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17.魔法水晶による通信
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俺が小部屋の引き出しから見つけた腕飾りの水晶の鈍い光は、魔力を流すと微かに揺れた。――そして、“声”がした。
《――長期間、使用されなかったため、通信の確認を行います――》
抑揚のない声が、真っ暗な空間に響く。
《“秘密の質問”を選択し、回答をご登録ください。回答を通信相手が正解できた場合、使用制限を解除します》
「……なんだ、それは」
思わずつぶやいた。
これは、自動でこの水晶から音が出ているのか?
こんな魔法は、聞いたことがない。
「……古代の魔法技術は、すごいな……」
これを持って帰ったら、大発見だ。
――管理室の事務係から研究職に異動できるのは、確実だろう。
さきほどまで異空間に閉じ込められた恐怖でばくばくしていた心臓が、今度は高揚で鼓動を速めるのを感じた。
――けれど。
「問題は――ここから出られるか、だな」
水晶はなおも言葉を続ける。
《“秘密の質問”を下記から選択。回答を登録してください。
一、二人の思い出の場所は?
二、あなたの好きな花は?
三、次の誕生日に欲しいものは?
四、あなたの初めて飼育したペットの名前は?》
「……なんだ、それは……」
俺は暗闇で一人、唸った。
要は、この質問を選択し、回答を登録し――それをエドラヒルが正解できれば通信がつながる、ということだろう。
――つまり、二人の関係性を鍵にした認証機構、か。
「……正解、できるか……?」
エドラヒルと知り合ってまだ数日。たいした話もしていな……いや、していたな。
俺はあいつに、思い出話をしたことを思い出した。
幼い頃、まだ辺境民として暮らしていた時に、星鈴草の花畑で、風の精霊と対話できることに気づいた話。
誰にも言ったことのない、俺の魔法使いとしての原点。
……覚えているだろうか。
この質問以外は、エドラヒルが俺について答えられそうなものがない。
――これにするしかない。
「……二、あなたの好きな花は?」
《回答をお願いします》
「星鈴草、だ」
《登録いたしました》
俺は大きく息を吐いた。
――正解できなければ、仕方ない。それならそれで、別の方法を考えるしかない。
この隠し空間には入れたのだから、ここから出る方法もあるはずだ。
――そのとき、水晶の放つ光が強くなって、水晶玉の表面が揺らいだ。
『……おーい、オリヴァーよー……聞こえるか』
もはや聞きなれたやや尊大な声とともに、水晶の表面が波打ち、エドラヒルの拡大された顔が歪に浮かび上がった。
紫の瞳と鼻がやたらと大きく映っている。
拡大されても陶器のような造形なのが憎らしい気もするが、俺は大きく息を吐いた。
「……聞こえるよ……良かった……」
『驚いたぞ。水晶がな、急に話し出したんだ。お前の好きな花はなんだと聞いてきた』
「――正解したんだな。良かった……」
『お前の好きな花は星鈴草だ。私は人の好きな花は一度聞いたら忘れないぞ』
俺は笑った。
――そのあとで、ふと目元が潤んでいることに気がついた。
自分が思っている以上に、安心したようだ。
「――閉じ込められてしまった。俺が迂闊だった……申し訳ない」
『……気にするな。捕獲用の簡易の結界だろう。すぐに出られるはずだぞ』
「……どうやれば、出られる?」
『最初にこの隠し空間に入ったのと、同じ方法でやろう。――今から、私が外で植物を発芽させて、空間を揺らす。お前は、風で裂け目を探り、穴を開けろ。――通信ができているのだ。そこに綻びがあるはずだ』
「――わかった。頼むよ、エドラヒル」
そう言うとエドラヒルはにっと笑った。白い歯が水晶に拡大されて映る。
『それでは、やるぞ。――”風穴を開ける者”オリヴァーよ』
《――長期間、使用されなかったため、通信の確認を行います――》
抑揚のない声が、真っ暗な空間に響く。
《“秘密の質問”を選択し、回答をご登録ください。回答を通信相手が正解できた場合、使用制限を解除します》
「……なんだ、それは」
思わずつぶやいた。
これは、自動でこの水晶から音が出ているのか?
こんな魔法は、聞いたことがない。
「……古代の魔法技術は、すごいな……」
これを持って帰ったら、大発見だ。
――管理室の事務係から研究職に異動できるのは、確実だろう。
さきほどまで異空間に閉じ込められた恐怖でばくばくしていた心臓が、今度は高揚で鼓動を速めるのを感じた。
――けれど。
「問題は――ここから出られるか、だな」
水晶はなおも言葉を続ける。
《“秘密の質問”を下記から選択。回答を登録してください。
一、二人の思い出の場所は?
二、あなたの好きな花は?
三、次の誕生日に欲しいものは?
四、あなたの初めて飼育したペットの名前は?》
「……なんだ、それは……」
俺は暗闇で一人、唸った。
要は、この質問を選択し、回答を登録し――それをエドラヒルが正解できれば通信がつながる、ということだろう。
――つまり、二人の関係性を鍵にした認証機構、か。
「……正解、できるか……?」
エドラヒルと知り合ってまだ数日。たいした話もしていな……いや、していたな。
俺はあいつに、思い出話をしたことを思い出した。
幼い頃、まだ辺境民として暮らしていた時に、星鈴草の花畑で、風の精霊と対話できることに気づいた話。
誰にも言ったことのない、俺の魔法使いとしての原点。
……覚えているだろうか。
この質問以外は、エドラヒルが俺について答えられそうなものがない。
――これにするしかない。
「……二、あなたの好きな花は?」
《回答をお願いします》
「星鈴草、だ」
《登録いたしました》
俺は大きく息を吐いた。
――正解できなければ、仕方ない。それならそれで、別の方法を考えるしかない。
この隠し空間には入れたのだから、ここから出る方法もあるはずだ。
――そのとき、水晶の放つ光が強くなって、水晶玉の表面が揺らいだ。
『……おーい、オリヴァーよー……聞こえるか』
もはや聞きなれたやや尊大な声とともに、水晶の表面が波打ち、エドラヒルの拡大された顔が歪に浮かび上がった。
紫の瞳と鼻がやたらと大きく映っている。
拡大されても陶器のような造形なのが憎らしい気もするが、俺は大きく息を吐いた。
「……聞こえるよ……良かった……」
『驚いたぞ。水晶がな、急に話し出したんだ。お前の好きな花はなんだと聞いてきた』
「――正解したんだな。良かった……」
『お前の好きな花は星鈴草だ。私は人の好きな花は一度聞いたら忘れないぞ』
俺は笑った。
――そのあとで、ふと目元が潤んでいることに気がついた。
自分が思っている以上に、安心したようだ。
「――閉じ込められてしまった。俺が迂闊だった……申し訳ない」
『……気にするな。捕獲用の簡易の結界だろう。すぐに出られるはずだぞ』
「……どうやれば、出られる?」
『最初にこの隠し空間に入ったのと、同じ方法でやろう。――今から、私が外で植物を発芽させて、空間を揺らす。お前は、風で裂け目を探り、穴を開けろ。――通信ができているのだ。そこに綻びがあるはずだ』
「――わかった。頼むよ、エドラヒル」
そう言うとエドラヒルはにっと笑った。白い歯が水晶に拡大されて映る。
『それでは、やるぞ。――”風穴を開ける者”オリヴァーよ』
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