あの人と。

Haru.

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本編

36 自覚

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 あれからすぐにリディアがお昼を持って戻ってきて、その気配に僕はやっとダグから目をそらせた。
 バクバクと鳴っている胸はまだおさまりそうもない。

「ユキ様、おまたせいたしました。昼食をお持ちいたしました……ってどうしました? 何かあったのです?」

 僕達のいつもとは違う距離を不思議に感じたのだろう。リディアが聞いてきたけど僕はまだ動揺してて話せない。

「リディア、お前治癒魔法使えなかったか? ユキ様にかけて差し上げてくれ」

 わぁ、ダグのタメ口初めて聞いた。いいなぁ、僕もダグとタメ口で話したいなぁ……

「ユキ様がどこかお怪我を?!」

「お茶をこぼされてな……火傷はされていないご様子なんだが、やはり心配だ。冷やしはしたが、念のためかけて差し上げてくれ」

「わかりました。ユキ様のお手をこちらに」

 ダグはそっと氷を包んだナプキンをとり、リディアへ手を差し出した。
 離れて行ったダグの手にちょっと寂しさを感じるのは……今は考えない方がいい気がするっ!!

「いいよリディア。火傷もないし治癒魔法なんていらないよ」

「いいえ、念のためかけておきましょう。その方が私どもとしても安心です」

 本当に大丈夫なのになぁ……やっぱり僕の周りは過保護だ。
 なんて思っていたら僕の手にかざされたリディアの手がポウッと光った。これが治癒魔法かなぁ?
 なんだかこの短時間で魔法いっぱい見た気がする。

 光がおさまるとリディアはまじまじと僕の手を確認しだした。

「……大丈夫そうですね。ユキ様、痛みなどはございませんか?」

「大丈夫だよ。ありがとうね、リディア。ダグもありがとう」

 そう言うとリディアとダグはホッとしたような顔をした。ダグはそのままもとの場所へ戻って行った。

「いえいえ、ユキ様のお手に何かあっては大変ですからね。ピアノを奏でる美しい手ですから」

 僕のピアノを本当に気に入ってくれてるんだなぁ……奏者冥利につきるよね!!

「ふふ、そんなに僕のピアノ気に入ってくれて嬉しいな。また聴いてくれる?」

「ええ、もちろんです! 楽しみにしておきますね。

さて、それでは昼食にいたしましょう」

「うん。僕お腹空いちゃった」



 ……なんて言ったけど正直味がわからない……!!
 習ったばっかのテーブルマナーを駆使しながら食べ始めると、ダグは戻ってきた騎士さんと交代でお昼を食べに行き、僕が食べ終わる前に戻ってきた。は、はやくない?! 騎士さんももっと時間かかってなかった?!

 って僕さっきからダグのこと気にしすぎじゃない?! な、なんでだろ……? い、今は考えない方がいい気がする……う、うん、今はとにかくお昼食べ切ろう……!







