惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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永遠の鬼ごっこ

8P

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「昔に『千年を過ぎたら1発ブン殴るから』って言っただろう?千年、長すぎる。待ちくたびれた」


「痛ってーなーもう。地獄で罪を償っていたんだ、って言ったら信じてくれるか?ハハハッ、悪かったな。そんなむくれるなよ?」


 今の酒呑童子を殴るのはちょっとだけ、気が引けた。なにせあの歌磨呂の顔。綺麗な顔を腫らすなんて。いや、でもこいつは酒吞童子だ。


 手加減したとはいえ渾身の1発だからな、そりゃあ痛いだろう。殴られた頬をさすっていた手を伸ばし、酒呑童子は俺の頭を優しく撫でた。


 あぁ、この感じ。他の誰に頭を撫でられるのとも違う、体は違っても酒呑童子の手の平の感じ。懐かしい、嬉しくてつい、顔がほころぶ。


 大きくなっただけではなく、筋肉が程よくついて引き締まった体に、顔を隠すように抱き着いてみた。それも勢いよく。


 本物だ。酒呑童子がここにいる、触れている。確かに感じる彼の魂。酒吞童子がここにいると示す感覚全てに喜んで、嬉しすぎてもう泣きそう。おちょくられるから泣かないがな。


「おふっ。よしよし、お前は犬みたいだな」


「俺は鬼だ。お前も鬼だ」


「またそんなことを言う。ハハハッ、あんたは昔から変わらねぇなぁ。変わらなさ過ぎて、安心したぜ」


 笑っても、次の瞬間には柔らかく優しい声に俺は目を閉じた。俺も、安心した。あんたが全然変わってないから。


 抱きしめる腕に力を込めて息を吸い込めば、酒呑童子も抱きしめ返してくれる。俺の匂いを吸い込み「懐かしい匂いだ」と首元をクンクン。


「寂しい思いをさせて悪かったな。これからは、ずっと一緒にいよう、時久」


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