【完結】 余命少ない私と“命喰らい”のお医者様の幸せな契約結婚。

夏灯みかん

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【5章】新婚旅行

31.特別な力

「特別な力……?」

「それが、話したい事の2つめだ」

 朔弥さんは頷いた。

「僕の家系――継宮家が、特殊な家だというのは、伝えたと思うんだけど――僕には、家計に伝わる、特別な力がある。――人の寿命を、見て、それを吸い取ったり、与えたり、そういうことができる」

 私は目を見開いた。そんな魔法みたいなことが、できる人がいるなんて、思えなかったから。

「信じられないのも、無理はないと思うんだ。――実演をした方が早いよな」

 朔弥さんは呟くと、立ち上がって、茶の間に活けられた花瓶の花を持ってきて、そこに手を当てた。

 ――すると、朔弥さんの花に添えられた右手の甲に、何か、青い刻印の刺青のようなものが浮かび上がった。それは、幻想的に微かな光を放っている。

「……!」

 みるみるうちに、花がしおれて枯れていってしまった。
 ――そして、朔弥さんが一息吐くと、また手の甲が光り、花は元のように活き活きとした姿に戻った。

「今は、花の寿命――生命力というのかな、を吸い取って、戻したんだ」

 朔弥さんは私を見つめた。

「人間に使えば、その場で命を奪ってしまう。だから封印されている。――そして一度でも破れば、森崎さんたちに即座に伝わって、僕は“処分対象”になるらしい」

 朔弥さんは肩をすくめた。

「だからね、『処分』されないように、善良で有能な存在であろうと、頑張って、医者として働いているんだよ」

「今、その力を実演してくれたのは、大丈夫なんですか……?」

「うん。こんな生け花を枯らして戻すくらいなら、封印は解けないし、問題ないみたいだ」

 そう言ってから、朔弥さんは私を見つめた。

「この力は人には直接使えないけれど。僕は生命力を見る目を持っている。――だから、長期の仮死状態維持についての実験にも、成功したんだ。生命力が消えそうになれば、すぐに気づいて、対処ができるから。だから、手術は絶対に成功させる。――それは、信じて欲しい」

 私は朔弥さんを見つめた。
 情報量が多すぎて、頭が混乱する。
 ――けれど。

「朔弥さんは、成功してくれると、思っています。――それから」

 一番重要なことを、確認したかった。

「――朔弥さんは、私のことを、なんと思っているって、……言ってくれましたか?」

 朔弥さんは、停止して、驚いたように私を見つめた。

「……そこを、聞くんだね……」

「はい、一番大事なことですから」

「一番大事、か」

 私は大きく頷いた。
 朔弥さんは、息を吐くと、私を見つめた。

「凜さん――僕は、あなたのことが、好きです」

「どうしましょう……」

 私は頬を押さえた。顔が赤くなる。

「私たち、両想いじゃないですか?」

「……うん。そうだね」

「私は、心臓が止まりそうなほど嬉しいですよ」

 握った手をぶんぶんと振ると、朔弥さんは少し微笑んでから、聞いた。

「――手術を、受けてもらえますか?」

 私は硬直した。
 ――朔弥さんにとっては、それが、一番重要なことなのだろう。
 一見、冷たいようにも感じられるけれど、私が手術を受けるか、否か。
 ――自分の気持ちよりも、私のこと、私のこれからのことが、一番重要だと、そういうことなんだろう。
 朔弥さんは、自分のことをいつも脇に置いて、人のことを考えている。

 まだ、確認しないといけないことが、私にはある。

「朔弥さんが、30歳で死ぬ、とお話されていた件は?」

「――はい。僕はその年に死にます」

「……どうしてですか?」

「僕の寿命がそこまでだから……。自分の余命もわかるんだよ」

 朔弥さんは、自分の手を見つめた。

「――それは、あんまりじゃないですか。私のことを手術して、朔弥さんはそのまま死んでしまうんですか? そんなの、あんまりじゃないですか?」

 私がそう言うと、朔弥さんはうなだれてしまった。

「――決まっていることだから」

 私はあきらめずに、言葉を続けた。
 どうすれば、朔弥さんに私の気持ちが、言葉が届くだろうか。

「手術が成功したら、私は長生きできますか?」

「平均余命ほど長生き、とはいかないと思うけど……、数十年は、生きられると、思う」

「寿命というのは、治療などで、延びるものなのですね?」

「僕に見える寿命というのは、確定した物ではないんだ。病気なんかで短くなっていても、治療により伸びることもあるし、反対に、不摂生で短くなることもある。――それに、事故なんかの突発的な事象なんかを、予測できるものでもない」

「――でも、朔弥さんの寿命は30年で決まってるんですか?」

「もともと、その年数で――不摂生で縮むことはあっても、例えば、身体を鍛えたりしても、劇的に延びることはないからね……」

「けれど、朔弥さんは人の寿命を『自分のものにする』ことができる、んですよね」

「できると思う――けれど、する気はないんだ。僕は、力を使う気はない。誰かの命をもらうなんて」

 諦めずに、言葉を続ける。
 今、この瞬間の言葉を諦めてしまったら、朔弥さんはきっとこのまま、自分の決めたとおりの終わり方でいなくなってしまうだろうから。

「――私のその伸びた分の寿命を、朔弥さんももらってくれるなら、手術を受けます、と言ったら、どうお返事してくれますか?」

「な……」

 ――ようやく、私の顔を見てくれたわ。
私は、朔弥さんの手を握って、ようやく顔を見てくれたことが嬉しくて、笑った。

「全部はあげないですよ。――半分こです」

「半分こ……?」

 朔弥さんは驚いたように目を瞬いた。

「だって、私、まだ朔弥さんと行きたい場所も、やりたいことも、たくさんあるんですもの。――結婚生活をまだ、続けたいわ?」

 そう言って朔弥さんを見つめると、朔弥さんは頭を抱えて、悲しそうに呟いた。

「――それは、無理なんだ。僕の力は、寿命を『一度に全部』吸い取ることしかできない。半分だけなんて、そんな器用なことは……」

「本当に、できないんでしょうか?」

「え?」

 私は茶の間の生け花を手に取った。
 先ほど、朔弥さんが『力』を実演するのに使った花だ。

「だって、さっき、朔弥さんはこの花を枯らして、――戻しましたよね?」

「――そうだけど」

「枯れた花を、元に戻せたじゃないですか。全部じゃなくて、一部を戻すような……あの調整を、人に対してもできるのでは?」

「それは……さっきのは、吸い取ったあと、そのまますぐに戻したから、ちょっと話が違うんだよ」

「そうなんですか? そのあたり、調整できないものなんですか?」

「……調整って」

 朔弥さんは黙り込んでしまった。
 言ってみたものの、具体的な案は出なかった。
 ――しばらくの沈黙。
 いえ、でも、きっと頑張れば、なんとかなる方法は、あるはず。
 私は言葉をひねり出した。

「こう、修行……とかで?」

「修行……」

「ほら、克也の読んでた野球漫画の『嵐の星』、最近、朔弥さんも読んでるじゃないですか」

「うん。読んでるね。なかなか面白い作品だよ」

「あれ――あの、お父さんが息子――主人公に、すごい機械?を着させてるじゃないですか」

「『養成ギプス』だね。僕はあの描写はあまり好きではないけれど。――身体を痛めるだけだと思うから、あれを真似する人が出たら大変だ」

「それは置いておいて、イメージです。こう、頑張れば、うまく半分にできません?」

「……」

 朔弥さんは、口をぽかんと開けてしまった。
 私は朔弥さんの手を取った。
 この調子で押していこう。

「まだ、時間はありますし。私、手術を受けますから、それで寿命が延びたら、『半分こ』、してくれません?」

 しばらくの沈黙の後、朔弥さんは噴出した。

「……ははっ」

 それから、右手で顔を覆うと、呟いた。

「凜さんには、敵わないなあ……」

 ――少し、声が震えていた。

「それは、『OK』という……」

「意味ですか?」と聞こうとした瞬間、ばたばたと音がして、部屋のドアを大きな音で誰かがノックした。

「継宮様、すいません! 緊急のお電話が……! どうしても繋いでくれと、森崎様から、緊急のお電話です!」

 扉を開けると、血相を変えたフロントの方が部屋に駆け込んできた。
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