 な、なんとか食べきった……この後はロイ達のとこだ。なんだかはやく行きたくて仕方ない。

「ねぇリディア。ロイ達のとこっていつになったらいける?」

「今からでも問題ないと思いますよ。すぐに行かれますか?」

「うん、行きたい!」

「では参りましょうか」





 ちょっと歩いてロイの部屋へ着いた。この前の夜にきた部屋だね。
 リディアが扉の横に立ってる騎士さんに話しかけるとすぐに扉を開けてくれた。

 そのまま中に入るとソファに座っていたアルが来て抱き締めて来た。

「ん~久しぶり!! 元気だったか?」

「アル、久しぶり。僕は元気だよ。アルはどう?」

「俺も元気だ! さ、座って座って」

 そのままアルにロイが座っているソファの向かいのソファへ座らされた。アルはロイの横に戻って行った。

「ユキ、久しぶりだな。授業はどうだ? 大変ではないか?」

「大丈夫だよ、ヴォイド爺も優しいし」

「ヴォイドが優しい、か……そんなことを言うのはユキだけだろうな」

「え? 優しいよ?」

「あやつは厳しいことで有名な男だぞ?」

「えー?! そんな風には見えないよ?!」

 そうだよ、だってヴォイド爺は僕にとって優しいお爺ちゃんなんだもん。授業中に怒られたこともないし、厳しくなんてちっともないよ。

「ははは、まぁユキには誰もが甘くなってしまうだろうからな。あやつとて同じなのだろうよ」

「えー? でも僕甘やかされてばっかだったら調子に乗っちゃうかもだよ?」

「ユキは甘やかされてもそんな風にはならないとわかるからな」

「えええ? うーん、よくわからないけどじゃあ僕はその期待に応えないとね」

「ははは、まぁそんな気を張る必要はないさ。そのままのユキでいいんだよ」

 そのままの僕かぁ……それでいい、って言うならもう何も考えないでおこうかな?

「ん、わかった」

「それで、今日はどうしたんだ? 会いに来てくれて嬉しいけど、何かあったのか?」

 アルが不思議そうな顔で聞いてきた。

「あのね、ロイ達に聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと?」

 2人がきょとんとしている。

「えっとね……恋、って何……?」

「恋? なんでまた急に?」

「えっと……僕、恋愛的な意味で人を好きになったことがなくて……だから恋ってものがわからないんだ。
そしたらリディアがね、ロイたちは恋愛結婚をしたって言ってたから、ロイ達なら恋がどんなものかわかるかなぁって」

「ふむ……それが気になり始めた、ってことはユキの中に少なからず気になる人物がいる、ということかな」

「え?! 気になる人……わ、わからない」

「……そうか。まぁいい。恋とは何か、だったな」

「う、うん。教えてくれる?」

「まぁ、構わないが、人によって感じ方は違うから、私達の例が全てではないぞ?」

「うん、それでもいい」

「そうか……アル、私達の可愛い息子のユキに教えてやろうではないか」

 ロイが意地悪そうにアルに向かって笑いかけた。

「え?! う、うううん、そうだな?!」

 え、なんだかアルの顔が真っ赤になってて本人がすっごい狼狽えてる。

「あ、アルどうしたの? 嫌だった?」

「はは、違うさ。ただ恥ずかしがっているだけだよ。可愛いだろう?」

「かっ可愛いとかいうなバカ!!!」

 そういってアルは勢いよくロイの肩を叩いた。すごい音がしたけどロイはにこにこと楽しそうだ。

「ははは、ユキ、アルの場合はこうなる。
真っ赤になって挙動不審になるんだ。普段は普通なのにそういう雰囲気を見せると途端にこうだ。
もう何年も一緒にいるが、この反応は変わらない」

 ロイが幸せそうに笑ってアルの頭を撫でる。アルはさっきより真っ赤になって目も潤んでる。
 うわぁ、なんだか付き合いたてのカップルみたいだ。それがずっと、ってすごいなぁ……


「そして私の場合は……」

 ロイがずい、と身を乗り出して意地悪そうな顔を向けてくる。

「名前を呼ばれただけで胸が高鳴る」

 胸が……

「側にいないと不安になる」

 不安、に……

「その腕に、これ以上ない安心感を覚える」

 安心、感……

「相手のことが気になって仕方がない」

 気に、なる……

「なにより、触れられるとたまらなく嬉しくなる」

 そこまで聞いて、僕の顔はどんどんと真っ赤に染まっていった。
 だって……だってそれでいくと僕は──


「おや? ユキの中にも同じように感じる人物がいるようだな?」

「う、うぅ……ぼ、僕、恋、してるの……?」

「さて、それはユキにしかわからぬよ。

しかしまぁ、ユキの中ではもう答えは出ているのではないか?」

 う、うぅ……今になってわかった。僕、1人の前ではやたらと挙動不審だったじゃないか。やたらと顔が赤くなったじゃないか。
 まるで、今のアルみたいに。

 

 あぁ、僕は、僕は────




























 ──────ダグに、恋をしているんだ。
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