【BL】オメガバース×ブルースフィア

秋藤てふてふ

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船からの脱出

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「!?」
「!?」
「はあああっ!?」

 カイトの宣言に、周囲の人間は、驚いて言葉を失っていた。
 
「突然、なにを……」

 言い出すんだと、アオがカイトに言おうとした瞬間、怒声がその沈黙を叩き潰した。

「ふざけるなぁ!」
 
 サトゥスバルの放った落雷の轟音のようなその声に、アオをはじめ、周りの人間は身を竦ませた。
 
「男を妻にするだと? 男同士で結婚するだと? ふざけるのも大概にしろ、このキチガイどもが……っ!」

「ううん。驚かせようと思って言ったのだが、ここまで怒るようなことを俺は言ったのだろうか?」
「僕が知るわけないでしょう!?」
 
 アオもサトゥスバルと同じく、カイトに驚かされた側なのだ。
 しかも、アオは本人の意思とは関係なく、カイトに妻にされると言われた。
 怒るのであれば、自分の方が怒って当然なのだ。
 ふざけたことをカイトが言ったのは分かるが、サトゥスバルがここまで怒る理由がアオには分からなかった。

「不快だ。不愉快だ。貴様ら、楽には死なせんぞ!」

 サトゥスバルの怒号に合わせて、アオとカイトを取り囲む男たちの数人が、カイトたちの死角を突くようにして刃を突き出し、あるいは振るう。
 カイトとコウセイも刃の柄を握りしめる。
 アオはコウセイに針を取り上げられているため、とにかく標的になる確率を少しでも下げようと、身を低くかがめた。
 
 その瞬間、耳をつんざくような炸裂音が空気を切り裂き、カイトに斬りかかろうとしていた男の一人の頭が後方へ倒れ込んだ。頭につられて体が振り子のように宙を舞って地面に落ちる。
 
「銃! まさか……!?」
「動くな、動けば、今度は、あんたの頭をぶち抜くわよ」

 凛とした声が辺りに響き渡る。
 灰色の煙が、風に揺れ散る赤髪の間をすり抜けていく。
 赤い髪の流れの元には、ゴーグルをつけていても分かる褐色の、堀の深い顔立ちの、凛々しい顔があった。
 豊な乳房のふくらみが無ければ、彼女の第一性が女性とは分からないだろう。

 彼女が着ているのは、カイトやコウセイが着ている服と同じもので、カイトたちの仲間であることが分かった。
 
 灰色の煙は、彼女が肩に担いでいる大きな金属製の筒と、彼女が口にくわえているタバコからたち昇っていて、ゴーグルのレンズの下の黄金の瞳が、冷たくサトゥスバルの姿を見据えていた。
 
「貴様、生きていたのか!?」

 忌々し気に唸り声を上げながら、サトゥスバルは顔を益々歪めて、赤髪の女を睨みつけた。

「あら、その表情、私の顔、忘れてなかったのね。驚いたわ。殺したと思っていた娘の顔なんて、忘れてしまったかと思っていたわ」

 サトゥスバルから殺意の込められた瞳に睨みつけられると、赤髪の女は、その顔に冷笑を浮かべてみせる。

「助かったよ。ダヴィッチ、ありがとう」

 カイトが赤髪の女に礼を言うと、ダヴィッチと呼ばれた彼女は視線をサトゥスバルに向けたまま、小さく頷いた。
 
「ええ、お礼は、後ろの皆にも言ってあげてね」
 
 ダヴィッチの後ろには、やはり魚の革で作られた服を来た人間が数人、彼女が担いでいるのと同じ、金属製の筒を構えて立っていた。
 
 皆、息をきらしているところを見るに、かなり走ってきたことが分かる。
 
「すまなかったな、お前の言っていた通りになってしまった」
「気にしないで、おかげで、その男をこの手で殺す機会が巡ってきたんだから……」

 ダヴィッチは言って、肩に担いでいる鉄筒よりも小さな大きさの銃を取り出し、サトゥスバルに向けた。
 すると、サトゥスバルはそれを見て、鼻を鳴らした。

「ふん、殺す? お前が私を? 馬鹿も休み休み言うのだな」
「私が、今更、父親だからって、あんたを殺すことをためらうと思うの?」
「それはない」
「……じゃあ、死ね!」

 ダヴィッチが銃の引き金を引き絞るのと、サトゥスバルが懐から取り出した針を放ったのは、ほぼ同時だった。
 引き金を振り絞ったのは、ダヴィッチが先だった。
 銃から発射された弾丸の速度なら、撃ちぬかれた相手が何かをする前に命を散らせることが出来る。
 しかし、それは、相手に銃弾が当たればの話で、当たらなければ、それは相手になんの影響も与えることができない。

 そして、銃弾を放った直後、空になった薬きょうが排出されようとする瞬間をサトゥスバルの放った鉄針が銃口ごと貫いた。
「!?」

 あの化け物!
 殻になった薬きょうを排出しなければ、新しい弾丸を装填することができず、引き金を引くことは勿論、弾丸を打ち出すこともできない。

 舌打ちしながら、ダヴィッチが新しい銃を取り出そうとしているときに、サトゥスバルは彼女の前まで迫っていた。

 腰に刷いていた刃を両手で構え、己の娘の首めがけて振りぬく。

「こちらこそ、感謝をしなければ、お前を生きたままにせず
にすんだのだからな!」

 ギィンと、重く、硬い金属がぶつかり合う音と、ともに、火花が散った。

 カイトの刃がサトゥスバルの刃を受け止めていた。
「邪魔をするなあっ!」
「断る! ダヴィッチ! 下がれ! アオを頼む!」
「うわっ!」
「くそ、分かった!」
 カイトに片手で担がれていたアオは、空中に放り投げられ、悲鳴を上げる。
 それをダヴィッチが空中で受け止めた。
 
「全員船へ向かうぞ! 構えたまま、下がれ! アオがサトゥスバルから離れた瞬間に、撃て!……今だ!」

 サトゥスバルの刃に己の刃ををぶつけ、押し合っていたカイトはコウセイの声に合わせ、地面に倒れ込むようにして伏せ込んだ。

 その頭の上をいくつもの弾丸が通り過ぎて行った。
 
「こざかしい!」
 
 カイトの動きに合わせて地面に腹ばいになったサトゥスバルは舌打ちをする。
 耳から入ってくる音で、何人の部下が倒れたのかを把握しながら、ほふく前進で仲間の元へ行くカイトを睨みつけていた。

「……いいだろう、今は見逃してやろう。しかし、必ず殺してやる……気色の悪い化け物共が!」

 こうして、アオとカイトたちはレブルの船を脱出したのである。


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