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ハーメルンのホラ吹き
7P
しおりを挟む女の顔が見る見るうちに青くなっていき「うっ」とえづいちゃってるわ。ガタガタ震えて、ギュッと目を閉じる。
「名前はミチカ、31歳。このビルの持ち主で社長。あー……ある日突然、酒呑童子と茨木童子を引き連れた男がこのビルを乗っ取りに来た。で、酒呑童子に一目惚れしてあっさり引き渡した、と」
「なっなにそれーっ!?ごめん、続けて。その男も鬼なわけ?」
「うーん、かなり髪が長いけど男だっていうこと以外わからないなぁ。顔には黒地に金の装飾のキツネ面が付けられているし」
「ふふっ、残念ね。あのお方がどんなお方なのかは、あちきも知らないわぁ。酒天様達が何をしようとしているのかも、ねぇ」
ミチカさんは本当に単純に一目惚れして、相手が鬼でも一生添い遂げるって誓ったんだって。酒呑童子のためなら何でもする、命さえ差し出せるほどの覚悟がちゃんとある。
酒呑童子の手を取った時から、あたし達と敵対する覚悟ができていた。あたし達の手に落ちてもなお、彼女の瞳は力を失っていない。諦めていない。
酒呑童子のことが好きだから。ただそれだけの理由で、ここまで強くなれるの?本当に?
「信頼されていないようだね。今外に出ている酒吞童子と茨木童子の行き先も知らないなんて。謎の男も、ここにはいないみたいだ」
「いいように利用されてるだけでしょ。可哀想だけど、あなたの身柄は本部で拘束させてもらうわ」
鬼の拠点としてビルを明け渡し、鬼達のために尽くしてきたミチカさん。彼女が得たものは、酒呑童子のそばにいたという思い出だけ。
彼らの目的も行動もわからないなんて、仲間だと思われていない証拠よ。今だって酒吞童子と離れて留守番を任されているし。
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