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【2】パーティーでの騒動
24.弟との散歩と語らい
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アーロンと私は黙々と館の横に広がる森を歩く。しばらくすると小川についた。
アーロンは、ふーっと息を吐くと、近くの木に腰かけた。
狼たちは、水場で水を飲み始める。アーロンの近くには白い狼が一頭身体を寄せていた。この前も彼の近くにいた狼だ。
「……」
私たちは無言だった。そもそも「カミラ」はあまりアーロンと会話をした記憶がない。
ここの暮らしが落ち着くまでは、従わない領主を襲ったり、逆に襲ってくる他の吸血鬼やハンターに応戦したり、血液を採取するために人を襲ったりと大変だったので、その度に戦力にならないアーロンにイライラして「役立たず」とか言ってた記憶がある。
いまさら、会話は難しい。
「姉さん」
彼は困ったように私を見た。
「ちょっと向こうに行っていてくれないかな」
白い狼に腕を回して、口を開けてこちらを見た。
牙が伸びている。
「ああ、ごめんなさい」
私は、彼がその白狼から吸血するのだと察した。吸血用の牙は出し入れ可能で、必要な時にだけ、生やせる。吸血行為は食事といえば食事なんだけど、性的興奮に近い快感を伴う行為でもあって、とてもプライベートな行為だ。だから、人にはあまり見せないでやる。
――といっても、食事寄りの吸血と、性行為に近い吸血があって、どうしても空腹で近くの動物を襲った時なんかは食事寄りに近くて、人に見られてもあまり気にならない。緊急性がある場合も多いし。
≪恋人≫との間の吸血は、後者に近くて、人に見られるのは嫌なんじゃないかしら。アーノルドは時々、コーデリアとアラン二人伴って部屋に消えていくことがあるから個人の趣味なんでしょうけども。
「カミラ」としては、動物からの吸血は、ほぼ緊急時の食事なので、誰かに見られて困るという感覚はないのだけど、アーロンにとっては違うようだ。
散歩について行っていい? と聞いた時の彼の困ったような表情を思い出して私は申し訳ない気持ちになる。散歩は彼の食事タイムでもあったのか。
私は足を霧状に変化させ、背中に翼の形で接着し、飛び上がった。
全部霧状にすると、服が置いてけぼりで全裸状態になるので、本体はそのまま維持する。
身体の使い方も大分調子を取り戻してきた。
飛んだのは、遠くに行きますよアピールのため。
アーロンの姿が見えないくらい、小川の上を水が流れる方へ下った。
しばらく川沿いで座っていると、後ろからバシャバシャという水音と、狼たちとアーロンが降りてきた。白い狼の首に、少し赤い血の跡がにじんでいた。
私の視線に気づいて、アーロンはその跡を慌てたように川の水で洗い流した。
「その白い子、名前は?」
「フェオ」
こちらを見ずにぶっきらぼうに答える様子は驚くほどエリオットにそっくりだった。
さすがに、血のつながりを感じる。
「雌ね。何歳?」
私の問いに、アーロンは赤面した。
「……何でついてきたの」
「この子たちと触れ合いたいと思って」
彼は私をきっとにらんだ。今まで気づかなかったけど、アーロンとエリオットって目がそっくりなのね。
「狼の血なんか飲んでて、情けないと思ってるんだろ」
「思ってないわよ」
アーロンはうつむいてしまう。
「……何でついてきたの」
「悪かったわよ。あなたがこのタイミングで吸血してるなんて知らなくて」
アーロンは黙りこくってしまう。私は近くに腰かけた。
白狼のフィオが彼を守るように間に入ってくる。撫でようとしたら牙を剥かれたので手を引っ込めた。
「……」
アーロンは膝をかかえてそっぽを向いてしまっている。
私は話題を選んだ。
「エリオットに、ルシアとそのお友達を紹介してもらったんだってね」
「まあね」
「どうだった?」
「別に、普通だよ」
「楽しかった?」
「別に」
「楽しくなかった?」
「別に」
……。何かしら、これ、久しぶりに二人きりになった父親と娘みたいな?
