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三上黒鴇
15P
しおりを挟む白鴇の本心。兄離れできない、子供のままの弟の心。口に出したことによって現実を受け入れて、熱い涙があふれる。
このままではいけない。この手を離さなければ。どう足掻いたって時は進んでしまうのだから、前に進まなければならない。
背中を押すのは兄である黒鴇の務め。いいや、黒鴇だけじゃない。白鴇のそばにいる沙雪も家臣達も、白鴇を信頼しているから支えてくれている。
「白鴇……僕も、会えて嬉しかったよ。一目見てすぐ、すごく成長したんだってわかったもん。僕だって離れたくないさ。でも――」
「わかってる。わかってるから、兄さん。僕は僕を、僕の暮らしを大事にする。新しい世界を沙雪ちゃんと、子供と一緒に作っていく。あぁ…………さようなら、弱虫で臆病な僕」
白鴇は過去の、幼い子供の頃の自分に別れを告げた。過去を否定するわけではない。過去を受け入れ、そして今から進むべき現実を受け入れる。
辛く苦しくても、たまらなくなって立ち止まりうずくまっても、必ずまた前を向いて歩き出す。
たまには振り返ったっていい。白鴇には白鴇を想ってくれる沙雪が、子供が、家臣や新しい人達がいるのだから。
「本当に、強くなったね。ありがとう」
「うん、兄さんは強すぎ。ふふっ……ありがとう、僕はもう大丈夫。これね、昔知り合ったお兄さんに教えてもらったおまじないなんだ。お面を付けてたからわからなかったけど」
黒鴇の体が震えた。そのおまじないは黒鴇も、そして小紅もよく知っている。
その人はとてもお節介なくらいの世話焼きで、生きるのに困窮していたり理不尽な生き方を強いられている子供を助けていた正義の男。
自分が白鴇から黒鴇を奪ってしまったから。せめてもの罪滅ぼしのために、何らかの接触を図ったのか。
白鴇にとって殺したいくらい憎い人なのに。面をつけていたからというだけで気づかなかった。気づけないくらい、良い時間を過ごしたのだろう。顔を見ればわかる。
「とても良い言葉だね。コホッ……コホッ、ゴホッゴホッ!じゃあ、僕達はもう行くよ。ちゃんと怪我が治るまで安静にね。じゃあまたね、白鴇」
白鴇は手を離し、小紅に肩を借りて背を向ける黒鴇を見上げる。あぁ、大きな背中だ。
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