惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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不和歌麿呂

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 それにしても、肝が据わったやつだ。レイルと戦った後の血みどろの俺達、ましてや鬼の姿の俺を見ても手を伸ばしてきたのだからな。


 しかも、そのことで俺達に命を狙われていると考えていても逃げなかった。現実を受け入れていた。


 殺しはしないが、記憶を消されるという覚悟をして俺達を待っていた。まるで、死を覚悟した小娘のように。


 嫌なものだな。こう何度も何度も、1人の人間に振り回されるとは。袖触れ合うも他生の縁とは言うが、歌磨呂の場合、多少ではなく本当に“他生”なのだからな。


 歌磨呂は俺をジッと見つめ、俺が口を開くのを待っている。覚悟を、決めなければ。真実を訪ねる覚悟を。


 紫色の瞳が俺の、情けない顔を映し出している。一切の穢れのない、純真無垢の瞳。あぁ、どうしていつもの俺じゃないんだ。いつもならスパッと張り紙を突き出して問いただせるのに。


 張り紙を歌磨呂の鼻先に突き付けて「お前はなぜこの男を探している?」と問えるのに。今の俺にはそれができない。


 だが、俺が聞く以外に方法はない。俺がやらなければ。当たり前だ。できれば2人きりになりたい。和比呂には知られたくない事実だ。反面、1人だと何を言い出すからわからぬ、ツッコミ役は必要だ。


 俺は手に握っている張り紙を広げ大きく息を吸い込む。一瞬息を止め、ゆっくり息を吐ききる。シュッと息を吸い込み、歌磨呂を見据えた。


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