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本編
49 side.ダグラス
しおりを挟む何が、起きているんだ……?
目の前に、目を閉じたユキ様がいて、唇には柔らかな感触……
これは、ユキ様の、唇……?
ユキ様に、口付けをされ、て……?
余りもの驚愕に瞬きひとつできず目の前のユキ様を凝視してしまう。
じっとユキ様を見つめていればユキ様はゆっくりと離れていき、俺にはとてつもなく長く感じられた口付けは終わりを告げた。
声を発することもできず、目の前のユキ様をただただ見つめることしかできない。
そうして見つめ合うこと数分──実際にはもっと短かったのかもしれないが、俺には数時間にすら感じられた──ユキ様がゆっくりと口を開き、放った言葉に俺はさらに驚愕することになる。
「……僕の好きはこっちの意味だよ、ダグ」
「な、ユキ様には想い人がいらっしゃるのでは……」
やっと出た声は情けなく震えていた。
「その想い人がダグだよ。
……ごめんね、好きでもない相手からキスされても気持ち悪いよね。僕の気持ちを伝えたかっただけだか──んぅっ?!」
そんなまさか、ユキ様の想い人が俺だなんて……俺はユキ様が他の男と共になられるのを見守る覚悟を決めたというのに……
いや、今はそんなことはどうだっていい。悲しげに笑うユキ様など見たくない。ただ今は気持ち悪いなどと思っていないことを伝えなければ。
最初は気持ち悪くなどないという証明に俺からも口付けを送るだけのつもりだった。軽く触れるだけの、優しい口付けを。しかしユキ様の唇に触れた瞬間、理性の糸が切れる音がした。
気付けば俺はユキ様の唇を好き勝手に貪っていた。静かな部屋に響く水音が生々しい。
「んっ……ふ、ぅ…………ダ、グぅ……」
ああ、だめだ。ユキ様が苦しそうにしていらっしゃる。今すぐ離さなければ。
離さな、ければ────
わかっているのに、離せない。
唇の隙間から漏れ出るくぐもった微かな喘ぎと響く水温に身体中の血液が沸騰するようだった。
結局、俺が唇を離すことができた頃には、ユキ様は肩で息をしていた。
「っは、ぁ……はぁ…………」
頬を紅く染め潤んだ目で睨まれ、あらぬところに血が集まりそうになったがぐっと堪えた。
だめだ、抑えろ、俺。
湧き上がりかけた欲を抑えるために一度深く息を吐き出し、ユキ様と額を合わせた。
「ダ、グ……?」
「申し訳ありません、ユキ様。理性が飛びました。
ですが、これでお分かりになったでしょう? ユキ様の口付けが気持ち悪いなどあるはずがありません。ユキ様こそ、お嫌ではありませんでしたか? あの様にするつもりはなかったのですが……」
「い、いやでは……その……なかっ、た……よ? で、でも……あんなの初めて、だった……から……」
ぐっ……! 収まれ、俺……!!
「よかった……ユキ様に嫌われたらどうしようかと」
「き、嫌わないよ! その、ダ、ダグになら何されても……いい、と思うし……」
これは新手の拷問だろうか。今すぐ押し倒したくなったが必死に抑える。
そもそも俺はまだユキ様に想いを伝えていない。それなのに俺はあんなにユキ様の唇を好き勝手に貪って……
しまった。ユキ様は想いを告げてくださったのに。俺もはやく伝えなければ。
「ユキ様、順番が前後してしまいましたが……ユキ様のことを愛しております。護衛としてならぬ想いだと一時は封じ込めましたが、もう、両想いだと思ってよろしいですか?」
俺がそう告げれば、ユキ様はみるみる目を見開いていき、最後には嬉しそうに笑ってくださった。
やはりユキ様には笑顔が1番似合う。どんな表情だって愛しいことには変わりはないが、やはり好きな人には笑っていてほしいというものだ。
「うん……! うん!! ダグ、大好き!!!」
ユキ様が再び抱きついてきたので俺もしっかりと抱きしめ返す。
まさか、俺の腕が1番安心感を得れると思ってくださっていたとは、な……見知らぬユキ様の想い人へ嫉妬した俺がバカらしく思えた。
自分に嫉妬していたとは……
今思い返せば、リディアの言葉は全て俺に当てはまる。調べるべくもなくあいつは俺のことは大抵知っているだろうし、少なくとも俺は危害を加える人間ではない。俺が護衛だから護衛抜きなんてそもそもあり得ないわけだ。もちろん本人だから俺のことも知らないわけがない。ユキ様と会っているのも見たというか、本人だしな。
そういうことだったんだな……全く気づかなかった。
まぁ、いいか。もう過ぎたことだ。今は腕の中のユキ様だ。
「はい、私もお慕いしております」
「ふふ、それはどっちの意味で?」
楽しそうな声で聞いてくるユキ様。
……さっきのは告白だったんだな……それを護衛として好いてくれていると勘違いしてなんて返しをしたんだ俺は。
団長にも笑われるわけだ。暫く弄られそうだが、こればかりは気付けなかった俺が悪い。甘んじて受け入れよう。
めげずに口付けをしてまで想いを告げてくださったユキ様に感謝しなくては。俺もこうしてユキ様へ想いを告げられるようになったのだから。
「主人としては勿論、それ以上にひとりの人間として、ですよ。愛しております、ユキ様」
「ふふ、僕も! 護衛が恋人だなんてずっと一緒にいられて嬉しい!」
「そうですね。私も愛しい恋人を守るために今まで以上に気合が入りそうです」
今までだって気を抜いたことなどないが、恋人を守るとなれば気合の入り方が違ってくる。
今なら竜人5人を相手にしたって勝てそうだ。
「あ、それ! もう恋人なんだから、敬語やめて?」
バッと離れて小首を傾げながらそう言ったユキ様。俺の膝の上にいても身長差ゆえに自然と上目遣いになる。
……このお願いを聞けない人間がいたら見てみたいものだ。
「……わかった。だが、任務中は変えることはできない。それでもいいか?」
「それでもいい! ダグはリディアと話す時はタメ口になるから、リディアが羨ましかったんだ」
それは嫉妬か……?
可愛い嫉妬にたまらなくなり、もう一度ユキ様……いや、ユキに口付ける。
「んぅ~っ……は、ん…………ふぅ……っ……」
ユキの唇のなんと甘美なことか。
貪り尽くしたい思いに駆られたが、理性を総動員して唇を離す。今度はいくらか息は上がっているものの肩で息をするほどではないようだ。
「も、う……僕、初心者なのに……」
赤い顔で目を潤ませながら睨まれても煽られるだけなんだが……
「すまない、嫌だったか?」
嫌がっているわけではないとわかっていながら、わざとこう質問をする。
「い、嫌なわけじゃ……ない、けど……」
「けど?」
「は、恥ずかしい……」
首まで真っ赤に染めたユキは本当に成人しているのかと疑うほどに可愛い。
恥ずかしがるユキはたまらなく可愛いが、俺はすでに割と限界だ。想いが通じるなど思ってもいなかったからか、煽られて仕方がない。
「慣れてくれ。
……これでも、抑えているんだ」
耳元で囁けば、身体を震わせるユキ。
ああ、その仕草が男を煽るのだ。
……まぁ、ユキの嫌がることなど出来はしないからいくらでも待つが、な。
腕の中でふるふると震え続けるユキをあやすように真っ赤な唇へ優しく口付けた。
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