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気配
10P
しおりを挟む両手で服の裾を押さえて顔を真っ赤にさせている小娘は、口をパクパクさせてみたり視線をあっちへこっちへ泳がしてみたり。しばらくの葛藤のうち、うつむいて俺の横に座った。
なおもモジモジするので容赦なく捲り上げ、小娘の手に裾を握らせて血を拭っていく。
触れるたびにビクビクと体を震わせるあたり、ここが敏感なんだな。だからといってどうこうなるものでもない。無心で手を動かし、きっちりテープで止めて出来上がり。
正直、この傷でよく悲鳴を上げなかったものだ。これが普通の人間ならば絶叫ののち気を失っていてもおかしくはないんだがな。
小娘は普通ではない。強すぎるのだ、心が。ここまで異常に強いと、思いがけない小さなきっかけでもろく崩れてしまう。
そうならぬために俺がいるんじゃないのか?この子がゆいいつ頼れる者として、俺がいる。小娘自身が選んだんじゃないか。ならば、遠慮なく頼れ。
どうせ、俺が口では「面倒くさい」とは言っていても、本当は頼ってほしいと思っていることに気付いているんだろう?
早く本音を言わないと、もう時間がないぞ。溜め息がこぼれる。
回れ右をさせて「着替えてこい」と、部屋に走らせた。代わりにキツネが戻ってきたのか、玄関で小娘の「きゃっ!?」という驚きと恐怖の入り混じった悲鳴が聞こえた。
「ただいま……」
小娘が走っていく足音とは真逆に、キツネは足音もなくヌッと姿を現した。まとっている雰囲気が、いつものキツネのものではない。
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