2 / 8
彼と彼女の痴話喧嘩
②終わってません
しおりを挟む
いや、何終わってんの。
あんな適当な別れ話で「はいそうですか」となるような生半可な気持ちじゃないんだ こっちは。
しかも「いつまでもラブラブでいたいんで」って。それ別れ話じゃなくない?
* * *
突然、彼女から別れを告げられた。
理由も特に教えてもらえないまま、あまりにも一方的に言われて、納得出来るわけがない。
話をしようにも、徹底的に避けられていて会うことができないし、メッセージを送っても既読スルーされている。時々校内で見かけて、捕まえようとするも見事にまかれてしまう。なんでこんなとこで妙にすばしっこいんだよ。まあ…そんなところも可愛いと思ってしまうあたり、もうどうしようもないのだけど。
彼女…直井綾音と出会ったのは、柔道部顧問の山田に用があって練習場を訪れた時だった。
入口で中をちらちらと伺いながら、誰かを探している様子の女子がいたから声を掛けた。それが彼女だ。
「誰か呼ぶ?」
柔道部には知り合いが多いし、仲のいい聡もいる。
急に話し掛けられて驚いたのか、若干戸惑った様子の彼女がこちらを見上げた。
大きな瞳が印象的だったことを未だによく覚えている。長い睫毛に小さな鼻。柔らかそうな髪が肩でふわりと揺れていた。自分の考える「可愛らしい」の要素を詰め込んだような姿に一瞬見惚れてしまう。めちゃくちゃタイプだなぁとまじまじ見つめてから、いかんいかんと頭を振った。
一方彼女の方は見ず知らずの上級生に頼んでいいものか悩んでいるのだろうか。少ししてから、小さな声で返事が返ってきた。
「あの…兄に渡す物があって…」
見ると、弁当だろうか。手には巾着袋を下げている。
「呼んであげるよ。名前は?」
「えっと…直井です。直井聡」
「え?君、聡の妹なの!?」
聡に妹がいることは知っている。でもまさかこんな感じだとは思ってもみなかった。
なぜなら聡は、めちゃくちゃガタイがよくて、なかなか凶暴な見た目をしているから。(それと同じくらい超優しくていいやつなんだけど)
それにしても…まじか。
こんな可愛い妹がいるなんて知らされてないんですけど…。
「可愛いね」
「え、あ、ありがとうございます…?」
そんな立ち話もそこそこに「おーい、聡!妹ー!」と呼ぶと、聡は妹の存在に気付くなり、どたどたと駆け寄り、溶けそうな表情で微笑むではないか。
「綾音!すまなかった。わざわざ届けてくれてありがとう!!これで放課後の練習にも集中できる」
「うん、今日のお弁当は自信作だから食べてほしくて。頑張ってね」
高校生にもなって兄が妹の頭を撫でながらにこにこしている。まるで、熊のような大男が小動物を愛でるような。
友人の溺愛っぷりに少々面食らいながら、「じゃあね」と、山田のところに向かう。
それにしても手作り弁当とか最高じゃん。あの子が作ったってことでしょ。うわー…いいなあ。
だからまさか、その日の夜に「うちの妹がお前の連絡先を知りたがっているんだが」なんてメッセージが送られてくるとは思っていなかった。
「妹が自分から誰かと友達になりたいと言い出すのは小学一年生以来だ。相手が立花なら、俺もいいと判断した」らしい。
それから付き合い出すまでに時間はかからなかった。
始めは大人しくて流されやすいタイプかと思っていたけれど、話してみると意外としっかりしていた。慣れてくれば表情豊かでよく笑うし。そしてやっぱり、彼女はどんぴしゃで自分のタイプだった。
正直、もう全部可愛い。膝に乗せて、頬を撫でて、こめかみにキスをして、くすぐったがらせたい。後ろから抱き締めて、髪の匂いを体いっぱいに吸い込んで、指を絡めて、二度寝したい。手を繋いで、いつまででも…。
そんなことを毎日考えているうちに、ふと気付いた。
これはもう、生涯を共にする覚悟をもつ必要がある。
向こうから告白してきてくれたから、次は俺の番だろう。
その為には、それなりの準備をしないと。
ということで、とりあえず、二人で末永くやっていくために必要な諸々の資金について調べた。大学入学と同時に同棲をしたいところだが、彼女は一つ下の学年だから、そうもいかないだろう。ただ、ゆくゆくはお互いに実家を出る、となったらやっぱりどうにかして貯蓄を…と考えて、バイトのシフトを少し増やした。短期バイトと掛け持ちすることもあった。
さすがにちょっと疲れてしまって、彼女からの連絡に応えそびれたこともあったけれど、次の日に「おはよう」のスタンプは欠かさずに送るようにした。
そして漸く、いろいろなことが見えてきたところで言い渡された別れ。
納得なんて…出来るわけないだろ。
あんな適当な別れ話で「はいそうですか」となるような生半可な気持ちじゃないんだ こっちは。
しかも「いつまでもラブラブでいたいんで」って。それ別れ話じゃなくない?
