あの人と。

Haru.

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After Story

side.リディア

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 さて、お土産をあの人へ持っていきましょう。ユキ様から託されたものもございますし、私からのものはあくまでもついでです。もう夜も遅くなってまいりましたし、両陛下や殿下方へのものは明日の方がよろしいでしょう。あの人のところだけ行きましょう。

 目的地までの道を歩きつつ、先程ユキ様に言われたことを思い返します。

 煮え切らないようならこちらから襲う、ですか……その言葉がユキ様の口から出たことには驚きましたが、たしかにその手もありです。まぁ、今夜はそんなことはしませんが、あの人が忙しくもなく、煮え切る様子もなければ実行に移しましょう。ダグラスから弱点も聞いたことですし。










 さて、着いたようです。今は色々と忙しいでしょうが、少しでも話せる時間があるといいのですが……まぁ、会ってみないことにはその辺はわかりませんね。グダグダ考えずに扉をノックしましょう。










「誰だ?」

「私です。失礼しますよ、────アルバス」

「おう、入れや」

 そう、私が好きなのはヴィルヘルム王国騎士団騎士団長、アルバスです。不本意ながら。我ながらなぜこんな熊のようなガサツな男を好きになったのかよくわかりませんが、まぁ、好きになってしまったのです。不本意ながら。

 勧められたソファへ座ると、コトリとグラスを置かれました。……お酒じゃないですか。まぁあまりお酒に強くない私用なのかどうなのか弱いお酒なので別に構いませんが、明日も仕事なのですが。いや、この人にとっては次の日が仕事だからとか関係ないですよね。

「んで、どうしたよ?」

「ユキ様からのお土産をお持ちしました。食品類だけ先にお渡しすることになったのです」

「なるほどな。ん、ありがとよ。ユキにも礼を言っといてくれ」

「ええ」

 ユキ様を呼び捨てていることに思うところがないわけでもありませんが、ユキ様はそれをお望みのようですし私からは何も言いません。

「今はどのような状況なのです? やはり色々と忙しいので?」

「まぁ、そうだな。警備の見直しだとか班を再編成したりだとか色々とやることはあるな。といっても休む暇もないほど、ってなこともないしゆっくりしていけや」

「では、お言葉に甘えて」

 そこでやっと私はお酒に口をつけました。お酒を飲むとなれば少し長くお邪魔することになりますから少しばかり遠慮していたのですが、本人が言うのですから遠慮なくゆっくりしましょう。

「最近はユキとダグラスはどうだ?」

「どうもこうも、甘すぎますよ。さすが新婚と言いますか……結婚以前より既に甘かったのに、さらに拍車がかかってどうしようもありませんよ。ユキ様なんてダグラスが少し離れるだけで不安なご様子でダグラスが買い与えたクマのぬいぐるみを抱きしめていらっしゃいますし……」

「ははは! まぁ、予想通りじゃないか! あいつらのことだからずっと新婚状態を楽しむんだろ?」

「そのようですよ。ユキ様というか神子様は子供を作ることが不可能のようですし、お互いだけの人生を楽しむそうです」

「なるほどなぁ」

 神官である私も神子様が子を作ることが出来ないと言うことは知りませんでしたしアルバスも知らないはずですが、おそらくなぜそうなのかは察したのでしょう。仮にも騎士団長ですから頭が悪いわけでもありませんし。

 ユキ様のお子様をいつか抱かせていただくのを夢見ていたのですが、子を設けること自体が出来ないのならば仕方ありませんね。神が直接そのことを口にしたなど記録に残っていませんし、初めてのことではないでしょうか? だからこそ、私を含めた神官でさえ知らなかったのですし。
 ユキ様は今までの神子様の中でもダントツで神にも愛されているのかもしれません。まぁ、ユキ様ですから。あのようにお優しく、健気な方などユキ様以外にいらっしゃいませんよ。ユキ様が1番なのは当然です。


「明日なんて、ユキ様がダグラスに手料理を振る舞うとかで、ユキ様は何を作ろうかそわそわと考えていらっしゃいましたよ。そんなユキ様をダグラスは甘ったるい視線で見つめ……ふふ、ユキ様がケーキまで作ることを知らないあいつは明日どのような反応を見せるのでしょう」

「ケーキっつうと……遅めの誕生日か?」

「ええ、そうです。何もプレゼント出来なかったことを気に病んでいらしたのでせめてケーキを、とお思いになったそうですよ」

「なぁるほどなぁ……ユキの手作りなんざあいつにとって1番のプレゼントだろうよ。くくっ、今までで食べたケーキの中で1番美味いとでも言うんだろうな」

 たしかに言うでしょうね。まぁ言わなかったら言わなかったでぶっ飛ばしたくなりますが。ユキ様が己の為に作ったものを1番と評さないなど許しません。

「お世辞じゃないぞ、とも言いそうですね」

「ぶはっ、ぜってぇ言うな! あいつはユキのことになったらわかりやすいからなぁ」

 たしかに。大体どんな反応するかなど想像に容易いですよね。見ていて胸焼けでは済まないほどの溺愛っぷりですからねぇ……恋愛小説にもないくらいの甘さはあまり見たくないのですが、ユキ様のお部屋にダグラスが常にいる現在、ユキ様のお世話役の私はどうしてもその場に居合わせてしまうのですよね……2人きりの時だけには出来ないのでしょうか。

