だった。

夕方の光。

二人で階段を降りる。

特に話すことはない。

でも、なぜか歩くペースは同じだった。

校門が見えてくる。

そこで水野が言った。

「西村」

「ん?」

「家、どっち」

西村は少しだけ指をさす。

「こっち」

水野は反対方向を指した。

「こっち」

少しだけ沈黙。

それから水野が言う。

「じゃあね」

西村はうなずく。

「うん」

水野は歩き出す。

西村も歩き出す。

少し進んでから、ふと振り返った。

水野も同じタイミングで振り返っていた。

目が合う。

水野は少しだけ笑って、手を軽く振った。

西村も小さく手を上げた。

それだけ。

それだけなのに、なぜか少しだけ変な感じがした。

西村は歩きながら思う。

今日も結局、一度も呼ばなかった。

「水野」

その名前を。

代わりに、また同じ言葉を使う。

「ねぇ」

たぶん明日も。
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