あの人と。

Haru.

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本編

123 紙とデザイン

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 午後は予定通りレイのところでお手伝いして、現在夜。夜ご飯も食べ終え、お風呂も入り終わり、あとはゆっくりしてから寝るだけ。

「ユキ様、紙のサンプルはこちらに置いておきますね。それからお飲み物はこちらに。ご自由にお飲みくださいね」

「うん、ありがとう」

 リディアを見送ってからパラパラと紙を見てみる。かなり種類が豊富な上、招待状用なだけあって少し分厚めの紙だから紙のサンプルが山を築いている。

「かなり種類あるんだね……ダグはどれがいい?」

 横で同じようにいくつか紙をとって眺めていたダグに聞いてみる。

「デザインにもよるぞ。例えばそうだな……こういった細工のある紙だとあまりゴテゴテしたデザインには向かない」

 そう言ってダグが差し出したのは透かしの入った綺麗な紙。確かにこれだとそのままシンプルに使わないと透かしが台無しになるね。

「なるほど……なら先にデザイン決めた方がいいかな?」

「そうだな」

 それなら、とサンプルは一度置き、計算用紙とかに使っている白い紙とペンを取ってきてだいたいの目安の枠を書いてみる。

「そのペン、ユキが使っているのを見るとやはり嬉しいな」

「使わないわけないでしょ? 僕の一番大事で一番お気に入りのペンだもん」

 ダグがくれた綺麗なガラスペン。何かの拍子に割れてしまわないかいつもハラハラしながら使ってる。もし割れたら泣く。泣き叫ぶ。それくらい大事なのです!

「そうか……喜んでもらえてよかったよ」

「んっ……リディア禁止令は?」

 ちゅってキスされた。

「……キスくらいならいいだろう?」

 それもそうか。性行為、ってことはえっちが禁止されたのであってキスは違うよね!

「じゃあもう一回……」

「何度でも」

 今度は深いキスを。日本で観た洋画の中で、カップルがしていた情熱的なキスではなくて、ゆったりとした優しいキス。

「んぅ…………っは、ぅ……ん……」

 気持ちいい……相変わらず響く水音は恥ずかしいけれど、それ以上にダグとのキスは心地いい。

 ゆっくりと唇が離れていくと、つ、と銀色の糸が2人の唇の間に走る。

「満足か?」

 僕の目尻を指の背で撫でながらふ、と笑ったダグはたまらなくかっこいいけれど。

「……もう、少し」

 まだ、足りない。

「奇遇だな。俺も、足りない」

「んっ……」


 それから暫くじっくりとキスをし、力の抜けた僕はくたりとダグにもたれかかる。

 まだ唇が痺れてる……あー……まって今頭撫でないで眠くなる……

「うー……」

「寝るか?」

 このまま寝たらそれはそれは心地いい眠りにつけるでしょうけども。

「だめ……招待状……」

「明日でもいいぞ?」

「やだ、考える……」

「なら一度水でも飲むか」

「ん……」

 リディアが置いていってくれた水差しからグラスに水を入れてもらい、ぐいっと飲む。
 あ、これ水は水でもレモン水だ……スッキリした。

「よし! 考えよう!!」

「復活早いな」

「レモン水のおかげです!」

「ん? ああ、これレモン水だったんだな。ちょうどよかったな」

「うん!」

 流石リディアだ! いいものを置いていってくれた! 

