moon child

那月

文字の大きさ
上 下
255 / 256
涙のあと

9P

しおりを挟む

 部屋に入ることは何度もあった、でもちゃんと見たことはなかった。ちゃんと、それぞれらしい生活がそこにはあった。


 その1つ1つに触れて、感じて、チユニは心を震わせた。こんなにも人間のように個性を持って、しっかりちゃんと生きた証を残してくれたんだと。


 彼らが生きた証は、確かにこの世界にある。場所に、人々の心に、動物達の心に、ちゃんと刻まれている。


「ねぇお月様。あなたが本当にmoon childを生み出したのかどうかはまだ分からないけれど、死なせてしまってすみません。でも私は感謝しています。彼らとの素晴らしい思い出をありがとうございます」


 目を開いたチユニは両手を地面の上に乗せ、撫でる。いまだに解明されていない謎、月が月子を産んだのか?


 答えはもうどうでもいい。ただ彼女は感謝を述べたかった。謝りたかった。彼らの育ての親として、仲間として、友として。


「ねぇ、お月様。もしも……もしも、私のわがままを聞いていただけるなら、1つだけ……」


 そこで、口を引き結んだ。月面を撫でる手に力がこもる。弱いチユニの心がその言葉を吐き出そうとした瞬間、背後で「チユニはもう強くなったんだよね?」と声が聞こえた気がした。


「いえ、何でもないです。大丈夫、私はもう大丈夫。ありがとう」


 声にハッと我に返ったチユニは顔を上げ、何かを振り払うように首を横に振った。


しおりを挟む

処理中です...