悪党になろうー殺され続けた者の開き直り人生ー

四つ目

文字の大きさ
24 / 25

第24話、恨み

しおりを挟む
 ゲオルドに逆らった男達の大半は負傷したが、戦えないという訳ではない。
 だが負傷した以上は、全力で戦えるかは怪しい。
 という訳で翌朝の配置は変わらず中央になり、ただ周囲のフォローを受ける事になる。

 先頭や殿では、敵襲を受けた時に真っ先に壁にならなければいけない。
 それが犬達の様な時間稼ぎなら兎も角、完全に殺しに来た場合どうなるか。
 下手をすると時間稼ぎすら出来ない可能性がある。

 ならば中央付近で周囲を警戒し、周囲と連携した方が生存率は高い、という事だ。

「お優しい事だ」
「それがゲオルドだから」

 これはゲオルドの判断だ。連中が死なない様に、生きて依頼を終わらせられる様にと。
 自分の実力を過信し、辺境を舐めて、自分達の判断で動いて死にかけた。
 そんな連中を使い潰す事を良しとはせず、これを経験として生き延びさせると。

「それに、後々を考えれば、有効。恩を売った」
「かもしれんがな」

 これでゲオルドに恩義を感じれば、連中は指示を素直に受け入れるだろう。
 生き延びた事で未熟を痛感する事も出来、将来成長する可能性もある。
 先の事を考えれば、連中はゲオルドのおかげで能力を上げる機会を手に入れた訳だ。

 だがそれは、連中が今回の事を反省し、ゲオルドに恩義を感じればの話だが。

「俺には、アイツらがゲオルドに恩を感じる様な連中には見えなかったがな」

 生き延びた後の連中の様子は、こんな馬鹿な事が有るはずがないという感じだった。
 そして無傷で生き延びたゲオルドに対しては、悔しさが滲んだ目をしていた。
 アレは恩義を感じている目ではない。屈辱に塗れたと思っている目だ。

「自分達が勝手に動き、自分達だけで良いと言っておきながら、恥をかかされたと思っている目だぞアレは。態々戦力が消耗する様に動かされたとでも思っていそうだ」

 思い違いで逆恨みも甚だしい思考だが、そういう思考が出来る人間を良く知っている。
 真面な思考をしていれば、明らかにそんな考えは持たないだろうという人間を。
 俺はそんな人間達に振り回され続け、そして死に続けて来たのだから。

「下手をすれば、逆恨みでゲオルドが闇討ちでもされかねんぞ」

 経験からの言葉を口にすると、セムラは否定の言葉を口にしなかった。
 それどころか少し顔を俯け、俺の言葉を肯定するように頷く。

「・・・そうだね。そういう事もある」

 つまりは、今までも似たような事はあった、という事なのだろう。
 助けたはずが恨まれて、その恨みを晴らされる様な事が。
 余りにも馬鹿馬鹿しい話だ。ふざけた話過ぎる。

「解っているならなぜ止めない」
「死者が出ると商人達の士気にも良くない。辺境に向かう者達は死ぬ覚悟が出来てるとはいえ、商隊の人間は基本非戦闘員。それに他の護衛の士気を考えても、護衛の死亡は無い方が良い」
「他の者達の為にも、か。真面目な事だ」

 本当にどこまでも真面目で、真面で、優しい判断をする男だ。
 そしてその際に発生した損害を自分で被るつもりなのだろう。
 今回で言えば、あの男達からの恨みと妬みを。

 自分達の能力が劣っているだけだというのに、ゲオルドに対し悪感情を持つ。
 本当に馬鹿げた話だ。誰のおかげで生き残れたと思っているのか。
 ゲオルド達が居なければ、連中は先の戦闘で既に死んでいたというのに。

 後悔する時間すらなかったはずが、反省と再訓練をする時間を与えられた。
 生き延びさえすれば、次に繋がるんだ。何故その感謝をしないのか。
 本当に世の中は、理不尽な人間で溢れている。

「・・・やはり、悪党として生きると決めて、正解だな」

 胸の内に気持ち悪い感情が渦巻き、それを吐き出す様に呟いた。
 何故俺がこんな感情を抱えなければならないのか。
 被害被っているのは俺じゃない。ゲオルドの判断で本人が被っているのに。

 ああ、ムカつく。腹が立つ。苛々する。不愉快だ。気に入らない。

「ありがと、ミク」
「は?」

 唐突にセムラが礼を口にして、その意図が解らず首を傾げる。
 そんな俺に対し彼女はクスクスと笑い、優しい笑みを向けて来た。

「確かに、逆恨みを受けるかもしれない。けど今のミクみたいに怒ってくれる人が居る。だからゲオルドは頑張れるし、私達もゲオルドを支えられる。ありがとう」

 ・・・何だそれは。それじゃまるで、俺がゲオルドの為に怒っていた様だ。
 そんなつもりは無い。俺はた・・・そう、真面な理屈を理解出来ん連中が嫌いなだけ。
 腹が立ってるのはそこに対してで、別にゲオルドを気にして怒っている訳じゃ無い。

「見当違いだ。俺はただ、連中の態度が気に食わないだけだ」
「ふふっ、うん、そうだね」

 だが否定をしても、セムラは解っているとばかりに笑うだけだった。
 これは何を言っても無駄そうだと思い、思わず溜め息を吐く。
 ただその会話をした後、少し気分が軽くなっていたのは何故だろうか。

 良く解らない。自分の感情が今一自分で理解しきれていない様だ。
 いや、どうでも良いか。誰が恨まれ被害を受けようと、俺に被害が無ければ。
 俺は悪党として生きると決めたんだろう。なら周囲の事など放置で良い。

 そういう考えが出来るから悪党になると決めたんだ。
 自分が楽に生きられて、好きに生きられる悪党に。
 その事を思い出した。ただそれだけの事だろう。

「所で、辺境に入ったら、野営は毎日あんな感じになるのか?」
「んー、可能性は高いかな」
「成程、退屈はしなさそうだ」
「私は出来れば退屈で居たいけど」

 セムラは嫌そうな表情で口にするが、それはただ嫌なだけなのだろう。
 昨日の投げナイフや、周囲への指示と判断を知ればそう思う。
 彼女が俺の行動をきっちり見ていなければ、俺は他への応援に行かなかった。

 そしてゲオルドに逆らった男達は、正確にはリーダー格の男は、きっと死んでいた。
 今思えばあの時待機していたゲオルドは、セムラが割って入る事を信じていたんだろうな。
 大した信頼関係だと思う。お互いに仲間の実力を理解し、信頼し切っている。

「まあミクが居れば、全滅って事は絶対に無いだろうから、何時もより気楽」
「随分と俺の事を買っているな」
「実力知ってれば、当然。それに他の連中も、もうミクに文句なんて言えない」
「どうかな。連中も随分と悔しげだったが」

 昨日の夜、俺は他の護衛達の補助に向かい、そして魔獣を打ちのめした。
 その際に助けた護衛達は、俺に対し不愉快な態度を抱いていた連中だ。
 あの時は余り気にしていなかったが、後になって気が付いた。

 そして連中は被害報告の際に、俺に対し悔しそうな表情を見せている。
 一応恨みがましい物ではなかったが、それでも良い感情ではないだろう。
 不思議な事に、ゲオルドに逆らっていた連中は、俺に対しそんな目は向けて来なかったが。

「全く、面倒な事だ。どいつもこいつも」
「そうだね、面倒だね。ふふっ」

 真面な思考を持つ人間は居ないのかと、ため息ばかりが漏れる。
 セムラも苦笑しながら同意し、視線をゲオルドに向けていた。
 あちらは変わらず真面目に護衛依頼をしている様子だ。

「だから頼りにしてる。私達を生かして依頼を終わらせてね」
「・・・お前達は助けなど、必要無さそうだがな」
「まさか。言ったでしょ。辺境を舐めたら死ぬ。自分達なら何とかなる、なんて思ってない」
「勤勉な事だ」

 辺境を舐めた者から死んでいく。それは経験者も同じだという事か。
 自分達は踏破出来るという自信が、驕りになって死を招くと。
 本当にどこまでも真面目で勤勉で真面な者達だ。

「戦闘だけに関しては、任せておけ」
「うん、頼りにしてる、凄く」

 心の底から嬉しそうに笑うセムラを見て、また気分が少し軽くなった気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜

ソニエッタ
ファンタジー
森のはずれで花屋を営むオルガ。 草花を咲かせる不思議な力《エルバの手》を使い、今日ものんびり畑をたがやす。 そんな彼女のもとに、ある日突然やってきた帝国騎士団。 「皇子が呪いにかけられた。魔法が効かない」 は? それ、なんでウチに言いに来る? 天然で楽天的、敬語が使えない花屋の娘が、“咲かせる力”で事件を解決していく ―異世界・草花ファンタジー

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

処理中です...