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アイデンティティ
6P
しおりを挟むなんて笑っているが、女になりきらなくて良かったな。10年前の約束通りに事が進んでいたらきっと俺は、お前をそばに置いていた。
けどな、長続きしねぇんだ。オレが本当に好きなマリアンではないから。
「ノル、ちょっと来て?」
今度は何だ?30センチ近く掘ったからな、軍手をはめた両手が土まみれで真っ黒だ。軽く叩いて、手招きするマリアンの元へ。
椅子に座って、せっせと穴を掘る俺を見るだけの女王様気分か?喉が渇いたとか言うんじゃないだろうな。
嫌な予感しかしない。「どうした?」と少しかがんでやると、急にマリアンが手を伸ばして俺の背中に手を回す。
「今のオレを選んでくれてありがとう。なんか、色々考えてたらジーンときちゃって。幸せ過ぎて泣けてきちゃった」
おいこら、椅子ごと押し倒すぞ。マリアンは俺の顔を引き寄せるとチュッと頬にキスして、笑いながらにじんだ涙を拭った。
こいつ、俺を煽って自分で自分を追い込んでいるって自覚がねぇのか?なら、俺は無自覚の煽りに負けねぇようにもっと耐性をつけないといけねぇのか。
無茶を言うな!幸せいっぱいでたまらないと泣き笑うマリアンの口に食らいついてやった。
両手が使えないからな。濃密なキスで貪り食って、満足した俺は「ばーか」と一言だけ言って元の穴掘り作業へ。
ギャーギャー何か叫んでいるが、聞こえねぇな。きっと俺達は、これからもこんな感じで幸せにやっていくんだろう。
喧嘩をしても。日本刀と銃を持って向き合うくらいの大喧嘩をしても、最終的には仲直りして笑い合うんだ。って、武器を持つほどの大喧嘩なんて何が理由だよ。
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