ヤラが私にまとわりついてきた。私はその灰色の背中をわしわしとなでた。狼とたわむれている間が一番癒される。いろいろ考えなくていいし。
「あなたがいつも、この子たちのお世話をしている気持ちがわかるわ……」
今の私たちの生活って、面倒よね、いろいろと。
吸血鬼になる時に人間の血を飲んだ以外は、人からの吸血を拒否している、ある意味「まとも」な人間の感覚に近いアーロンは、あの屋敷で相当ストレスを溜めていたんじゃないかしら。
ヤラの柔らかな毛をなでる。狼たちといると、何も考えなくていい。
アーロンは、ふーっと息を吐くと、近くの木に腰かけた。
狼たちは、水場で水を飲み始める。アーロンの近くには白い狼が一頭身体を寄せていた。この前も彼の近くにいた狼だ。
「……」
私たちは無言だった。そもそも「カミラ」はあまりアーロンと会話をした記憶がない。
ここの暮らしが落ち着くまでは、従わない領主を襲ったり、逆に襲ってくる他の吸血鬼やハンターに応戦したり、血液を採取するために人を襲ったりと大変だったので、その度に戦力にならないアーロンにイライラして「役立たず」とか言ってた記憶がある。
いまさら、会話は難しい。
「姉さん」
彼は困ったように私を見た。
「ちょっと向こうに行っていてくれないかな」
白い狼に腕を回して、口を開けてこちらを見た。
牙が伸びている。
「ああ、ごめんなさい」
私は、彼がその白狼から吸血するのだと察した。吸血用の牙は出し入れ可能で、必要な時にだけ、生やせる。吸血行為は食事といえば食事なんだけど、性的興奮に近い快感を伴う行為でもあって、とてもプライベートな行為だ。だから、人にはあまり見せないでやる。
――といっても、食事寄りの吸血と、性行為に近い吸血があって、どうしても空腹で近くの動物を襲った時なんかは食事寄りに近くて、人に見られてもあまり気にならない。緊急性がある場合も多いし。
≪恋人≫との間の吸血は、後者に近くて、人に見られるのは嫌なんじゃないかしら。アーノルドは時々、コーデリアとアラン二人伴って部屋に消えていくことがあるから個人の趣味なんでしょうけども。
「カミラ」としては、動物からの吸血は、ほぼ緊急時の食事なので、誰かに見られて困るという感覚はないのだけど、アーロンにとっては違うようだ。
散歩について行っていい? と聞いた時の彼の困ったような表情を思い出して私は申し訳ない気持ちになる。散歩は彼の食事タイムでもあったのか。
私は足を霧状に変化させ、背中に翼の形で接着し、飛び上がった。
全部霧状にすると、服が置いてけぼりで全裸状態になるので、本体はそのまま維持する。
身体の使い方も大分調子を取り戻してきた。
飛んだのは、遠くに行きますよアピールのため。
アーロンの姿が見えないくらい、小川の上を水が流れる方へ下った。
しばらく川沿いで座っていると、後ろからバシャバシャという水音と、狼たちとアーロンが降りてきた。白い狼の首に、少し赤い血の跡がにじんでいた。
私の視線に気づいて、アーロンはその跡を慌てたように川の水で洗い流した。
「その白い子、名前は?」
「フェオ」
こちらを見ずにぶっきらぼうに答える様子は驚くほどエリオットにそっくりだった。
さすがに、血のつながりを感じる。
「雌ね。何歳?」
私の問いに、アーロンは赤面した。
「……何でついてきたの」
「この子たちと触れ合いたいと思って」
彼は私をきっとにらんだ。今まで気づかなかったけど、アーロンとエリオットって目がそっくりなのね。
「狼の血なんか飲んでて、情けないと思ってるんだろ」
「思ってないわよ」
アーロンはうつむいてしまう。
「……何でついてきたの」
「悪かったわよ。あなたがこのタイミングで吸血してるなんて知らなくて」
アーロンは黙りこくってしまう。私は近くに腰かけた。
白狼のフィオが彼を守るように間に入ってくる。撫でようとしたら牙を剥かれたので手を引っ込めた。
「……」
アーロンは膝をかかえてそっぽを向いてしまっている。
私は話題を選んだ。
「エリオットに、ルシアとそのお友達を紹介してもらったんだってね」
「まあね」
「どうだった?」
「別に、普通だよ」
「楽しかった?」
「別に」
「楽しくなかった?」
「別に」
……。何かしら、これ、久しぶりに二人きりになった父親と娘みたいな?
ヤラが私にまとわりついてきた。私はその灰色の背中をわしわしとなでた。狼とたわむれている間が一番癒される。いろいろ考えなくていいし。
「あなたがいつも、この子たちのお世話をしている気持ちがわかるわ……」
今の私たちの生活って、面倒よね、いろいろと。
吸血鬼になる時に人間の血を飲んだ以外は、人からの吸血を拒否している、ある意味「まとも」な人間の感覚に近いアーロンは、あの屋敷で相当ストレスを溜めていたんじゃないかしら。
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