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最初の酒は甘かった
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しおりを挟むこんな時、桜樹なら。彼ならこの戦いを楽しんで全力で鉤爪を振るっているだろう、暴力的に。今までの馴れ合いが全て嘘だったんだぞと、嘘を吐いて。声高らかに笑いながら、悲しみの涙を流しながら。
大体、自分だけ2人も相手にするなんておかしいでしょ。不意にそんなことを思った。
新選組の隊長達と戦うことはよくあった。それまで人数は新選組は近藤が出てくることはほとんどなかったから、土方を筆頭に7人。鷹の翼が黒鷹を筆頭に7人と同じ。
けれど今は新選組側に近藤が参戦し、鷹の翼は小紅が増えたとはいえ1人足りない。そう、和鷹が欠けてしまったから。
だからって、なぜ俺なんだ!?そりゃあ原田と永倉さんとは付き合いもあるけど!と、こんな時にイラだち始める桜鬼。
原田も二日酔いが治ってきているし、2人は最初から覚悟を決めて桜鬼の息の根を止めるつもりでかかってきている。
頭領である黒鷹は3人のつながりを知ったうえで。そして実は桜鬼がかなりの手練れだと知っているから、あえて託した。
桜樹と統合してから桜鬼はさらに成長した。あぁ、桜樹を頭数に入れれば人数がちょうどいい。
新選組側も、土方は原田と永倉がよく桜鬼と酒を飲んでいるのは黙認していたので。そして、実は原田から言い出したのだ。桜鬼と戦うのは自分だと。
この戦いをいまだに嫌だと、背を向けて怯えているのは桜鬼だけだ。あぁ、自分に腹が立ってきた。こんなに情けないやつだったのかと。
イライラムカムカして、急にスッと吹っ切れた。桜鬼の赤い目に炎がともった瞬間だった。
「違うわよ、この筋肉あんぽんたん」
桜鬼の赤い瞳に桜樹の魂が宿ったその時、聞き慣れた女の声が聞こえて永倉が派手に転倒。とっさに桜鬼は驚いた原田の槍をかわして左腕を深く斬りつけながら振り返る。
永倉はひとりでに、それも後ろから足をすくわれたかのように綺麗に転んだ。だが、そこには何もない。
一体何が起こった?急な出来事に3人共が動きを止め、完全に不意を突かれて胸を打ち付けた永倉は呻きながら起き上がる。
「あぁよかった、このまま変わらなかったら見殺しにするところだったわねー。感謝なさいよ、桜鬼」
やれやれと溜め息を吐いて姿を現したのは、何やら手を振っている情報屋の千歳。
なるほど。桜鬼達3人には見えないからわからないだろうが、彼女が使役している狐モドキ数匹が永倉の手足に巻き付いている。さっき転倒させたのもそうだ。
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