 ……ん? こうなること予想してたのかな。いやまさかそんな……でもあのリディアだからな……おそろしや。

「さて、どんなのがいいかなぁ」

「ユキのやりたいようにしていいぞ?」

「うーん……何か特別感は出したい、けども……」

 せっかくだから平凡な招待状は作りたくないなぁ。結婚式の招待状を作るのなんてこれっきりだからとびきり特別なものにしたい。

「ふむ……特別感、か。ならばこういうのはどうだ?」

 ダグは新しい紙を出して横長の枠を書いたかと思うと、そこにさらに縦に三本の線を加えて四つに区切った。

「それぞれが違うデザインだが描かれている絵が全て繋がる、もしくは同じ場所の風景だが季節それぞれの景色を描くなんてどうだ?」

「! ランダムに出したら楽しそう!」

 それぞれみんなが持ってる招待状が違うって楽しいかも。

「どうせなら僕の故郷の季節にしようかなぁ?」

 日本って四季折々の風景がすっごく綺麗だよね。

「いいんじゃないか? ユキの故郷の絵となれば心にも残りやすいだろうしな」

「でも僕が上手く描けるか、だよね」

「一度描いてみたらいい。無理そうなら他の案を出したらいいさ」

「そうだね、そうする!」

「一度ここに下書きしてみたらどうだ?」

 ダグが枠を作った紙に描いてみるよう言われ、とりあえず左側に木を描いてみる。春は桜。夏は青々とした葉っぱ。秋は紅葉。冬は葉の落ちた木に雪を。
 これの手前にそれぞれの季節の花を加えて……

 できた! ちゃんと色もつけたよ。サラッと描いたからしっかりとではないけども。でも拙いなぁ……これを出すのは気がひける。

「ユキは絵も上手いんだな。いいと思うぞ」

「えー、拙いよ……招待状で出すのはちょっと……ダグ、絵描けない?」

「これをもとにか? 描けないこともないが……俺が描いていいのか?」

「うん!」

「ふむ……この木は花なんだな? こっちは……」

 ところどころ説明しつつダグが描いてくれたのは……

「すごい! 綺麗!! 日本の風景そのままだよ!!」

 ものすごく綺麗な絵を短時間で描いてくれた。色は簡単にだけど、しっかり描かれていてすごく綺麗。

 絵も上手いなんて僕の婚約者万能すぎません?! ダグは家でやらされたからっていうけれど、上手いだけじゃなくて味があって……もうもう、かっこよすぎるよダグ!!

「そうか? それならよかった。これにするなら紙を決めてまた描き直そう」

「これにする!! あ、でもダグ大変じゃない? 大丈夫?」

 僕は自由な時間が結構取れるけど、ダグはお仕事忙しいし……

「大丈夫だ。数日かかるかもしれないがな」

 それくらいなら全然許容範囲内だ。

「全然大丈夫! ありがとう!」

「なら先に紙を決めておこう」

「うん!」

 ダグが描いたデザイン画と見比べつつ紙を二人で選んでいく。とりあえず透かしが入ったものは除き、無地の紙ばかりを集めてみる。

「こっちは絵を描きにくそう……」

「こっちは良さそうだぞ」

「ほんとだ。あ、こっちもいいかも?」

「ふむ……」

 二人であれやこれやと見比べるけど、なかなか決まらない。これは滲みそうだ、こっちは柔らかすぎてペンが引っかかりそうだなどと話しながら次々に弾いていくけれど、元々の数が多いからなかなか決めきれないのだ。ピンとくるものがないっていうのもある。

「うーん、難しいね……」

「そうだな……」

 パラパラとめくっていると一枚の紙の質感がなんだか覚えのある質感に感じた。

「ん? ……半紙?」

「はんし?」

「僕の故郷の紙、かな? それに手触りが似てる……」

 つるりとした滑らかな感触の感じが似てる。でも厚みは全く似てない。半紙って言ったらかなり薄いはずだけれど、これは厚口のスケッチブックの紙くらいの厚さだ。

「どれ……ふむ、これならおそらく描けるぞ」

「ほんと?」

 半紙って墨のイメージしかないから絵の具って使えるのかなぁって思ったけど、これは似てるだけで半紙ってわけじゃないしいけるのかな?

「ああ。多分大丈夫だろう。これにするか」

「うん!」

 ようやく紙が決まった……! あとは文章、か。

「中身どうしよー……」

「また明日にしよう。もう遅いからな」

「ほんとだ……寝よっかぁ」

 思っていたよりも随分と時間が経っていたようだ。もう寝ないと明日が辛くなってしまう。
 散らかしてしまった紙をある程度片付け、デザイン画と使う紙は別にして置いておく。

「ふぁ……眠い」

「早く寝よう。おいで」

「ん……」

 だんだんうとうとしてきた僕をダグは抱き上げ、そのままベッドに連れて行ってくれた。ベッドに着いた頃には僕はもう半分夢の中。

「おやすみ、ユキ」

「おやすみぃ……」

 唇に柔らかい感触がした気がしたけれど、その正体に気付く間も無く僕の意識は落ちて行った。
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