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影
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しおりを挟む隙あらば逃げる、できなければ自害する。その好機を探っている。無論、そんな隙など与えるつもりもないが。
鳶と桜鬼に連れられ、山崎は屋敷の奥へと消えていった。周りを見渡し、もう1度小紅をキッと睨んでいたのが気になるが。
とにかく小紅は鳶に言われた通り、報告のため黒鷹の部屋へと向かった。彼はどんな判断を下すのだろうか?
腕の立つ忍である山崎からここに来た目的など情報をしゃべらせるのは困難。いっそのこと殺すか、人質として新選組局長である近藤勇をおびき出すか。
そういえば、鳶はなんとも良い時に現れたものだ。まるで小紅の行動をずっと監視していたようにも思えるが。おおよそ、自発的に見回りをしていた時に見つけた偶然の産物だろう。なにせ、鳶の趣味は忍者だ。
屋敷の中には一応、捕まえた曲者などを閉じ込めておく牢のような部屋がある。
普通の6畳の部屋の真ん中が太い鉄骨の柵で仕切られており、その奥に曲者を入れる。片方の手足を壁に繋ぐための頑丈な鎖もある。
ひとまずはそこに入れるだろうが、小紅は部屋の前で立ち止まった。聞き耳を立てても寝息が聞こえない。
「や、夜分遅くに大変失礼いたします。緊急事態です」
横になったまま目を覚ましているのか、起きているのか。そもそも、ここにはいないのか。勇気を出して声をかけてみるとすぐ、障子が開いた。
「誰が来た?」
「新選組の監察方、山崎丞です。鳶さんが捕らえ、桜鬼さんと一緒に和鷹様の元に向かいました」
「そうか、じゃあ僕達は…………任せておこう。いいんだよ。彼の目的は何となくわかっているし、和鷹もわかっているだろうから適切な判断を下すさ」
黒鷹は起きていた。真剣な目で離れた場所にある和鷹の部屋の方角を見つめたかと思いきや、フッと微笑を浮かべて布団へと戻る。
おそらくは屋敷の修復具合を見に来たのだろうと、黒鷹は言った。前の、新選組の襲撃は激しく屋敷がかなり壊された。それから数日が経ち様子を見に来たのだ。
鷹の翼の7人でどれだけ修復できるのか、調べるために。次の、のちの襲撃に向けての作戦を練るために。
しかしそれは黒鷹の勘に過ぎない。もしかすると違う目的で来たのかもしれない。もちろんその可能性が決して低くないことをわかっている黒鷹はそれでも、振り返って優しい笑みを浮かべる。
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