moon child

那月

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参号

20P

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「そこのベッドに寝かせて。確かにカァ子は研究が大好きだけど、弱り切っている君達を元気にするのも僕の役目。ちゃんと処置はするから、腕を出して」


 医療室に着き鍵のかかった戸棚から点滴のパックを取り出すと、カラスは慣れた手つきで素早く点滴チューブをセット。


 肩に乗っている小カラスにパックを咥えさせれば小カラスが枕元にあるポールのてっぺんに留まる。


 そしてカラスはゴムで縛ったミレイナの腕に点滴針を差し、ゴムを外して針が抜けないようにテープで固定する。しょっちゅうハクトに行っているので慣れたものだ。


「レンマ、そこにある――あれ、いない?あぁそうか、コレで逃げたな。大口叩いておいてこんなものに逃げ出すとは、やっぱり馬鹿な子供だな」


 両手がふさがっているので戸棚にある体温計を取ってもらおうと顔を上げたカラスだが、レンマの姿がない。


 静かなはずだ。せっかく約束通り黙っていたので少しだけ褒めてやろうとしていたのに、まさか注射針を見て逃げ出すなど。


 カラスは作業に集中していて気づかなかったようだが、針を出した瞬間「ひぃっ!」と悲鳴を上げて猛ダッシュしていた。漫画みたいに足をグルグル渦巻にしながら。


 ミレイナが大事で心配でも、怖いものは怖い。彼は注射が大嫌いなのだ。何年経っても、採血や点滴のたびにギャーギャー喚くお子様だ。


 しかも刺す直前に暴れる。それもレンマは怪力だから、サクマ他含め5人がかりで押さえつけないと針を刺すことができない。


 対するミレイナは見えないのに注射は平気らしい。落ち着いている。やがて睡眠薬が混じった薬が効いてきたのか、静かな寝息が聞こえてきた。


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