あの人と。

Haru.

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本編

35 恋とは

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 初めての授業から数日がたった。午前はヴォイド爺の授業を受けながら、暇な時間に僕は恋愛について考えていた。
 今日は授業がお休みの日で、朝からダラダラと過ごしている。今は例のあの庭でお茶を飲みながらゆっくりと考えている。

 恋愛、か……あまり考えたことはなかったけど、どんな気持ちなんだろう? 日本でも好きな人ができたことはなかったし、よくわからないなぁ……

「ねぇ、リディア。リディアは恋ってしたことある?」

「私ですか? ございませんよ」

「そっかぁ……ダグは?」

 今日の護衛はダグと何度か見かけた騎士さん。やっぱりダグ率高い気する。リディアもだけど休み少なすぎない? この世界の労働基準法的なの教えてもらったほうがいいかも。

「私もございませんよ」

「そっかぁ……」

 ほっ……

 ……ん? 僕今何でほっとしたんだろ?
 ……まぁいいや。

「恋ってどんな気持ちなんだろう……」

「恋、ですか……恋をしたことがある方に聞いてみてはいかがです?」

「例えば?」

「我が国の王族は恋愛結婚が多いと有名ですよ」

「じゃあロイとアルも? そうなの?」

「ええ。王侯貴族は政略の絡んだ結婚が殆どなのですが、我が国の王族は恋愛結婚を推奨しておりまして。現国王陛下も恋愛を通じてご成婚されました」

 確かに王族や貴族って政略結婚ってイメージ強いけど、この国は違うんだ……

「へぇ~たしかに、ロイとアルって仲良いよねぇ。
でも、2人って忙しいでしょ? こんなことで時間取ってもらうのは悪いよ」

「本日はお2人とも午前の執務しか入っていなかったと思いますよ。確認をとりましょうか?」

「そうなの? うーん、じゃあお願いできる?」

「ええ。今確認をとりますね」

 そう言ってリディアは赤い石のようなものを取り出した。形は四角錐かな? 大きさは僕の拳サイズ。
 リディアがそれに向かって話しかけているってことは、あれが前に聞いた連絡用の魔石、かな?

「ユキ様、やはり午後はお休みのようで、ぜひともユキ様にお会いしたいと。お会いになられますか?」

「ほんと? じゃあお昼食べてから会いたいな」

「かしこまりました」

 そう言ってリディアはまた石に向かって話だした。どうやらやりとりが終わったところで僕はその石について聞いてみる。

「ねぇリディア。その石はなぁに?」

「おや、そういえばまだお見せしたことがありませんでしたね。これは以前お話しした連絡石という魔石ですよ」

「やっぱりそうなんだ! どうやって使うの?」

「魔力を通しながら話したい相手を思い浮かべます。相手も連絡石を持っており、通話を許可すれば繋がり、話すことができるのです」

「それは誰にでも使えるの??」

「そうですね、極端に魔力が少ない方以外は使えますよ。必要な魔力もそう多い訳ではありませんし、使い方も難しい物ではありませんので」

「へぇ~、すごいなぁ。魔力とか、さすが異世界だ」

「ああ、ユキ様の故郷には魔力がなかったのですね」

「うん。魔力とか、魔法だとかはおとぎ話の中だけだったよ」

 僕も小さい頃は魔法使いに憧れてたなぁ……魔法は存在しないってわかった時の悲しさは半端じゃなかった。

「ユキ様もこちらの世界に神子として降臨されましたし、この世界には身体が馴染めば魔力も宿り、魔法を使えるようになるでしょう」

 そうなの?! じゃあ本当に魔法使いになれる……?!

「本当に?!」

「ええ。今も少しずつ魔力が宿り始めているはずですよ。歴代の神子様方も極めて大きな魔力を有していたようですし、ユキ様もいずれは大きな魔力を持つことになるでしょう。
大きな魔力は制御の仕方を知らなければ暴走してしまう可能性もありますので、いずれは制御の仕方を学んでいただくことになると思います」

「僕も魔法が使えるようになるんだ……!
僕も魔法使えるようになりたいし、頑張って覚える!!」

「ふふ、楽しみにされるお気持ちはわかりますが、ご無理をなさってはいけませんよ? ゆっくりと覚えていきましょうね」

「うん!!」

 僕にも魔力が宿るなんて信じられない!! 思わず手を空にかざしてまじまじと眺めてしまう。なんだか微笑ましいものを見てます、的な視線を感じるけど無視無視!!

 楽しみだなぁ……!!! 





「さてユキ様、そろそろ昼食のお時間ですが、本日はどちらでお召し上がりになりますか?」

 はっ!! もうそんな時間か!!

「うーん、どうしよう? せっかく天気もいいし、ここで食べてもいいかなぁ?」

「もちろん構いませんよ。ではこちらへ昼食をお持ちいたしますね」

「うん、お願いね」

 そう言ってリディアは新しいお茶を僕の前に置いてから下がって行った。お昼を取りに行ってくれたんだろう。今日のお昼は何かなぁ?

 ……ってあれ? いつのまにか護衛がダグだけになってる。もう1人の騎士さんは?
 ……あ、お昼食べに行ったのか。いつも交代で食べに行ってるもんね。

 ……って、つまり今はダグと2人きり……?! あの夜と同じ……?!

 うわわわ、なんでかいきなり緊張してきた!!
 おおおお茶!! お茶飲んで落ち着け僕!!!!!!


 わたわたとお茶をとったら溢れてカップを持つ手にかかってしまった。

「あつっっっっ!!!」

 ガチャン!!

 熱さに驚いて思わず手を離してしまった。そんなに高さはなかったからカップは割れなかったけど余計に溢れてテーブルは大惨事。

「ユキ様?!! お怪我は?!!」

 少し離れていたダグが駆けてきて僕の手を取った。

「だ、大丈夫、びっくりしてカップ落としちゃったけど、火傷するほどじゃなかったから」

「念のため冷やしましょう」

 え、冷やすものここにないよ? と思ったら、ダグが僕の手を掴んだのとは逆の手を、テーブルの上にあったナプキンにかざした。そうしたらそこに小さな氷のカケラがいっぱい出てきたの!!
 そのままダグはその氷をナプキンでくるんで僕の手に当ててきた。

「このまましばらく冷やしましょう」

「う、うん、ありがとう。
すごいね、今のは魔法?」

「はい。治癒魔法を使えたらよかったのですが……冷やすぐらいしかできず申し訳ありません」

「いやいや!! 火傷した訳じゃないし、十分だよ、ありがとう」

 治癒魔法なんてのも存在するんだ……でもこうして冷やすために氷出してくれただけで十分すごいよね。魔法なんて存在しなかった世界で育ったから余計にすごく見える。

 ……そしてダグはいつになったら僕の手を離してくれるのでしょうか……ずっと握られてて……て、手汗とか大丈夫かな?! 
 ぼ、僕なんでこんな緊張してるの?!!

「ユキ様、ほかにお茶がかかった場所はございませんか?」

「だ、大丈夫! 手だけだよ」

「よかった……お怪我が無いようで安心いたしました」

 そう言ってふわりと微笑んだダグに僕は顔に熱が集まってくるのがわかった。

 ダグの微笑みはあまりにも、綺麗で。


 目が、離せない。
 



──トクリ

 ひとつ。

──トクリ

 ふたつ。

──トクリ

 みっつ。




 ああどうしよう、音が鳴り止まない────
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