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玖号
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しおりを挟む「なぜ、我だけ……っ」
そっと前髪を掻き上げた右手が、その下にあるまぶたを強く押さえつける。手の平に感じるはずの眼球の形は、そこにはない。
「…………」
左目を閉じ、両方のまぶたを開く。紫色の瞳は、1つだけだった。ユラには元から、右目がない。空っぽなのだ。
故に彼の弱点は、右側が死角になるということ。致命的な弱点。
感情を殺した優秀な忍者でも、この右目と向き合うときは1人の男になってしまう。どうして自分には両目がそろっていないのか?卵の中に落としてしまったのか?
やり場のないいら立ちが、ユラの心の中を駆け巡る。右目を押さえる手に力が加わり、爪がまぶたに食い込む。
グッ、ググッ、グリッ…………痛みを感じないのか、一筋の血が流れても表情が変わらない。左目は紫色の闇を孕み、耳は己が吐き出す呪詛しか聞こえない。
他の月子達、兄や姉達は皆五体満足かつ両目も両耳もそろって生まれてきたというのに。自分だけが欠けている。
のちに生まれてくるであろう弟や妹が、兄や姉達のように何の欠損もなく生まれてきたら?
欠損、大きな弱点のある自分は戦場で足を引っ張ってしまう。生まれ持った特殊能力や忍者では、まかないきれない。
逆に腕や足がない状態で生まれてきたら?ユラはまず、だったら仲間だと思った。欠損がある者同士、自分だけではないと思えばホッとする。
直後、そう思った自分にゾッとした。弟や妹の不幸を願ったのだ。右目を押さえる指に、さらに力が入る。
手足の欠損は義手や義足でまかなえるかもしれない。仕込み武器にすれば、戦闘で大いに役立てられる。
悔しい。弟や妹が生まれた時に欠損があってもなくても自分が、みじめになるだけだと。
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