* * *
突然、彼女から別れを告げられた。
理由も特に教えてもらえないまま、あまりにも一方的に言われて、納得出来るわけがない。
話をしようにも、徹底的に避けられていて会うことができないし、メッセージを送っても既読スルーされている。時々校内で見かけて、捕まえようとするも見事にまかれてしまう。なんでこんなとこで妙にすばしっこいんだよ。まあ…そんなところも可愛いと思ってしまうあたり、もうどうしようもないのだけど。
彼女…直井綾音と出会ったのは、柔道部顧問の山田に用があって練習場を訪れた時だった。
入口で中をちらちらと伺いながら、誰かを探している様子の女子がいたから声を掛けた。それが彼女だ。
「誰か呼ぶ?」
柔道部には知り合いが多いし、仲のいい聡もいる。
急に話し掛けられて驚いたのか、若干戸惑った様子の彼女がこちらを見上げた。
大きな瞳が印象的だったことを未だによく覚えている。長い睫毛に小さな鼻。柔らかそうな髪が肩でふわりと揺れていた。自分の考える「可愛らしい」の要素を詰め込んだような姿に一瞬見惚れてしまう。めちゃくちゃタイプだなぁとまじまじ見つめてから、いかんいかんと頭を振った。
一方彼女の方は見ず知らずの上級生に頼んでいいものか悩んでいるのだろうか。少ししてから、小さな声で返事が返ってきた。
「あの…兄に渡す物があって…」
見ると、弁当だろうか。手には巾着袋を下げている。
「呼んであげるよ。名前は?」
「えっと…直井です。直井聡」
「え?君、聡の妹なの!?」
聡に妹がいることは知っている。でもまさかこんな感じだとは思ってもみなかった。
なぜなら聡は、めちゃくちゃガタイがよくて、なかなか凶暴な見た目をしているから。(それと同じくらい超優しくていいやつなんだけど)
それにしても…まじか。
こんな可愛い妹がいるなんて知らされてないんですけど…。
「可愛いね」
「え、あ、ありがとうございます…?」
そんな立ち話もそこそこに「おーい、聡!妹ー!」と呼ぶと、聡は妹の存在に気付くなり、どたどたと駆け寄り、溶けそうな表情で微笑むではないか。
「綾音!すまなかった。わざわざ届けてくれてありがとう!!これで放課後の練習にも集中できる」
「うん、今日のお弁当は自信作だから食べてほしくて。頑張ってね」
高校生にもなって兄が妹の頭を撫でながらにこにこしている。まるで、熊のような大男が小動物を愛でるような。
友人の溺愛っぷりに少々面食らいながら、「じゃあね」と、山田のところに向かう。
それにしても手作り弁当とか最高じゃん。あの子が作ったってことでしょ。うわー…いいなあ。
だからまさか、その日の夜に「うちの妹がお前の連絡先を知りたがっているんだが」なんてメッセージが送られてくるとは思っていなかった。
「妹が自分から誰かと友達になりたいと言い出すのは小学一年生以来だ。相手が立花なら、俺もいいと判断した」らしい。
それから付き合い出すまでに時間はかからなかった。
始めは大人しくて流されやすいタイプかと思っていたけれど、話してみると意外としっかりしていた。慣れてくれば表情豊かでよく笑うし。そしてやっぱり、彼女はどんぴしゃで自分のタイプだった。
正直、もう全部可愛い。膝に乗せて、頬を撫でて、こめかみにキスをして、くすぐったがらせたい。後ろから抱き締めて、髪の匂いを体いっぱいに吸い込んで、指を絡めて、二度寝したい。手を繋いで、いつまででも…。
そんなことを毎日考えているうちに、ふと気付いた。
これはもう、生涯を共にする覚悟をもつ必要がある。
向こうから告白してきてくれたから、次は俺の番だろう。
その為には、それなりの準備をしないと。
ということで、とりあえず、二人で末永くやっていくために必要な諸々の資金について調べた。大学入学と同時に同棲をしたいところだが、彼女は一つ下の学年だから、そうもいかないだろう。ただ、ゆくゆくはお互いに実家を出る、となったらやっぱりどうにかして貯蓄を…と考えて、バイトのシフトを少し増やした。短期バイトと掛け持ちすることもあった。
さすがにちょっと疲れてしまって、彼女からの連絡に応えそびれたこともあったけれど、次の日に「おはよう」のスタンプは欠かさずに送るようにした。
そして漸く、いろいろなことが見えてきたところで言い渡された別れ。
納得なんて…出来るわけないだろ。
10
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる