150 / 256
壱号
9P
しおりを挟むそのままマイク部分をトントン、リズミカルに不規則に叩く。少し叩いてスマホを耳に当て相手の様子をうかがうと、また離してトントン叩く。
「何をしているんだい……?そうか、モールス信号か!って、相手は戦闘部副部長じゃないか」
ミレイナはミレイナのやり方で必死に、助けを呼ぼうとしていたのだ。震える手で何度も軽くスマホを叩き、戦闘部を呼ぼうとしていた。チユニがそうしないから。
見えないから、手探りで。聴覚と嗅覚を研ぎ澄まして。話せないから、耳で聞いて言葉を学んで、モールス信号を習って伝える術にした。
生まれて間もなくても、障害があっても、生きている。兄や姉達に必死に追いつこうとしていた。月子の1人として、母親であるチユニを必死で守ろうとしている。
「ごめんミレイナ、あとは私がやるよ。ありがとう」
呆然としていたチユニはミレイナの手からスマホを取り、耳に当てて状況を説明する。緊急事態だ、と。
やがて通話が終わりスマホをポケットに戻すと、優しくミレイナを抱きしめ頭を撫でる。何度も「ありがとう」と囁く。
ミレイナは、苦しそうな息を吐いて泣いた。本当は声をあげて泣きたいのだろう。今も我慢して戦っている他の月子達の代わりに、泣き叫びたい。
その想いを受け入れ、ミレイナが泣き止むまで抱きしめたままサクマの遺体に目を向ける。
ヒロキあたりがやったのだろう。サクマの飛ばされた首が元の場所に帰ってきている。軍人だった彼が月子と出会うことでやっと、普通の人間らしくなってきていたのに。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる