あの人と。

Haru.

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本編

64 そろそろ

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 ダグが時折部屋に泊まることが決定してから一週間ほど。その間にダグは4日間夜の警護が入っていない日があり、そのうちの2日、僕の部屋へ泊まった。

 ……僕の後ろを慣らすのもやってますよ。この前でダグの指が3本入るようになった。といってもいっぱいいっぱい、って感じだったけどね。
 ダグは少なくとも4本指が入らないと、って言ってたからダグを受け入れられる日はまだちょっと遠そう。

 でもその……毎回物凄くき、気持ちよくされるものだから怖さとかそういうのが全くなくなってきてて。ダグを受け入れることにも寧ろ期待というかその……早く受け入れられたらなぁ……なんて思ってしまっているから、慣れさえしたらそのまま最後までしてもらおうと思ってる。


 そんなことを考えながらいたある日、お茶を飲んでいるとリディアに話しかけれた。

「ユキ様、そろそろお披露目の準備を進めてもよろしいでしょうか? それと同時進行でユキ様には魔法を習っていただきたく存じます」

 そう言われてこの世界に来てから既に1ヶ月以上を過ごしていることに気づいた。

 そうだなぁ、こっちの生活にはもう随分と慣れて精神的にも余裕が出てるし、そろそろお披露目の頃合いかもしれないね。

「うん、いいよ。魔法ももちろん習うよ。準備で僕がやることは何かな?」

「そうですね、披露口上を述べていただくことになりますので、そちらをお考えいただくことと、衣装合わせ、当日の動きの確認等となりますでしょうか」

 うん、だいたい予想通りかな? それくらいなら、まぁ頑張れそう。幸い記憶力はいい方だから口上もすぐ覚えれるし。考えるのが大変そうな気もするけど、ヴォイド爺にも相談しながら考えよう。

「わかった。他には何もない?」

「……実はお披露目の後に舞踏会を、という声が挙がっていまして……そちらにユキ様が承認を出されると、ユキ様にはダンスを覚えていただくことになります」

 ……舞踏会。馴染みがなさすぎてあまり想像つかないなぁ……煌びやかな衣装を着た令じょ……うはいないから、令息や紳士の方々が優雅にダンスを踊ったりお酒を楽しむ感じかな。

 ……ダンスとか運動神経皆無の僕に踊るとか無理な気しかしないぞ……

「……それは、どこまで話が進んでるの?」

「……あとはユキ様の承認だけ、というところです」

 計画なしに承認も何もないから多分これ、予算案も作成済みで招待客も決まってる感じかな……

「……それ断ったらどうなる?」

 僕としてはダンスで無様な姿を見せるなんてしたくないから是非ともお断りしたいのだけど。

「招待される方々は皆様高貴な身分でいらっしゃる方々ですので、お披露目を終えたのならば御目通りを、と後日に謁見を望まれる可能性が十分に考えられます。個別にお会いすることになると、ユキ様へ取り入ろうとされる方が多くなると思います。その分、舞踏会で済ませてしまえば表立って行動を起こせなくなり、面倒な輩は減るかと思いますよ」

 ……なるほど、この世界で神子の力ってかなりのものだろうしね。取り入ろうとする人もいるよねぇ……

「……舞踏会でも一人一人挨拶の時間とかはあるの?」

「ほぼ確実に設けられるかと。招待人数はかなりのものでしょうから、一人一人のお時間はかなり短くなると思われますが」

 ……すごく疲れそう。

「それでもすごく長くなりそうだね……僕体力もつかな……」

「お席に座ったままにいたしましょう。ユキ様の方が身分はお高いですし何も問題はございません」

「……舞踏会をやるのでもう決定?」

「では後日お一人お一人と個別にお会いし、取り入ろうとなさる方々をお相手になさいますか?」

 ……それも嫌だなぁ……僕もともとはただの高校生だからそんなやりとりは想像もつかないしキツイと思う。

「……第1に僕はダグ以外と、なんて考えられないからお見合い話とかは許さない。ダグとの関係に口出しするのも禁止。
第2に獣人に対する差別的な発言・行動をしないこと。これを見かけたら即刻退場。その人には2度と会わない。
最後に贈り物などを禁止。当日持ち込んだ贈り物はそのまま持ち帰ってもらい、それでも執拗に渡そうとしてきた方は即刻退場。お城勤めの人達に預けるのも禁止。
この条件をのんでくれるなら舞踏会を承認しようかな……」

