角持ち奴隷少女の使用人。

四つ目

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192、感づく。

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「天使ちゃん、綺麗になったかしら?」

掃除が終わった所でタイミング良く羊角が話しかけ、にこっと笑ってコクコクと頷く少女。
今日は廊下の拭き掃除をやっており、黙々と床を綺麗にし続けていた。
ただし以前の様に一か所に注視するのではなく、ちゃんと全体を見て掃除している。
少女も成長するのだ。少しづつだけど。なので満足そうにむふーと息を吐いている。

因みに羊角は羊角で少女が気が付かない所や、細かい家具の掃除などをしていた。
本人も一つの事に熱中するタイプだが、今日は少女のフォローをと言う事で集中し過ぎない様に気を付けていたらしい。
決して一生懸命床を拭く少女を撮る事に集中していた訳ではないはずだ。多分。

「それじゃあ休憩にしましょうねぇ」

少女はニパーっと笑って羊角の手を握り、羊角もニコニコと笑いながら歩き出す。
ふんふーんと何時もの調子で鼻歌を歌いながら握った手を小さく揺らす少女に、とても満足そうに付き合っている様に見える。
少なくとも、この状況だけを見ればそう見えるだろう。

「角っ子ちゃん、何か気が付いてるよね、あれ」
「多分そうだと思うなぁ。最近のおチビちゃん、ずっと彼女の傍にいるもの。先輩といる時間より長いんじゃないかな。旦那様と遊んでいるところも最近あんまり見かけないし」
「誰も事情詳しくは話してないよね?」
「おチビちゃんにだけは話してないはず、なんだけど」

彼女と単眼は二人を見て少し困った表情を見せている。
今日の少女と羊角の光景は、大きく見れば別に屋敷では珍しい事じゃない。
普段から少女は人懐っこい性格だし、使用人達と接する時はニコニコしている。
羊角にはべたべたする事は少ないとはいえ、手をつなぐぐらいなら別にない事ではない。

だけど最近の少女はやけに羊角の傍に居る事が多い。
ドレス選びの際は少しおめかしして出かける予定が有るとしか言っておらず、本当の事は何一つ伝えていないのにだ。
それは事情を聞いておらずとも、羊角の様子がおかしいと感じているのかもしれない。
少女にだけはなるべく心配をかけたくないと事情を伏せているのに、どうやら羊角は現行で少女に心配をかけているのかも、と二人は感じている様だ。

とはいえ少女はつい最近、羊角が泣いていた所を見ている。
単純にその事を気にしているのかもしれないし、ただ単に気まぐれの可能性もある。
実際の所は少女にしかその本心は解らない。
ただ優しい少女の事を考えれば、あながち見当違いではないだろう。

「まあ角っ子ちゃん自身はご機嫌だから別に良いけどねー。あたしは散歩の時間が有るし」
「少し代わってよぉ。最近おチビちゃんと遊ぶ時間減っちゃって寂しい」
「やだもんねー! それなら普段から散歩に行ってれば良いんだーい!」
「ケチー!」

彼女と単眼もワイワイとじゃれつきながら、少女達の後を追うのであった。






その頃男の私室では、女が男に恨み言を吐いていた。

「最近あの子と接する時間が減ったんですが」
「いや、そんな事俺に言われても・・・べったりしている人間に言えよ」
「その原因は誰のせいですか」
「うっ・・・いや、知り合いとは、思わないじゃん・・・ていうか不可抗力だし」

今回の件で羊角の所在がばれた原因は、やはり男であった。
とはいえ別に教えようとした訳ではなく、本当にちょっとした偶然の事故。

男の端末には偶に屋敷の住人からの写真が送られてくる事が有る。
それは大半少女の写真で、少女が来てからの日常。だから少し油断していたのだろう。
仕事中は基本的に見ないのだが、端末を使おうとした時にタイミング悪く送信され、うっかりタップしてしまったのだ。

せめてそこに映っていたのが少女だけか、羊角以外の使用人ならば問題は無かった。
だが写真には羊角が映っており、その上端末をつるっと落としてしまう。
それを拾ったのが、件の羊角の昔の恋人だったという訳だ。

「貴方がうっかり落とさなきゃ問題無かっただけじゃないですか」
「いや、それは、そうだけど・・・」

おかしいな。俺が主人のはずなんだけどな。何でこんなに立場弱いのかな。
と思いつつも何を言っても無駄な気がして反論を諦める男。
そうして男は暫くの間、ねちねちと女に恨み言を聞かされ続けるのであった。

「俺も最近遊べてないんだけどな・・・」

そんな呟きは無視された様である。
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