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影
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しおりを挟む「捕まえた?へぇ、小紅ちゃんすごい、ね…………あれ、鳶さん?」
聞こえてきた男のうめき声に嬉しそうに振り返る桜鬼だったが、男に馬乗りになっているのが小紅ではなく鳶だということに目を丸くした。
「あっ、舌を噛んで自害なんて許されませんよ!大人しくしててください」
小紅ではなかったとはいえ、曲者を捕まえることができたと喜ぶのもつかの間。曲者はキッと周りを睨み付けると歯を食いしばった。
この者は忍。捕まって拷問を受けて情報を吐かされまいと、捕まればすぐに舌を噛み切って死を選ぶようしつけられている。
それに気づいた小紅がすかさず、男の頬をパァンッ!と一切の躊躇なく引っ叩いた。思わず桜鬼が自分の頬を押さえるほどに、それはもう見事な音だ。
「新選組、監察方……山崎丞だな……」
鳶のように鼻まで布で覆っていても鳶と桜鬼には男の正体がすぐにわかった。新選組の一員だが裏方で主に隊士の監視や情報収集を担当する影の者。
監察方の山崎は実はどこぞの忍の出、きわめて真面目かつなかなかの美青年で土方に1番信頼されていると最近噂になっている。
嘘と真がごちゃ混ぜだ。出身はわからないが忍であることは確か。美青年だというのも、まぁ、事実。
だがあとは嘘だ。山崎丞18歳。かなりの不真面目でやる気がなくいつもダルそうにしている。最低限の仕事は難なくこなす確かな腕の持ち主だが、性格に難があるためいつも土方に雷を食らっている。
それも日常茶飯事なので反省することはなく、仕事以外は好きなように過ごしている。趣味は昼寝だとか。
「和鷹に指示を仰ぐ。さるぐつわ。桜鬼は、俺と。小紅さんは…………頭領」
鳶と目が合った桜鬼が手拭いをねじって山崎の口に噛ませ、立ち上がると鳶も山崎を引き立たせる。
やけに大人しいのが気になるが、猛犬よろしく「うぅぅぅ」と低い唸り声を上げる山崎はチラチラと周りに目を向けている。
何かを探しているのか?鋭い視線が小紅に向けられると、ピタリと止まった。ジッと見つめて、しかしすぐに別のものへと視線が移る。
「大丈夫だよ、小紅ちゃん。こいつはこう見えて賢いから。どこかの誰かさんとは違ってやみくもに暴れたりしないさ」
高遠のことか。あれはキレると吠えるか噛みつくか暴れるしかしない。しかし山崎は自分の置かれている状況を正しく認識し判断する賢さがある。
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