あの人と。

Haru.

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本編

48 勢いで

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 ──ユキ様がご無事でなによりです。

 そう言って抱きしめてくれたダグの腕は暖かくて、やっぱり安心した。誰のよりも安心する大好きな腕。

 今はダグから伝わる暖かさがダグが生きているってことを実感させてくれて余計に安心して涙が止まらない。

 本当に、ダグが生きていてよかった……


 今日、もしもダグが死んでいたら……? 僕は、想いを伝えることもなく大好きな人をなくしていた……?

 生きていたからいいなんて思えない。だって、ダグは騎士だ。危険な魔獣の討伐だってこれからもあるはずだ。ダグは「生きて戻ってくる」って言ってくれたけど、絶対なんて存在しない。

 ……いついなくなってしまうか、わからないんだ……


 もしも想いを伝える前にダグがいなくなってしまったら、僕は確実に後悔する。
 もちろんダグがいなくなるなんて嫌だ。嫌だけど、ここは嫌だからで通じる世界じゃないんだ。

 圧倒的な力を持つ存在がいて、それがいつ牙を剥くかわからない、そんな世界なんだ……


 神子がいる世界は平和だというけれど、今日あんなことがあった。僕にとって、平和とは言い難いことだった。

 ダグを、失うかもしれなかった……








 僕は、後悔する前にダグに想いを伝えないと……!











 そうとなれば、善は急げだ。勢いでいかないと、僕は尻込みしてしまうから。この際リディアがいるとかは気にしてられない。場所を変えたら僕は絶対もう言えなくなる。





「ダグ……僕ね、僕……ダグが大好き、だよ……」

 う、うぅ……思ったより声出なくて情けない告白になっちゃった……

「はい、私もユキ様をお慕いしております」

 こ、これは両想い……?!

「ほ、ほんと?!」








「ええ、この間も申したではありませんか」







 ……ん? この間も?

 そろりとリディアを見れば、額に手を当てて項垂れている。

 ……だよね。これ、告白だと思われてないやつだよね。


 つまりはあれだよね。

「ダグが(護衛として)大好きだよ」

「(主人として)お慕いしております」

 って風にとられたってことだよね……


 一世一代の告白が……!!!!


「う、うぅ……」

「どうなさいました、ユキ様?」

 思わず唸った僕を心配するダグ。

 誰のせいだと……!!





「ぶふっ……あっはっはっはっはっは!!! だ、だめだこれ……!! おま、ダグラスそりゃねぇだろ!!!」

 突然誰かの笑い声が響いた。

「だ、誰?!」

 声がした方を見れば、椅子に強面だけど快活そうなおじさんが座っていて、お腹を抱えて爆笑している。
 年齢はおそらく40前後ぐらいでガタイは熊を彷彿とさせるくらいにごつい。ダグより大きそうな人初めて見た……

「す、すまねぇ……ぶふぅ……くっくっく…………はぁ……あー、笑った。すまん、俺はアルバス。騎士団長だ。よろしくな、神子様」

 騎士団長?! た、たしかに強そう……
 って今神子って言った?

「ぼ、僕を知ってるんですか?」

「そりゃ、その髪と目は神子の証だからなぁ」

 なるほど、それもそうか。

「アルバスさんは敬語とか使わないんですね?」

 この世界で初対面でこれは初めてだ。いつも敬われてばっかで違和感しかなかったからこれはちょっと嬉しい。
 日本育ちの男子高校生が世界変わった途端に敬われるようになっても、ねぇ?

「すまねぇ、気に障ったか? 敬語だとか苦手でなぁ……」

 しまった、どうやら嫌味と取られてしまったみたいだ。急いで否定しないと!!

「違います違います! むしろ敬われるのは違和感しかないので。呼び方もユキでいいです」

「そりゃ助かる。んじゃあユキって呼ばせてもらおうかね」

「はい、ぜひそうしてください」

 どうやら誤解は解けたようでアルバスさんはニカリと笑った。

 やった!! 気安く接してくれる人ゲットだ!! この世界じゃ珍しいぞ……!!

 いやまてまてそうじゃないでしょ!!

「あ、あの……いつからそこに……?」

 そうだよ! 問題はアルバスさんがいつの間にかここにいたのかってことだよ!!

「んあ? 最初っからだな。ユキがダグラスに飛びつく前からいたぞ」

 そう言ってアルバスさんはニヤリと笑った。

 み、見られた……! 一世一代の告白の失敗も!!

「いやぁ、あの噂は本当だったんだなぁ」

 ニヤニヤとした笑みを向けてくるアルバスさん。

「う、噂ってまさか……」

「ああ、想像通りだと思うぞ」

「……発信源は……」

「王妃陛下が王太子殿下方と話しているのが神官や騎士に伝わってなぁ。そっからだな!」

 アルぅううううううううううう!!!!!!

 やっぱり広まってる……!!!

「……それってどれくらい広まってるんですか……」

「他はどうかしらねぇが騎士じゃあしらねぇ奴のがすくねぇと思うぞ?」

「そんなに……!!!」

 はやすぎない?! はやすぎない?!!
 人の口に戸は立てられないって言うけども……!!

「なんのことです……?」

 ダグが検討もつかないと言った様子で聞いてくる。

「いやぁ、こればっかりは、なぁ?」

 随分と楽しそうですねアルバスさん!!!!

「うぅぅ……ダグのばか!!!」

「ええ?! ユ、ユキ様?!」

 恥ずかしいやらなんやらでごちゃごちゃになって涙が溢れてきて、ついダグに八つ当たりしてしまう。
 ダグはそんな僕にあたふたして涙を拭ったり頭を撫でたりしてくる。その手がすごく優しくて涙は余計に溢れてきて止まりそうもない。

「うぅ~……」

「ユ、ユキ様……」

「あーあー、こりゃ暫く2人っきりにした方がいいな。
よし、リディア!」

「……はぁ、仕方ありませんね。暫く席を外しましょうか」

「よし、んじゃあダグラス、これ以上泣かせるなよ!」

「えっちょ……!!」

 扉が閉まる音がして部屋の中が静かになった。リディアとアルバスさんが出て行ったようだ。

「ユキ様……」

 ダグが相変わらずおろおろと僕の涙を拭ってくる。まだまだ止まってないから意味はないけど。

 ……2人が部屋を出て行ったのってちゃんと伝えろってことだよね……


 もう一度告白……?

 それだけじゃだめだ。同じ流れになること間違いなしだよ。


 ……じゃあ僕一個しか思いつかないよ……!!


 うぅうぅぅ……ええい、男だろ! 幸仁!!



 腹を括ってがしりとダグの顔を両手で挟み、キッとダグの目を見据えた。

「ユキ、様……?」

 ダグが困惑した目で見てくる。

 ああ、ダグの目は本当に綺麗だなぁ……

 大好きな金色を見ていたら涙は自然と止まった。

 笑みすら浮かんでくる。



 今しか、ない────






























「ダグ、大好きだよ」




 そして目の前の唇へ自らのそれを落とした────
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