あの人と。

Haru.

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本編

8 ひとり

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 夜になり、美味しい夜ご飯(もはや晩餐というのがふさわしいぐらいの豪華さだった……)を食べ、リディアの手伝いを断固として断って入浴した後、あとは寝るだけだとこれでもかと大きく、ふかふかなベッドに早めに入ったのだが、リディアも部屋を出て行き、1人になった途端にそれまでに感じていた疲れがどこかへ行き、目が異様に冴えて寝れなくなった。
 枕が変わったからというわけでは無く、僕はもともと寝付きは良い方でどこでだって眠れたし、ベッドも元の世界で使っていたものよりもはるかに寝心地がいいが、なかなか眠りにつけなかった。

 仕方なく起き上がり、クローゼットから薄めの上着を取り出して羽織り、城の敷地内ならば外には自由に出て良いと言われていたので部屋の扉を開け、庭へ行こうと踏み出す。
 扉の横にはダグと1人の騎士が立っていた。夜の警護は交代制だが今はダグだったようだ。よかった、話したこともない人だったら諦めて部屋に戻るところだった。

「……どうなさいました?」

 ダグの問いに対し、1人では庭へ行くまでに迷子になりそうなのでついてきてもらいたいので正直に返す。


「眠れなくて……少し、庭へ出て風に当たりたいんだ」

「……かしこまりました。ご案内いたします」


 夜にあまり出歩かせたくは無いのだろうが、僕の顔を見て何か思うところがあったのか文句を言うこともなく連れて行ってくれることになった。






 少し歩いて庭へと出ると僕はそのまま城の建物から離れる。ダグは少し距離を置いてただただ見守ってくれている。


 その距離感が、今はどこか安心した。
 遠く離れるわけでも無く、すぐそばに控えるわけでも無く、少しの距離を置いて見守ってくれるその行動が、ありがたかった。

 僕の心はぐちゃぐちゃだった。


 1人になりたい。1人になりたく無い。

 側にいてほしい。離れていてほしい。


 相反する感情がせめぎ合い、思考がまとまらない。




 僕はゆっくりと膝をつき、空を見上げた。

 星が輝く、澄んだ空だった。日本では見られない、澄んだ空だった。星座の並びも、見たことのないものだった。もう、ここが日本ではないと、あの世界ではないのだと、強く思い知らされた。


 そうしてただただ空を見上げていると、1つの歌が頭を流れた。僕の大好きだった歌だった。

 フランス革命を題材とした有名なミュージカル映画の中で、一途に想い続けた男性が自分ではない女性を選び、悲しみにくれた女性の歌。雨の中、彼への想いを歌う彼女が美しく、見惚れた。ああ、美しい恋だと、その歌が大好きになった。

 僕は映画でそれを見てから、日本語版の歌もあると知りながら、敢えて英語の歌詞でその歌を覚えた。何度も何度も聞いて、この女性のように美しい恋がしたいと、そう願った。



 僕はいつのまにかその歌を口ずさんでいた。

 次第に感情が溢れ、その激情に呑まれそうになったがそれでも歌い続けた。

 もはや、歌というよりは叫びだったかもしれない。





 最後の一節にかかる前にはもう、肩で息をしていた。

 少しの間を置いて空に手を伸ばす。


 そのまま、最後の一節を歌い上げる。




 静かに、静かに、呟くように……







 そして、最後まで歌い上げた時、僕の頬を何かが伝った。





























 ああ、僕はもう、ひとりなんだ
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