 取り入るって言ったら政略結婚と贈り物が思い浮かんだ。

 騎士と護衛対象ってことで僕とダグの関係に対して批判の声が上がりかけたのは知ってる。今はそうでもないけど、舞踏会に来る貴族達には何かしら言われる可能性があるからね。僕としてはそっとしておいてほしいんだけど。

 贈り物もね、受け取ったのだから融通を利かせてなんて言われたりしたらかなわない。そもそも僕って国政には関与してないからね。そんな事態になっても困るだけです。

 それから獣人に対しての不当な扱いは絶対に許せない。
 ラギアスね、最近になってようやく警戒を解いてくれたんだ。ピアノを弾く時にリクエストはないか聞いたらおずおずと答えてくれて。弾いたら嬉しそうに笑ってくれるんだ。それ以外でも表情が前より柔らかくなって。その変化がもうほんとすっごい嬉しくて。
 でもそれと同時に、それ程人間に警戒しているのはそれだけのことを人間にされたんだって思えて悲しかった。
 いつか獣人達が人間を警戒しなくてもいい世の中になって欲しいなぁ……

「そうですね、その条件は妥当なところでしょう。ではそのように通達しておきます。ユキ様にはダンスも覚えていただかねばなりませんね。もちろん舞踏会のパートナーはダグラスにいたしますのでご安心ください」

 ……そうだ、ダンスの問題があった。

 パートナーがダグなのは素直に嬉しい。だってつまりはおそらく恋人として一緒に居られるから。

「……踊らないとだめ?」

「舞踏会では最低一曲は踊るのがマナーとなっております」

 つまりは踊るのは強制だと。

「運動神経皆無なんだけど……ダンスなんて踊れないよ……」

 何もないところで転ぶ僕がダンスなんて無理だよ。

「ダグラスと一曲踊った後は疲れたとでも仰って座っているだけでよろしいですから。一曲だけは覚えてください。最悪ダグラスの足を踏んでしまっても大丈夫です」

「……頑張るよ……」

 ダグは辺境伯子息だからダンスも完璧なんだろうな……ダグに恥はかかせたくないから死ぬ気で覚えよう。

「では明日から午後に魔法とダンスの授業を開始しても構いませんか? 体調面を考慮いたしまして、初めは1時間程度ずつといたしますので」

「大丈夫だけど、そんな早く教師の方に来てもらえるの?」

「ああ、魔法もダンスも私とダグラスでお教えいたしますので他に教師を呼ぶ必要ないのですよ」

「えっ2人が?!」

「ええ。これでも私もダグラスも魔法は大得意なのですよ? ユキ様も慣れ親しんだ者の方が気を使わずよろしいでしょうし。
ダンスに関しましてもダグラスはユキ様のリード役として参加。私はユキ様へフォローをお教えいたします」

 リディアもダグも有能すぎない……? 人に教えれるだけの技術を持ってるってことでしょ? 魔法はまだしもダンスも教えれるとは……
 いや、うん、確かに僕も知らない人よりリディアやダグに教えてもらえると気が楽だし嬉しいんだけどもね。なんだか有能すぎて逆に怖くなって来るよ。

「2人とも凄いね……」

「お褒めいただき光栄にございます」

 魔法はどうなるか全くわからないけどダンスはボロボロになるのが目に見えてわかる。ボロボロでも見捨てないでくれるように心の中で祈っておいた。
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