彼女のわがまま

篠宮華

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2.彼女は絆される

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 私の手首を掴んだまますたすたと歩いていく友介の後を、転びそうになりながらついていく。
 何か尋ねてもちゃんとした返事が返ってこないからわからないけれど、このルートだと、おそらく大学からほど近い彼の一人暮らしの部屋を目指しているのだろう。
 いつもは隣をゆっくり歩いてくれる彼の、いつもと違う様子がちょっと心配だ。
 しかし、案の定、5分後には彼のアパートに到着する。
 
「ゆ、友介…?」
「入って」

 その有無を言わさない雰囲気に固まったまま動けなくなっていると、背中をとんと押される。玄関に入ると、後ろ手に鍵がしめられた。
 背後から、私の耳元に顔を寄せて彼が言う。

「俺と別れて、さっき言ってたゼミの先輩と付き合うってこと?」
「…え?」
「詩乃がそんな女の子だと思ってなかったけど」
「ち、ちが…っ」
「でも、そんなこと俺が了承すると思う?」

 その言葉の直後、肩を掴まれ、くるりと体を返されて正面で向き合う体勢になる。薄暗い玄関で目が合う。小さく溜め息をつかれたと思ったら、急にがばっとお姫様抱っこの要領で抱き上げられて、小さく悲鳴を上げた。

「く、靴まだ脱いでない…っ」
「靴なんかどうでもいい」

 自分はスニーカーを脱いだのに、私の靴については本当に何とも思っていないような様子で、部屋の奥に進んでいく。
 何度も訪れたワンルームに足を踏み入れる直前で、履いていたパンプスが落ちて床に転がる。部屋に入ると、肩から下げていたバッグも落ちて、中からスマホやポーチが散らばった。
 ベッドにぽいっと投げ落とされてすぐ、彼が覆いかぶさってくる。のしかかるように押し倒されて、額を合わせられた。睫毛が触れそうな距離にドキドキしていると、彼は淡々と話し始める。

「授業とかゼミとかいろいろ接点あるだろうし、詩乃は可愛いからアプローチかけられるのもよくわかるけど、それで俺と別れて向こうと付き合うってなるのは違うよね?」
「先輩と付き合うなんて言ってない…っ」
「でも、むこうは気があるんでしょ?」
「そんなわけ…、んむ…っ」
 
 私の反論を聞く気など毛頭ない、むしゃぶりつくようなキス。
 それはあまりにも深くて、うまく息ができない。歯列をなぞるようにぬるぬると、彼の舌が私の口の中を蹂躙していくのを感じる。
——こんな乱暴なキス、今までされたことない。
 首を振ってその唇から逃れようとしたのに、顎を抑えられて、それはより一層深くなった。唾液が口の端から溢れそうになる。
 すると、いつの間にか服の裾から大きな手が入り込んできた。お腹をするすると撫でていたその手は、私が着ていたニットの裾を掴んでぐいっとたくし上げる。

「あ…」
「さて、どうしよっか?これから」
「…どういうこと?」
「その先輩にきっぱり諦めてもらうための作戦立てないとね」

 「脱いじゃおっか」と、ニットから頭を抜かれたのに、腕は頭の上で再び押さえつけられた状態。中途半端に服が絡まって、まるで自分の服で自分の腕を拘束して、ばんざいをしているようになってしまっている。
 そのまま背中に回したもう片方の手で、慣れたようにブラジャーのホックを外す彼は、何が楽しいのかくすくす笑いながら、私の胸元に唇を寄せた。
 胸の先を舌で刺激されたかと思ったら、今度はぱくりと口に含まれ、転がすように舐めしゃぶられる。もう片方もくりくりと指先で捏ねるように摘まれた。
 彼と付き合うまでそういう経験のなかった私の体は、彼と付き合いだしたこの半年で見事に作り変えられていて、そんな刺激に、これ以上ないほど従順に準備を始めるのがわかる。
 両腕を押さえつけられているせいで、うまく快感を逃がすことが出来ず、あっという間に濡れてきた足の間を擦り合わせ、身を捩った。

「…俺にこんなに簡単に流されちゃうのに、別れる気あるの?」
「…それは、友介が…っ」
「そうだった、俺がそうしたんだよね」

 仕方ないねと言いたげに、彼は私の膝に手をかける。履いていたタイトスカートをお腹の部分まで上げられ、今度は足を大きく広げさせられる。その後すぐにショーツのクロッチの横から指が入ってきた。

「ひあぁっ…」
「…何これ、ぐしょぐしょなんだけど」

 からかうようにそう言いながら、私の体から溢れたもので濡れた自分の指を見せつけてくる。その嗜虐的な様子は、まるで別人のようで。
 いつも甘やかすように優しく優しく抱いてくれていたのは、敢えてそうしていたのだと知る。
 ちょっと怖い。でも。
——信じられないくらい、気持ちいい。

「詩乃は別れたい男に触られてこんなに簡単に濡れちゃうの?」
「んっ、やだっそこ…だめっ…!」
「何がダメなの?もっと奥がいいってこと?」
「ちが…っ!」
「ここ?それともこっち?」
「んぁあっ!あっ、も、やぁん…!」

 下の突起を指先でぐりぐり押し潰すように触られたかと思ったら、浅いところで抜き差しされ、今度は手首を返すように内壁をぐちゅぐちゅとかき混ぜられる。
 わかっているくせに私の弱いところをわざと避けて、掠めるように指の腹で擦るそのやり方に、もっともっととお腹の奥から粘液が溢れてくる。
 それなのに、達してしまいそうになると、その愛撫はストップしてしまう。体の奥で何かが燻り続けていて、もどかしさに涙が出てくる。すると彼はそんな私を愛おしそうに見つめて、「たまんないな」とうっとりするから。

「ねぇ、お願い、これ脱がせて…」

 懇願するように言うと、口の端だけを上げて「じゃあ約束して」と微笑まれる。

「そんな簡単に、別れるなんて冗談言っちゃダメ」

 一応、冗談のつもりではなかったのだけど、彼の目が笑っていないことに気付き、とりあえずこくこくと何度も頷くと、「それから…」と続けられる。

「詩乃のこんな姿、俺以外に見せたら許さない」

 真顔で言い放たれたその言葉を聞いて、私はさっきから自分の心にうっすらと浮かんでいる歪んだ感情に気付く。
——執着されている。
 「別れたくない」と言われるよりも、「大好き」と言われるよりも、その響きは甘美でくらくらするものだった。

「見せない……見せないから…っ」
「…だから?」
「だから、奥まで、突いて…っ」
「…いいよ」

 すると、なんということはないように、両腕にひっかかっていたニットが脱がされた。
 自由に動かせるようになった手を伸ばすと、ぎゅっと強く抱き締められる。でもその後に耳に流し込まれた「まだ作戦会議は終わってないけどね?」という言葉にぎくりとする。

「どうしようかなあ。どうやったって服で隠れないところにいろんな痕つけまくってみる?」

 自分も着ていたシャツを脱ぎ捨てながらそう言うが早いか、二の腕の内側にぢゅっと吸い付かれた。ちょっと痛くて眉間に皺を寄せると、今度は肩を甘噛みされる。

「んー…歯型はあんまり好きじゃないからやめとこ」

 独り言のように言いながら体をずらした彼は、私の太腿の内側をつーっと舐める。
 ウエストでぐしゃぐしゃになっていたスカートを脱がされ、その流れでショーツも取り去られ、足を大きく広げさせられる。
 早く欲しくて仕方ないのに、彼はそこに顔を寄せて、花芯に舌を這わせた。

「ぁあんっ!」

 舌先でそこを刺激されて、腰がびくびくと痙攣しそうになるのに、太腿を押さえつけられていて、またも快感を逃すことが出来ない。足の間にある彼の頭に手を伸ばすと、花芯を舐めながら「まだダメ」と言われて、その声で私は達してしまった。
 全身から汗が吹き出し、ぐったりする私を見て、彼は口を拭いながら笑う。

「…え、今のでイったの?」
「だって、そんなところで喋られたら…」

 その時だった。
 床に転がった私のスマホがメッセージの受信を知らせる。一件だったら流してしまうところだったが、何件も連続して送られてきたので、嫌でも目についてしまった。
 しかし、画面に表示されていたのは、できれば今一番話題にしたくない相手の名前。

『さっきはごめんねー』
『佐藤先輩から資料預かっといたよ』
『今度渡すね』
『平井さんに会いたがってたよー!』
『でもそういやさっきのあれ、彼氏?』

 少し離れたところに落ちているそのスマホ画面の文字は、見ようと思わなければ見えない。でも、案の定目の前の彼には見えてしまった…と、思う。「ふぅん…」と思案顔で私のことを見下ろす。
 しかしそれから「挿れるね」とにっこり笑って、私の腰を自分の方へずりずりと引き寄せる。

「…怒ってる?」
「なんで?詩乃が別れるとか悪趣味なこと言ったから?」
「う、うん…?」
「怒ってないよ、大好きだよ。これからもずっと一緒にいようね」
「ふぅ…んんっ」

 なんだか微妙に噛み合わない会話を打ち切るように、ねっとりとしたキスをされ、硬く大きくなった彼のものが私の中にずぶずぶと入ってきた。
 待ち望んだそれに、全身が満たされ、それまでの違和感などどうでもよくなってしまう。
 その抽送はすぐに激しくなり、時々ぐりぐりと奥に欲望を押し付けられる。耳朶をべろっと舐められ、鎖骨や胸の柔らかいところにキスマークを次々と散らされていく。

「ははっ、これ以上痕付けたら着られる服なくなっちゃうね」
「んっ…や、やだぁ…」
「でも、痕付ける度に中が締まってるよ」
「そ、そんなことない…っ」

 顎をそっと掴まれて、「素直じゃないんだから」と触れるだけのキスをされる。繋がったまま、背中に回った手に抱き起こされ、今度は彼に跨るような体勢になる。

「んっ…これ、ふか、い…」

 下からがつがつと突き上げられて、また押し寄せてきた快感に背中が反った。耐えきれず寄りかかった私の体を、潰れるくらい強く抱き締めながら、彼は囁く。

「もっと我儘言って?詩乃に束縛されたいの、俺」
「ん、ぁ…そ、んな…の…っ」
「他の誰かが言うなら適当に流すけど、詩乃からのお願いなら全部聞いちゃう。ね、何かリクエストしてよ」

 激しい行為とは裏腹に、甘ったるい声が耳の奥に流し込まれて、洗脳されているような気すらしてくる。

「もっと、ぎゅって、して…」
「もちろん。あとは?」
「や…」
「ん?」
「やきもち、妬いても、引かないで…っ」

 すると友介は「やきもち妬いてくれるの、俺はめちゃくちゃ嬉しいんだけど」と笑って、私を抱き締めたまま腰の動きを速めた。

「俺といることで詩乃が自分のこと嫌いになってくなら、その分俺がもっともっと詩乃のこと愛してくから」
「んっ、あ、やぁっ、もう、イっ…ちゃうぅぅ…!」
「…覚悟しといてね」

 彼の肩に額をこすりつけるように何度も頷くと、指を絡められた。
 食われてしまいそうなキスに嬌声を飲み込まれて、私はこれ以上ないほど満ち足りた気持ちで彼にしがみついた。




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