 ……いや、もしかしたら抑えてあれなのかもしれませんね。なんだか昼間にユキ様の下着が洗濯物として出されていることも増えましたし……どこまで甘くなるおつもりなのでしょうね。




 なんてやり取りをした次の日。思った以上にユキ様の手際が良かったのには驚きましたが、ユキ様ですもんね。器用でいらっしゃいますし違和感はありませんでした。

 ユキ様が次々とお作りになっていくご様子に流石に多いのでは、と思いましたが敢えてそれは口にはせず、大体を作り終わったところでお分けいただけるように話をもっていくことに成功。見た目も香りも素晴らしかったので料理人達も興味津々だったことはユキ様はご存じないのでしょうね。

 ユキ様が温室へ着いた瞬間のお2人のご様子は一体何年ぶりの再会なのかと内心つっこみましたがまぁそれはいいです。調理器具の片付けが終わりましたしアルバスに自慢しに行きましょう。流石にあの人もお昼くらい休憩を取る時間があるでしょうし。ああ、料理人に少し料理を分けることを望まれましたが丁重にお断りさせていただきました。料理人は人数が多いですし、私の分がなくなるでしょう。絶対に嫌です。



「アルバス、お昼を一緒にどうです?」

「……お前が仕事の日に昼に誘うなんざ嫌な予感がするんだが……まぁいい、そろそろ昼にしようと思っていたんだ。行くか」

「ええ」

 アルバスの執務室へ寄ってから2人へ食堂へ向かい、視線が集まる中で食事を開始です。
 ……それとなく左手を私から見えないようにしているのに気付きましたが後にしましょう。

「お前は何にするんだ?」

「私は持ってきたものがありますので」

「そうか? なら俺は取ってくるわ」

「ええ」

 アルバスが山のような食事を持ってきて机に並べたのを見て私も魔法収納からユキ様のお手製料理を取り出すと、それを凝視するアルバス。どうやら気付いたようですね。

「お前……まさかそれは」

「いいでしょう? ユキ様がお作りになったお料理です」

「なっ……ずりぃぞお前! 分けろ!」

「嫌ですよ。あなたの食事量を考えて下さい。私の分がなくなるでしょう」

 アルバスってありえないくらい食べるんですよ。ユキ様はダグラスの食事量が多いと言いますが、この人はそれよりも多いのです。ざっとユキ様の6倍くらいでしょうか? まぁ熊のような見た目からは想像通りって感じですね。

「お前……その為に誘ったな」

「そうですが何か?」

「くっそ……お前はそういうやつだよ……」

「別にそれだけではありませんがね」

「ほかに何があんだ?」

 ……流石に少しいらつきました。本当に、なんで私はこんな奴を好きに……まったく我ながら趣味が悪いです。

「……一緒に食べたいと思うのは悪いことですか」

 好きな人と食事を共にしたいと思うことくらい普通でしょう。それも前日に休む暇がないわけじゃないと聞かされていたら少しくらいと思ってしまうでしょう。

「っ悪か、ねぇけどよ……」

「なんですその反応。素直に気持ち悪いです」

 微妙に照れて目元を赤らめた40手前の熊男なんて目に毒です。

「お前なぁ……ちっ、まぁいい、食べるぞ。せっかくの飯が冷めちまう」

「ええ、そうですね。せっかくのユキ様のお料理があなたとのやりとりで冷めてしまったら大変です」

「……」

 なんだか物言いた気な視線を感じますが無視です。さぁ、いただきましょう。


 ……! 本当に美味しいです! どれもこれも味わい深くそれでいて優しいお味がします。さすがユキ様です。これならばケーキも相当美味しかったのでしょうね……ダグラスが本当に羨ましい限りです。





「なぁ、一口くれよ」

「……しょうがないですね、一口だけですよ」

 ユキ様がカツとじ、と言っていたものを一切れフォークに刺して差し出せば一瞬躊躇った後にかぶりつかれました。……からかうつもりでやったのですがまさかそのまま食べられるとは。したり顔をされてちょっと負けた気分です。むかつきます。

「うめぇな! おい、そっちもくれよ」

「一口だけだと言ったでしょう、嫌です」

「いいじゃねぇか。くれよ」

 構わずに食べようと口元へ運んだフォークを持つ手を引っ張られた瞬間、さっきまで見えていなかった左手が見え────

「それ、つけて下さったんですね」

「っ……貰ったもんだからな、別に深い意味なんざねぇよ」

 一瞬しまったという顔をしたの、見えてますよ。

 アルバスの左手の薬指には細身の指輪。シンプルながらあの港町特有の細工がされたそれは昨日私が贈ったもの。着けているのを隠していたということはこれの意味を少なからず知っていたということでしょうか。知っていて着けている、ということは……いえ、今は着けてくれただけで十分です。真意を問うのはやめておきます。

「……こちらも食べますか?」

「……もらう」

 少々機嫌が良くなった私は結局全てのお料理を一口ずつアルバスに分けたのでした。
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